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ビルバオ風とは?バスク地方の港町が生んだ魚料理の魅力

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「ビルバオ風」についてお話していきたいと思います。スペイン料理と聞いて、パエリアやアヒージョを思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、スペイン北部のバスク地方には、まだ日本ではあまり知られていない魅力的な料理が数多く存在します。その中でも「ビルバオ風」は、港町ビルバオの名を冠した、シンプルながら奥深い魚料理です。

初めてビルバオ風の料理に出会ったとき、そのシンプルな見た目からは想像できないほど豊かな味わいに驚かされました。ニンニクの香ばしさ、オリーブオイルのまろやかさ、そして鷹の爪のピリッとした刺激が絶妙に調和し、魚の旨味を最大限に引き出していたのです。

港町の恵みが生んだ「ビルバオ風」の正体

ビルバオ風とは、スペイン・バスク地方の都市ビルバオに由来する魚料理の調理法を指します。主に白身魚(鯛、ヒラメなど)を使用し、ニンニク、オリーブオイル、鷹の爪、パセリを基本とした、シンプルながら風味豊かなソースで仕上げる料理です。

この料理の特徴は、何と言ってもその調理法にあります。魚を軽く焼いた後、別鍋でニンニクを香ばしく炒め、鷹の爪とともにオリーブオイルで風味を移し、最後にスープやビネガーを加えて乳化させたソースを魚にかけるという手法。一見単純に見えますが、オイルの温度管理やソースの乳化具合など、実は繊細な技術が求められる料理なのです。

鉄鋼と造船の街が育んだ食文化

ビルバオは、かつて鉄鋼業や造船業で栄えた港町でした。19世紀から20世紀にかけて、この地域は急速な工業化を遂げ、スペイン第2の工業地帯として発展しました。港には世界中から船が行き交い、新鮮な魚介類が豊富に水揚げされていたのです。

労働者たちが求めたのは、手早く作れて栄養価が高く、しかも美味しい料理でした。ビルバオ風は、まさにそんなニーズから生まれた料理と言えるでしょう。新鮮な魚と、バスク地方で古くから親しまれてきたニンニクやオリーブオイルを使い、シンプルながら満足感のある一皿に仕上げる。これこそが、港町ビルバオの食文化の真髄なのです。

ビルバオ風が持つ3つの魅力

ビルバオ風料理の魅力は、大きく3つの要素に集約されます。

まず第一に、素材の味を最大限に活かす調理法です。魚は軽く焼くだけで、過度な調理は行いません。これにより、魚本来の旨味と食感が保たれます。

第二に、香り豊かなソースの存在です。ニンニクをじっくりと炒めることで生まれる香ばしさ、鷹の爪のピリッとした刺激、そしてオリーブオイルのフルーティーな風味。これらが一体となったソースは、まさに”香りの交響曲”とでも言うべきでしょうか。

第三に、シンプルゆえの奥深さです。材料は少なく、手順も複雑ではありません。しかし、だからこそ一つ一つの工程が重要になります。ニンニクを焦がさず、でも香ばしく炒める。オイルを乳化させて、とろりとしたソースに仕上げる。こうした細やかな技術の積み重ねが、料理の完成度を左右するのです。

バスクからスペイン全土へ:地域ごとの個性

ビルバオ風は、今やスペイン全土で愛される料理となりました。しかし、地域によって微妙な違いが見られるのも興味深い点です。

本場ビルバオでは、伝統的に鯛を使うことが多いですが、ガリシア地方ではヒラメやカレイを使うことも。また、アンダルシア地方では、仕上げにシェリービネガーを加えて、より酸味を効かせたバージョンも見られます。

さらに、使用する鷹の爪の量も地域差があります。バスク地方では控えめに使いますが、南部に行くほど辛味を強くする傾向があるようです。これは各地域の気候や食文化の違いを反映していると言えるでしょう。

基本材料が織りなす味のハーモニー

ビルバオ風の基本材料は実にシンプルです。主役となる白身魚(鯛、ヒラメなど)、たっぷりのニンニク、良質なオリーブオイル、鷹の爪、新鮮なパセリ、そして魚のスープまたは白ワイン。これだけです。

しかし、それぞれの材料には重要な役割があります。ニンニクは薄切りにして、きつね色になるまでじっくりと炒めます。この工程で生まれる香ばしさが、料理全体の風味を決定づけるのです。オリーブオイルは、エクストラバージンオイルを使うことで、フルーティーな香りが加わります。

鷹の爪は種を取り除いて使いますが、辛さの調節はお好みで。パセリは最後に加えることで、爽やかな香りと鮮やかな緑色をプラスします。そして、仕上げに加えるスープやワインが、ソースに深みとコクを与えるのです。

伝統が息づく調理の極意

ビルバオ風の調理法は、一見シンプルですが、実は繊細な技術が求められます。

まず、魚は塩をして30分ほど置き、余分な水分を抜きます。これにより、身が締まり、焼いたときに崩れにくくなります。フライパンで両面を軽く焼きますが、ここでのポイントは「焼きすぎない」こと。表面に軽く焼き色がつく程度で十分です。

次に、別のフライパンでソース作りです。オリーブオイルを熱し、薄切りにしたニンニクを入れます。ここで重要なのは火加減。中火でじっくりと、ニンニクがきつね色になるまで炒めます。焦がしてしまうと苦味が出てしまうので、注意が必要ですね。

ニンニクが色づいたら、鷹の爪を加えて軽く炒め、魚のスープまたは白ワインを注ぎます。ここで”じゅわっ”と音を立てながら、オイルとスープが混ざり合います。フライパンを揺すりながら、ソースを乳化させていく。この瞬間が、料理人としての腕の見せ所と言えるでしょう。

最後に、このソースを魚にかけ、パセリを散らせば完成です。シンプルな工程の中に、長年培われてきた知恵と技術が詰まっているのです。

まとめ

ビルバオ風は、スペイン・バスク地方の港町ビルバオが生んだ、シンプルながら奥深い魚料理です。鉄鋼業と造船業で栄えた街の労働者たちに愛された、栄養価が高く美味しい一皿は、今や世界中の食通たちを魅了しています。

新鮮な白身魚、香ばしいニンニク、フルーティーなオリーブオイル、ピリッとした鷹の爪。これらの基本材料が織りなすハーモニーは、まさに海の恵みそのもの。伝統的な調理法を守りながらも、各地域で独自の進化を遂げているのも、この料理の魅力の一つです。

次回スペイン料理店を訪れた際には、ぜひ「ビルバオ風」を注文してみてください。あるいは、ご自宅でチャレンジしてみるのも良いでしょう。シンプルだからこそ奥が深い、バスクの港町が生んだこの料理の魅力を、きっと実感していただけるはずです。

さいごに

シェフレピでは、「アジのビルバオ風」のレッスンを公開しております!
アジを処理して開き、ビルバオ風に仕上げます。ニンニクの風味とビネガーの酸味との相性は抜群です。ぜひこの機会にチェックしてみてください!

アジのビルバオ風/ETXOLA(エチョラ) 清水和博

開いたアジを焼いて食べるのは、バスク地方では定番。バスク最大の都市・ビルバオでは野菜と一緒にオーブンで焼いて、ビネガーとニンニクオイルを利かせて食べます。ビネガーにニンニクなどを効かせたオイルソースをサルサ・ビルバイーナ(ビルバオ風ソース)ともいい、アジ以外でもイワシやタイなど魚料理によく合います。
ジャガイモとタマネギのオイル蒸し焼き「パナデラ」(パン屋の意味)も1品料理として再チャレンジできます。

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