この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

Table of Contents
はじめに
フロランタンという名前を聞いて、どんなお菓子を思い浮かべるでしょうか?サクサクとしたクッキー生地の上に、キャラメルでコーティングされた香ばしいアーモンドがたっぷりとのった、あの黄金色に輝く焼き菓子です。一口かじれば、カリッとしたアーモンドの食感とバターの風味豊かなサブレ生地が口の中で溶け合い、キャラメルの甘さが後を引く。フランス菓子の代表格として知られるフロランタンですが、実はその起源はイタリアにあります。
この記事では、フロランタンの歴史的背景や名前の由来、そして何がこの菓子を特別なものにしているのかを詳しく紐解いていきます。
「フィレンツェの菓子」が持つ意味
フロランタンという名称は、フランス語で「フィレンツェの」を意味する「florentin」に由来します。フィレンツェはイタリア・トスカーナ地方の古都で、英語では「フローレンス(Florence)」と呼ばれることから、この名前が生まれました。ドイツでは「フロレンティーナ(Florentiner)」と呼ばれており、いずれも「フィレンツェの(お菓子)」という意味を持っています。
また、フィレンツェの語源である「フロレンティア(Florentia)」は、ローマ神話の花の女神フローラに由来するとも言われています。この美しい響きが、菓子の名前にも受け継がれているのです。名前そのものが、イタリアの芸術と文化の都フィレンツェへのオマージュとなっているわけですね。
ちなみに、フロランタンは長方形やスティック型にカットされることが多く、その形状も特徴的です。黄金色に輝くアーモンドの層が、まるで宝石のように美しい。
メディチ家の姫が運んだ甘美な伝統
フロランタンの歴史には、ヨーロッパの王室を巡る興味深い物語が絡んでいます。最も有名な説は、16世紀にイタリアの名門メディチ家出身のカトリーヌ・ド・メディシスが、フランス王アンリ2世に嫁ぐ際にこの菓子をイタリアから持ち込んだというものです。
カトリーヌは1533年、わずか14歳で後のフランス王太子アンリと結婚しました。彼女はフィレンツェから多くの料理人や菓子職人を伴ってフランスへ渡り、イタリアの洗練された食文化をフランス宮廷にもたらしたと言われています。フロランタンもその一つで、フランスの菓子文化に大きな影響を与えました。
一方で、パリの製菓職人フロラン(Florent)が考案したという別の説も存在します。この説によれば、フロランタンはイタリアとは無関係に、フランスで独自に生まれた菓子だということになります。真相ははっきりしませんが、いずれにせよ現在ではフランスを代表する焼き菓子として広く認知されているのは間違いありません。
歴史の謎が残るからこそ、フロランタンには一層のロマンが感じられるのではないでしょうか。
ふたつの層が織りなす香ばしさとリッチな味わい
フロランタンの最大の魅力は、その独特の食感と味わいの層にあります。基本的な構造は、サクサクとしたサブレ生地(またはシュクレ生地)の上に、キャラメルでコーティングしたスライスアーモンドをたっぷりとのせて焼き上げたものです。
サブレ生地はバターをふんだんに使った厚焼きのクッキーで、ほろほろと崩れるような食感が特徴。その上のアーモンド層は、砂糖、バター、生クリーム、蜂蜜などで作ったキャラメルでアーモンドをコーティングし、カリカリに焼き上げたものです。この二つの層が一体となることで、サクサク、カリカリ、そしてほろほろという複雑な食感が生まれます。
味わいの面では、バターの風味豊かなサブレ生地と、香ばしく焼き上げられたアーモンド、そしてキャラメルの甘さが絶妙なバランスを保っています。アーモンドの香ばしさが広がり、キャラメルの甘さが後を引く。リッチでありながら、しつこくない。この絶妙なバランスこそが、フロランタンが長年愛され続けている理由でしょう。
フランス全土で愛される定番菓子
フロランタンは、フランス全土のパティスリー(菓子店)で見かけることができる定番の焼き菓子です。地域によって若干の違いはあるものの、基本的な構造は共通しています。
パリをはじめとする都市部では、高級パティスリーが独自のレシピでフロランタンを提供しており、アーモンドの量や焼き加減、キャラメルの配合などに各店のこだわりが反映されています。中には、チョコレートでコーティングしたバージョンや、ヘーゼルナッツやピスタチオなど他のナッツを使ったアレンジバージョンも存在します。
また、フロランタンは日持ちする焼き菓子であるため、贈り物としても人気があります。長方形やスティック型にカットされた姿は見た目にも美しく、ギフトボックスに詰められた様子は高級感があります。
日本でも、フランス菓子専門店や洋菓子店で広く販売されており、手土産やプレゼントとして定番の人気を誇っています。
サブレ、キャラメル、アーモンドの三位一体
フロランタンを構成する材料は、実にシンプルです。主な材料は、サブレ生地、キャラメル、そしてアーモンドの三つ。しかし、このシンプルさこそが、素材の質と技術の差を際立たせます。
サブレ生地には、小麦粉、バター、砂糖、卵が使われます。バターの配合が多いほど、ほろほろとした食感が生まれます。生地は厚めに敷き詰められ、しっかりと焼き上げられることで、アーモンド層を支える土台となります。
キャラメルは、砂糖、バター、生クリーム、蜂蜜などを煮詰めて作られます。このキャラメルがアーモンドを包み込み、焼き上げることでカリカリとした食感を生み出します。キャラメルの煮詰め具合が、仕上がりの食感を大きく左右するため、職人の腕の見せ所です。
アーモンドは、スライスアーモンドが一般的に使われます。薄くスライスされたアーモンドは、キャラメルと絡みやすく、焼き上げたときに香ばしさが際立ちます。アーモンドの量が多いほど、食感と香りが豊かになります。
この三つの材料が、それぞれの役割を果たしながら一体となることで、フロランタン独特の味わいが完成するのです。
焼き加減が命を分ける伝統の技法
フロランタンの伝統的な調理法は、二段階の焼成プロセスを経ます。まず、サブレ生地を型に敷き詰めて焼き上げます。
次に、キャラメルを作ります。鍋に砂糖、バター、生クリーム、蜂蜜を入れて中火にかけ、絶えずかき混ぜながら煮詰めていきます。キャラメルが適度な濃度になったら、スライスアーモンドを加えて全体に絡めます。このキャラメルの煮詰め具合が、仕上がりの食感を決定づけます。煮詰めすぎると硬くなりすぎ、煮詰めが足りないと柔らかくなってしまう。まさに職人技が求められる瞬間です。
キャラメルとアーモンドを混ぜ合わせたら、焼き上げたサブレ生地の上に均一に広げ、再びオーブンで焼きます。この二度目の焼成で、キャラメルが固まり、アーモンドがカリカリに焼き上がります。焼き色が黄金色になったら完成です。
冷ましてから、長方形やスティック型にカットします。切り分ける際も、キャラメル層が割れないように丁寧に扱う必要があります。
伝統的な製法を守りながらも、各パティスリーが独自の工夫を凝らしているのがフロランタンの面白いところですね。
まとめ
フロランタンは、イタリア・フィレンツェを起源とし、16世紀にフランスへ伝わった歴史ある焼き菓子です。「フィレンツェの」という意味を持つその名前には、メディチ家の姫カトリーヌ・ド・メディシスが運んだ文化の香りが漂っています。
サクサクのサブレ生地、カリカリのキャラメルアーモンド、そしてバターの風味が織りなす三層の味わいは、シンプルでありながら奥深い。フランス全土で愛され、日本でも定番の人気を誇るのは、この絶妙なバランスと職人の技術があってこそです。
フロランタンを一口かじるたびに、ルネサンス期のフィレンツェからフランス宮廷へと続く、甘美な歴史の旅を感じることができます。次にパティスリーを訪れた際には、ぜひフロランタンを手に取ってみてください。その黄金色の輝きの中に、何世紀にもわたる菓子職人たちの情熱が詰まっていることを、きっと感じていただけるはずです。























