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ケジャンとは?韓国の「ご飯泥棒」と呼ばれる蟹料理の魅力を徹底解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「ケジャン」についてお話ししていきたいと思います。韓国料理の中でも特に印象的な料理のひとつ、ケジャン。生のワタリガニを醤油や塩ダレに漬け込んで熟成させたこの料理は、その濃厚な旨味と独特の食感で、韓国では「パットドゥッ(ご飯泥棒)」という愛称で親しまれています。一度食べたら忘れられない、まさに韓国の食文化を代表する逸品です。

初めてケジャンを口にしたときの衝撃は今でも忘れられません。生のカニを食べるという概念に最初は戸惑いましたが、とろけるような身の甘さと醤油ダレの絶妙なハーモニーに、思わず白いご飯をおかわりしてしまいました。まさに「ご飯泥棒」の名にふさわしい魅力的な料理ですね。

生のカニが織りなす韓国の伝統美味

ケジャンは、韓国料理の一つで、生のワタリガニを塩や特製のタレに漬け込んで熟成させた料理です。

料理名の由来は実にシンプルで、韓国語でカニを意味する「ケ(蟹)」と、醤油や味噌を意味する「ジャン(醤)」を組み合わせたものです。この名前からも分かるように、カニと調味料の出会いが生み出した、まさに韓国らしい発酵・熟成文化の結晶といえるでしょう。

現在では大きく分けて2つのタイプが存在します。1990年代から韓国で流行し始めた醤油味の「カンジャンケジャン」と、唐辛子を使った辛味の効いた「ヤンニョムケジャン」です。どちらも生のまま食べるのが基本で、加熱調理はしません。この”生食”という点が、ケジャンの最大の特徴であり、同時に多くの人を魅了するポイントでもあります。

400年の歴史が育んだ韓国の食文化

朝鮮半島でケジャンが食べられ始めたのは、なんと1600年代頃と推定されています。圭合叢書、周房門、信義全書といった古文書にも、ケジャンに関する記録が残されているんです。

当時の朝鮮半島では、カニは比較的簡単に手に入る食材でした。そして各家庭には必ず醤油があった。この2つの要素が組み合わさって、ケジャンという料理が生まれたのでしょう。食材の入手が困難な時代でも、この組み合わせなら庶民でも楽しめる、まさに生活の知恵から生まれた料理だったのです。

興味深いのは、現在私たちが「カンジャンケジャン」と呼んでいる醤油味のケジャンが、実は元祖のケジャンだということ。1990年代にヤンニョムケジャンが登場して人気を博すまでは、単に「ケジャン」といえば醤油味のものを指していました。ヤンニョムケジャンの登場により、区別する必要が生じて「カンジャンケジャン」という名前が定着したわけです。

2000年代に入ってからは、韓国を超えて世界的な人気を獲得。特に日本では、醤油文化や海産物を生で食べる習慣があることから、すんなりと受け入れられました。韓流ブームも手伝って、韓国を訪れる日本人観光客の定番グルメのひとつになっています。

とろける食感と濃厚な旨味の秘密

ケジャンの最大の魅力は、何といってもその独特の食感と味わいにあります。

生のカニの身は、加熱したものとは全く異なる、とろりとした食感を持っています。まるで海の恵みをそのまま凝縮したような、濃厚でクリーミーな舌触り。これに醤油ベースのタレが染み込むことで、カニ本来の甘みと旨味が引き立てられ、複雑で奥深い味わいが生まれるのです。

カンジャンケジャンの場合、醤油の塩味と旨味がカニの甘みを引き立て、まろやかな味わいに。一方、ヤンニョムケジャンは唐辛子の辛味とニンニクの風味が加わることで、パンチの効いた刺激的な味わいになります。どちらも白いご飯との相性は抜群で、「パットドゥッ(ご飯泥棒)」と呼ばれる理由がよく分かります。

また、カニの内子(卵)や味噌の部分も重要な要素です。特にメスのワタリガニを使った場合、オレンジ色の内子のコクのある味わいが加わり、より一層贅沢な味わいになります。この内子をご飯に混ぜて食べるのも、ケジャンの醍醐味のひとつですね。

地域で異なる味わいの世界

韓国国内でも、地域によってケジャンの作り方や味付けには違いがあります。

例えば、全羅道地方では比較的薄味で、カニ本来の味を生かした仕上がりが特徴。一方、慶尚道地方では濃い目の味付けが好まれる傾向があります。

最近では、エビを使った「セウジャン」という派生料理も登場しています。カニの代わりにエビを使うことで、より手軽に楽しめるようになりました。また、日本では日本人の味覚に合わせて、やや甘めに調整されたケジャンも提供されています。

新鮮なワタリガニと秘伝のタレが決め手

ケジャンの基本的な材料は、実にシンプルです。

主役はもちろんワタリガニ。韓国では「コッケ」と呼ばれる種類が一般的に使われます。メスなら冬から産卵前の5月〜6月頃、オスなら7月〜10月頃に獲れるものが最も美味とされています。ただし、現在では急速冷凍技術の発達により、年間を通じて楽しめるようになりました。

カンジャンケジャンの場合、基本の調味料は醤油、みりん、砂糖、にんにく、生姜、ネギ、唐辛子など。これらを煮立てて冷ました後、カニを漬け込みます。家庭や店によって、リンゴや梨を加えて自然な甘みを出したり、昆布だしを使って旨味を増したりと、様々な工夫がされています。

ヤンニョムケジャンの場合は、コチュジャン、粉唐辛子、にんにく、生姜、ごま油などが主な調味料。辛味と香味野菜の風味が特徴的で、より刺激的な味わいになります。

重要なのは、カニの鮮度と下処理。生で食べる料理だけに、新鮮さは絶対条件です。また、カニの甲羅を開いて内臓を丁寧に取り除き、きれいに洗浄する作業も欠かせません。この下処理の丁寧さが、最終的な味わいを大きく左右するんです。

伝統の漬け込み技法と熟成の妙

ケジャンの調理法は、一見シンプルに見えて実は奥が深いものです。

まず、カニの下処理から始まります。生きたワタリガニを使う場合は、氷水で締めてから作業を開始。甲羅を開いて内臓を取り除き、エラを外し、流水でよく洗います。この時、カニの身を傷つけないよう細心の注意が必要です。

カンジャンケジャンの場合、醤油ベースのタレを一度煮立てて冷ますのがポイント。熱いタレをかけるとカニが半生状態になってしまうため、必ず冷ましてから使います。カニをタレに漬けた後、2〜3日ごとにタレを取り出して再度煮立て、冷ましてから戻す作業を2〜3回繰り返します。この工程により、タレがカニにしっかりと染み込み、同時に熟成も進むのです。

ヤンニョムケジャンの場合は、調味料を混ぜ合わせたタレにカニを和えるだけ。カンジャンケジャンに比べて手軽ですが、その分、調味料のバランスが重要になります。

熟成期間は好みによりますが、カンジャンケジャンなら最低でも3日、理想的には1週間程度。ヤンニョムケジャンは1〜2日程度で食べ頃になります。熟成が進むほど味は深まりますが、あまり長期間置くと身が柔らかくなりすぎることも。このあたりの見極めも、美味しいケジャンを作る秘訣といえるでしょう。

まとめ

ケジャンは、400年以上の歴史を持つ韓国の伝統料理でありながら、現代でも進化を続けている魅力的な料理です。生のワタリガニを醤油や唐辛子ダレに漬け込むというシンプルな調理法ながら、その味わいは実に奥深く、一度食べたら忘れられない印象を残します。

カンジャンケジャンの上品な旨味も、ヤンニョムケジャンの刺激的な辛さも、どちらも韓国の食文化が生み出した傑作といえるでしょう。「パットドゥッ(ご飯泥棒)」という愛称が示すように、白いご飯との相性は抜群。韓国を訪れた際には、ぜひ本場のケジャンを味わってみてください。

最近では日本でも韓国料理店で提供されることが増え、通販でも購入できるようになりました。生食に抵抗がある方もいるかもしれませんが、新鮮な食材と適切な調理法で作られたケジャンは、安全で美味しい料理です。韓国の食文化の奥深さを感じられる、まさに一度は体験すべき味わいではないでしょうか。

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