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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「マルゲリータ」についてお話ししていきたいと思います。赤いトマトソース、白いモッツァレラチーズ、そして緑のバジル。この3色が織りなすハーモニーは、まさにイタリアの国旗を彷彿とさせる美しさですね。世界中のピッツェリアで必ず見かけるこの定番ピザには、実は130年以上も前に遡る興味深い物語が隠されています。
本場ナポリのピッツェリアでマルゲリータを口にした時の感動は、今でも鮮明に覚えています。薪窯から取り出されたばかりの熱々のピザから立ち上る、バジルとトマトの香り。とろけるモッツァレラの糸を引きながら頬張った一口目の衝撃は、まさに「これがピザの原点なのか」と思わせるものでした。
シンプルの極致、マルゲリータの正体
マルゲリータ(Pizza Margherita)は、イタリア料理の中でも特に有名なピザの一種で、ナポリピッツァの代表格として世界中で愛されています。その特徴は何と言ってもシンプルさ。トマトソースをベースに、モッツァレラチーズとバジルの葉を乗せただけという、極めてシンプルな構成でありながら、その味わいは奥深く、「ピザの王道」と呼ばれるにふさわしい完成度を誇ります。
このピザの魅力は、素材の良さがダイレクトに伝わることにあるのではないでしょうか?いや、むしろ素材の良さを最大限に引き出すための、究極のミニマリズムと言えるかもしれません。余計な具材を一切加えず、3つの要素だけで勝負する潔さ。それがマルゲリータの真骨頂です。
王妃に捧げられた三色旗の物語
マルゲリータの誕生は1889年、イタリア統一後まもない時代に遡ります。当時のイタリア王ウンベルト1世の王妃、マルゲリータ・ディ・サヴォイア(1851-1926)がナポリを訪問した際の出来事が、このピザの名前の由来となっています。
王妃のナポリ訪問に際し、地元の有名ピッツァ職人ラファエレ・エスポジトが3種類のピザを献上しました。その中の一つが、トマトの赤、モッツァレラの白、バジルの緑というイタリア国旗の三色を表現したピザでした。王妃はこのピザを特に気に入り、その後このピザは「マルゲリータ」と呼ばれるようになったと言われています。
ただし、この逸話には諸説あり、実際にはマルゲリータという名前のピザは王妃の訪問以前から存在していたという研究もあります。とはいえ、王妃への献上をきっかけにこの名前が広まったことは間違いないでしょう。歴史のロマンを感じますね。
三位一体の味わいが生む奇跡
マルゲリータの最大の特徴は、たった3つの具材で構成されながらも、それぞれが見事に調和し、豊かな味わいを生み出すことです。
まず土台となるトマトソース。サン・マルツァーノ種のトマトを使った濃厚で酸味のあるソースが、ピザ全体の味を引き締めます。次にモッツァレラチーズ。水牛のミルクから作られるモッツァレラ・ディ・ブッファラが理想的とされていますが、牛乳製のフィオル・ディ・ラッテも広く使われています。そして最後にバジル。フレッシュなバジルの葉が、爽やかな香りと彩りを添えます。
この組み合わせ、実は栄養学的にも理にかなっているんです。トマトのリコピンとチーズの脂肪分が合わさることで、リコピンの吸収率が上がるという研究結果もあるそうです。美味しさと栄養、両方を兼ね備えた、まさに完璧な一品と言えるでしょう。
世界各地で愛される多様なマルゲリータ
イタリア発祥のマルゲリータですが、今では世界中で独自の進化を遂げています。
本場ナポリでは、薪窯で高温短時間(約90秒)で焼き上げる伝統的なスタイルが守られています。生地の縁(コルニチョーネ)がぷっくりと膨らみ、中心部は薄くてもちもちとした食感が特徴です。一方、ローマスタイルのマルゲリータは、生地が薄くてパリパリとした食感を持ち、より軽い仕上がりになります。
アメリカでは「ニューヨークスタイル」として、大きくて薄い生地に、たっぷりのチーズを乗せたボリューミーなマルゲリータが人気です。日本では、マヨネーズやコーンをトッピングした”和風マルゲリータ”なども見かけますが、これはもはや別物かもしれませんね。でも、それぞれの国や地域で愛される形に変化していくのも、マルゲリータの魅力の一つではないでしょうか。
素材選びが決め手!本格マルゲリータの材料
本格的なマルゲリータを作るには、素材選びが何より重要です。
ピザ生地には、イタリアのカプート社などの専用の小麦粉(Tipo 00)を使用するのが理想的です。水、塩、イーストを加えて、じっくりと発酵させることで、もちもちとした食感と香ばしい風味が生まれます。
トマトソースは、サン・マルツァーノ種のホールトマトを軽く潰し、塩だけで味を調えます。フレッシュな酸味を残すことで、チーズとのバランスが取れるんです。
モッツァレラチーズは、できれば水牛のミルクから作られたモッツァレラ・ディ・ブッファラを。手に入らない場合は、牛乳のモッツァレラでも十分美味しく仕上がります。使用前に水気をしっかり切ることが、べちゃっとしない秘訣です。
バジルは必ずフレッシュなものを。乾燥バジルでは、あの爽やかな香りは再現できません。焼き上がり直前に乗せることで、香りを最大限に引き出せます。
これらの素材を揃えるのは少し大変かもしれませんが、本物の味を追求するなら、ぜひこだわってみてください。
薪窯が生む魔法、伝統の焼き方
本場ナポリのマルゲリータは、400〜500度の高温の薪窯で焼き上げられます。この温度、家庭用オーブンではまず再現できません。でも、なぜこんなに高温で焼く必要があるのでしょうか?
高温で短時間焼くことで、生地の外側はカリッと、内側はもちもちとした理想的な食感が生まれます。また、チーズは溶けすぎず、トマトソースも水っぽくならない。旨味が凝縮された状態で仕上がるんです。
家庭で作る場合は、オーブンを最高温度(通常250度程度)に予熱し、ピザストーンやスキレットを使うことで、少しでも高温調理に近づけることができます。また、最後に魚焼きグリルで表面を焼くという裏技もあります。完璧な再現は難しくても、工夫次第で本格的な味に近づけることは可能です。
焼き上がったマルゲリータに、仕上げのエクストラバージンオリーブオイルをひと回し。これで完成です。シンプルだからこそ、一つ一つの工程に愛情を込めることが大切なんですね。
まとめ
マルゲリータは、たった3つの具材で構成されるシンプルなピザでありながら、130年以上の歴史を持ち、世界中で愛され続ける「ピザの王道」です。
1889年にイタリア王妃マルゲリータに献上されたという逸話から名付けられたこのピザは、トマトの赤、モッツァレラの白、バジルの緑というイタリア国旗の三色を表現し、まさにイタリアの誇りとも言える一品となりました。
その魅力は、素材の良さを最大限に引き出すシンプルさにあります。良質なトマトソース、新鮮なモッツァレラチーズ、香り高いバジル。この三位一体が生み出す味わいは、複雑な具材を乗せたピザでは決して再現できない、唯一無二のものです。
世界各地で独自の進化を遂げながらも、その本質は変わらず受け継がれているマルゲリータ。次にピザを食べる機会があったら、ぜひこのシンプルな王道を選んでみてはいかがでしょうか。きっと、その奥深い味わいに改めて感動することでしょう。