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はじめに:魅惑のインドカレー、ポークビンダルーの世界へ
「ポークビンダルー」という料理をご存知でしょうか? 近年、カレー専門店やレトルト食品でも見かける機会が増え、その独特な響きと味わいに興味を持つ方も多いのではないでしょうか。この記事では、インド・ゴア地方発祥とされるスパイシーで酸味の効いたカレー、ポークビンダルーの魅力に迫ります。その歴史的背景から、特徴的な味わい、基本的な材料まで、深く掘り下げていきましょう。
私が初めてポークビンダルーを知ったのは、渋谷にあるセルリアンタワー東急ホテルでの修行時代のことです。インド人のシェフが賄い(まかない)で作ってくれたのですが、その洗練された酸味と、後から静かに広がる複雑なスパイスの奥行きに感銘を受けたのを覚えています。豚肉の旨味と相まって、まさに心に残る上品な味わい。一度食べたら忘れられない、そんな奥深い魅力がポークビンダルーにはあるのです。
シェフレピのレッスン撮影時に、エリックサウスの稲田シェフの話では、ポルトガルがカレーの由来であることからも、欧州を思わせるようなニュアンスがあり、他のインドカレーと比べても上品な味わいで、そのことからも仕上げにセルフィーユを乗せ、黒胡椒を振りかけているとおっしゃっていました。
ポークビンダルーってどんな料理? その定義と概要
ポークビンダルーは、西インドのゴア地方を起源とする、豚肉を使ったカレー料理です。最大の特徴は、酢(ビネガー)とニンニクをふんだんに使うことによる、はっきりとした酸味と、唐辛子や各種スパイスが織りなす刺激的な辛味にあります。
一般的なインドカレーとは一線を画す、この独特の風味は、後述する歴史的背景と深く関わっています。豚肉をスパイスと酢でマリネしてから煮込むのが伝統的なスタイルで、これにより肉が柔らかくなり、味がしっかりと染み込みます。まさに、時間と手間が生み出す深い味わいと言えるでしょう。
酸味と辛味のルーツを探る:ポークビンダルーの歴史
ポークビンダルーの起源は、大航海時代のポルトガルにまで遡ると言われています。当時、インドのゴア地方はポルトガルの植民地でした。ポルトガル人が船上での食料保存のために、肉をワインビネガーとニンニクで漬け込んだ料理「カルネ・デ・ヴィーニャ・ダリョス(Carne de Vinha d’Alhos)」を持ち込んだのが始まりとされています。
このポルトガル料理が、ゴアの地で手に入る唐辛子や様々なスパイスと融合し、現地の食文化に合わせて変化を遂げた結果、現在の「ビンダルー」が誕生したと考えられています。当初は豚肉が主でしたが、現在では鶏肉や羊肉、さらには魚介類を使ったビンダルーも存在します。料理の名前も、「ヴィーニャ・ダリョス」が訛って「ビンダルー」になったという説が有力です。歴史が生んだ、まさに文化のフュージョン料理ですね。
五感を刺激する!ポークビンダルーの魅力
ポークビンダルーの魅力は、何と言ってもその鮮烈な酸味と辛味のコンビネーションです。
- 突き抜ける酸味: 酢(多くはワインビネガーやモルトビネガー、米酢などが使われる)由来のキリッとした酸味が、味全体の輪郭を引き締めます。この酸味が、豚肉の脂の甘みや旨味と絶妙なコントラストを生み出すのです。
- 複雑な辛味: 唐辛子の直接的な辛さに加え、ニンニク、生姜、そしてクローブ、シナモン、クミン、マスタードシードといった多様なスパイスが重なり合い、深みのある辛さを構築します。ただ辛いだけじゃない、後を引く複雑さがたまりません。
- 豚肉の旨味: じっくりとマリネされ、煮込まれた豚肉は、ホロリと柔らかく、スパイスと酸味を吸い込んで濃厚な旨味を放ちます。バラ肉や肩ロースなどの部位が使われることが多いですね。
これらの要素が一体となり、他のインドカレーでは味わえない、独特で中毒性の高い風味を生み出しています。暑い日に食べると、その酸味と辛さが食欲を刺激し、爽快感すら感じさせてくれるかもしれません。
地域ごとの個性?ポークビンダルーのバリエーション
ポークビンダルーはゴア地方発祥ですが、インド国内や、さらには世界中のインド料理店で提供される中で、様々なバリエーションが生まれています。
ゴアの中でも家庭やレストランによってレシピは微妙に異なり、使う酢の種類、スパイスの配合、辛さのレベルなどに個性が見られます。例えば、よりマイルドにするためにココナッツミルクを加えるレシピや、辛さを強調するために唐辛子の種類を変えるレシピなどがあります。
また、前述の通り、豚肉以外の具材を使ったビンダルーも人気です。チキンビンダルーやマトンビンダルー、プラウン(エビ)ビンダルーなど、主役が変わればまた違った味わいが楽しめます。これもまた、食文化の面白いところですね。
味の決め手はこれ!ポークビンダルーの材料
本格的なポークビンダルーを作るための基本的な材料を見てみましょう。もちろん、レシピによって細部は異なりますが、核となる要素は共通しています。
- 豚肉: バラ肉や肩ロース肉が一般的。適度な脂身があり、じっくり煮込むことで、とろけるような柔らかさになります。
- 酢: 一般的にはワインビネガー、モルトビネガー、米酢、あるいはココナッツビネガーなどが使われます。稲田シェフの話によると、レモン果汁やバルサミコ酢を使用するシェフもいるそうです。作り手の個性が光って面白いですね。
- 香味野菜: ニンニクと生姜は欠かせません。すりおろしたり、みじん切りにしたりして、たっぷりと使います。
- スパイス:
- ホールスパイス(原型):クローブ、シナモンスティック、カルダモン、マスタードシードなど。油で熱して香りを引き出します。
- パウダースパイス:唐辛子(カイエンペッパーやカシミールチリなど)、クミン、コリアンダー、ターメリック、ブラックペッパーなど。これらを組み合わせて複雑な風味を作ります。
- その他: 玉ねぎ、トマト(加える場合と加えない場合がある)、塩、砂糖(味の調整用)など。
これらの材料を揃え、バランス良く組み合わせることが、美味しいポークビンダルーへの第一歩となります。特にスパイスの種類と配合が、お店や家庭ごとの個性を生み出す鍵と言えるでしょう。
本場の味への挑戦:伝統的な調理のヒント
ポークビンダルーを美味しく作るための伝統的な調理法には、いくつかのポイントがあります。これらのヒントを押さえることで、より本格的な味わいに近づけるはずです。
- マリネはしっかりと: 最も重要な工程の一つが、豚肉を酢、ニンニク、生姜、スパイスでマリネすることです。最低でも数時間、できれば一晩冷蔵庫で寝かせることで、肉が柔らかくなり、味が芯まで染み込みます。このひと手間が、深みを“グッ”と引き上げます。
- スパイスの香りを引き出す: ホールスパイスは、調理の最初に油でじっくりと熱し(テンパリング)、香りを最大限に引き出します。焦がさないように注意が必要です。パウダースパイスは、玉ねぎなどを炒めた後に加え、弱火で丁寧に炒めることで、粉っぽさがなくなり香りが立ちます。
- じっくり煮込む: マリネした肉とスパイス、その他の材料を合わせたら、焦げ付かないように時々混ぜながら、弱火でじっくりと煮込みます。肉が柔らかくなり、ソースにとろみがつくまで、時間をかけることが大切です。
これらのポイントは、他の煮込み料理にも通じる基本ですが、ポークビンダルー特有の酸味とスパイス感を最大限に活かすためには特に重要です。本格的な味を目指すなら、ぜひ意識してみてください。

まとめ:酸味と辛味が織りなす、忘れられない味
ポークビンダルーは、単なる辛いカレーではありません。ポルトガル料理の影響を受けた歴史的背景を持ち、酢の酸味、ニンニクの風味、そして多様なスパイスが織りなす、複雑で奥行きのある味わいが特徴の、個性的なインド・ゴア料理です。
豚肉をスパイスと酢でマリネし、じっくり煮込むことで生まれるその独特の風味は、一度体験すると忘れられないインパクトがあります。近年、日本でその人気が高まっているのも頷けますね。この記事を通して、ポークビンダルーの魅力が少しでも伝われば幸いです。もし見かける機会があれば、ぜひその刺激的な酸味と辛味の世界を体験してみてください。きっと、あなたもその虜になるはずです。
さいごに
シェフレピでは、2人のシェフによるそれぞれ個性の光る2種の「ポークビンダルー」のレッスンを公開しております!どちらも挑戦しやすいレッスンとなっておりますので、ぜひお気に入りのレシピを見つけてみてください!