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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「ソムタム」についてお話ししていきたいと思います。ソムタムは、東南アジアの食文化を代表する料理の一つとして、世界中で愛されているタイの国民的サラダです。青いパパイヤを主役に、唐辛子の辛さ、ライムの酸味、パームシュガーの甘味が絶妙に調和した一品は、一度食べたら忘れられない味わいを持っています。本記事では、ラオスとタイのイサーン地方で生まれたこの伝統料理の歴史から、地域ごとの特色、そして本格的な調理法まで、ソムタムの魅力を余すところなくお伝えします。
青パパイヤが主役!ソムタムという料理の正体
ソムタムは、熟していない青いパパイヤを千切りにし、調味料と共に臼で叩いて作るサラダです。タイ語で「ソム」は酸っぱい、「タム」は叩くという意味を持ち、その名の通り、酸味のある味付けと独特の調理法が特徴となっています。
もともとは「タムマークフン」というラオス料理として誕生し、タイのイサーン地方を経て全土に広まりました。現在では、タイ人の食卓に欠かせない存在となり、街角の屋台から高級レストランまで、あらゆる場所で提供されています。日本では「パパイヤサラダ」という名前でも親しまれていますが、実際は単なるサラダというよりも、複雑な味わいを持つ伝統料理なんですね。
青パパイヤのシャキシャキとした食感は、まるで大根のような歯ごたえ。でも、それだけじゃない。調味料を吸い込みやすい性質があるため、辛味・酸味・甘味・塩味が見事に調和した味わいを楽しめるのです。
ラオスからタイへ:ソムタムが辿った美味しい旅路
ソムタムの起源は、ラオスの伝統料理「タムマークフン」にあります。この料理は、もともとラオスの人々が、豊富に採れる青パパイヤを保存食として活用するために生み出したものでした。
19世紀から20世紀にかけて、ラオスからタイのイサーン地方(東北部)への人の移動と共に、この料理も伝わりました。イサーン地方は、歴史的にラオス文化の影響を強く受けている地域で、言語や食文化にも共通点が多く見られます。
その後、バンコクなどの都市部への出稼ぎ労働者によって、ソムタムはタイ全土に広まっていきました。興味深いことに、各地域で独自のアレンジが加えられ、現在では数十種類ものバリエーションが存在しています。タイ中央部では、より穏やかな味付けの「ソムタム・タイ」が生まれ、観光客にも親しみやすい味わいに進化しました。
ラオスの小さな村から始まった料理が、世界中で愛される存在になったのは、まさに食文化の素晴らしい旅路と言えるでしょう。
叩いて混ぜる!ソムタムならではの調理スタイル
ソムタムの最大の特徴は、「クロック」と呼ばれる石臼や木製の臼を使った独特の調理法にあります。材料を単に混ぜるのではなく、リズミカルに叩きながら調味料を馴染ませていく。この”叩く”という動作こそが、ソムタムの美味しさの秘密なのです。
叩くことで、青パパイヤの繊維が適度に壊れ、調味料がしっかりと染み込みます。同時に、唐辛子やニンニクの香りが立ち上がり、全体が一体となった味わいを生み出すんですね。屋台で見かける料理人の手さばきは、まるでパーカッションの演奏のよう。トントン、ガシャガシャという音が、食欲をそそります。
味の決め手は、辛味・酸味・甘味・塩味のバランス。唐辛子の辛さ、ライムの酸味、パームシュガーの甘味、ナンプラーの塩味と旨味が、絶妙に調和することで、あの独特の味わいが生まれます。辛さは注文時に調整できることが多く、「マイ・ペット(辛くない)」から「ペット・マーク(とても辛い)」まで、好みに応じて選べるのも魅力の一つですね。
地域で変わる!多彩なソムタムの顔ぶれ
ソムタムには実に多彩なバリエーションが存在し、地域や好みによって様々な顔を見せてくれます。
最もポピュラーな「ソムタム・タイ」は、干しエビとピーナッツを加えた中央タイ風のスタイル。辛さを抑えめにし、甘味を効かせた味付けは、初心者にも食べやすく、観光客に人気があります。
一方、本場イサーン地方の「ソムタム・プー」や「ソムタム・ラーオ」は、発酵させた小さなサワガニ(プー)を使用し、プラーラーという発酵調味料で味付けします。強烈な香りと辛さは、まさに通好みの味。初めて食べる人は、その個性的な風味に驚くかもしれません。でも、慣れてくると、この深い旨味がクセになるんです。
さらに、青パパイヤの代わりに他の食材を使ったバリエーションも豊富です。マンゴーを使った「タムマムワン」は、フルーティーな甘酸っぱさが特徴。キュウリの「タムテーンクワー」は、さっぱりとした味わいで暑い日にぴったり。にんじんを使ったものや、最近では切り干し大根を使った日本風アレンジも登場しています。
地域による違いは、まるでその土地の性格を表しているかのよう。都会的で洗練されたバンコクのソムタムと、素朴で力強いイサーンのソムタム。どちらも、それぞれの魅力があって甲乙つけがたいですね。
シンプルだけど奥深い!ソムタムの基本材料
ソムタムの材料は、一見シンプルですが、それぞれが重要な役割を果たしています。
主役の青パパイヤは、熟す前の緑色のパパイヤを千切りにしたもの。シャキシャキとした食感と、調味料を吸収しやすい性質が、この料理には欠かせません。日本では入手が難しい場合もありますが、最近はアジア食材店や通販で手に入るようになってきました。
基本の野菜として、トマト、にんじん、長ささげ(インゲンに似た豆)が加わります。トマトは酸味と水分を、にんじんは甘味と食感を、長ささげは歯ごたえとアクセントを与えてくれます。
調味料は、唐辛子、ニンニク、ライム、パームシュガー、ナンプラーが基本。これらの配合によって、あの複雑で奥深い味わいが生まれるのです。唐辛子は生の青唐辛子を使うことが多く、その鮮烈な辛さが料理全体を引き締めます。ライムは必ず生のものを使い、搾りたての爽やかな酸味を加えることが大切。
トッピングには、干しエビやピーナッツがよく使われます。干しエビは旨味を、ピーナッツは香ばしさと食感のアクセントを加えてくれるんです。これらの材料が”ポン、ポン”と臼で叩かれながら一体となっていく様子は、見ているだけでも楽しいものです。
臼で叩いて作る!本格ソムタムの調理法
伝統的なソムタムの調理法は、まさに五感で楽しむ料理と言えるでしょう。
まず、クロック(臼)に唐辛子とニンニクを入れ、軽く叩いて香りを出します。この時点で、ピリッとした刺激的な香りが立ち上がり、期待感が高まります。次に、パームシュガーを加えて叩き、ペースト状にしていきます。
長ささげとトマトを加え、軽く叩いて味を馴染ませたら、いよいよ主役の青パパイヤの登場です。千切りにした青パパイヤを加え、ナンプラーとライムジュースを回しかけながら、リズミカルに叩いていきます。この”叩く”動作が重要で、強すぎると青パパイヤがぐちゃぐちゃになり、弱すぎると味が馴染みません。
最後に干しエビやピーナッツを加え、全体を軽く混ぜ合わせれば完成。調理時間はわずか5分程度ですが、その間に繰り広げられる音と香りのパフォーマンスは、まるで料理のライブショーのようです。
伝統的には、もち米(カオニャオ)と一緒に食べることが多く、ソムタムの辛さと酸味を、もち米の甘みが優しく包み込んでくれます。生のキャベツやウイングビーン(四角豆)、ガイヤーン(タイ風焼き鳥)と組み合わせることも多く、これらの組み合わせによって、より豊かな食体験が楽しめるのです。
まとめ
ソムタムは、ラオスの小さな村から始まり、タイ全土、そして世界へと広がった、まさに食文化の成功物語と言える料理です。青パパイヤのシャキシャキとした食感、唐辛子の辛さ、ライムの酸味、パームシュガーの甘味が織りなす複雑な味わいは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。
地域によって異なる多彩なバリエーション、臼で叩くという独特の調理法、そしてシンプルながらも奥深い材料の組み合わせ。これらすべてが、ソムタムという料理の個性を形作っています。タイを訪れた際には、ぜひ本場のソムタムを味わってみてください。そして、日本でも手に入る材料で、自分好みのソムタム作りに挑戦してみるのも楽しいかもしれません。辛さと酸味、甘味が絶妙に調和したこの料理は、きっとあなたの食卓に新しい風を吹き込んでくれることでしょう。