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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「トムヤムクン」についてお話していきたいと思います。タイ料理と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、あの鮮烈な辛さと爽やかな酸味が印象的なトムヤムクンではないでしょうか。世界三大スープの一つに数えられるこの料理は、一度食べたら忘れられない複雑な味わいで、多くの人々を魅了し続けています。
初めてトムヤムクンを口にした時の衝撃は今でも鮮明に覚えています。レモングラスの爽やかな香りが鼻を抜け、唐辛子の辛さが舌を刺激し、そこにライムの酸味が加わって…まるで口の中で小さな花火大会が開催されているような感覚でした。
エビが主役!トムヤムクンの正体とは
トムヤムクンという名前、実は料理の内容をそのまま表しているんです。タイ語で「トム(ต้ม)」は「煮る」、「ヤム(ยำ)」は「和える」、そして「クン(กุ้ง)」は「エビ」を意味します。つまり、「エビ入りの煮込み和え物スープ」というわけですね。
このスープの最大の特徴は、なんといってもその複雑な味わいです。唐辛子による強烈な辛味、タマリンドやマナオ(メキシカンライム)による爽やかな酸味、そしてレモングラスやバイマックルー(コブミカンの葉)などのハーブ類が織りなす芳醇な香り。これらが絶妙なバランスで調和し、一度味わったら病みつきになる味を生み出しているのです。
面白いことに、主役の具材を変えれば料理名も変わります。鶏肉を使えば「トムヤムガイ」、魚なら「トムヤムプラー」、イカなら「トムヤムプラームック」となるんです。でも、やっぱりプリプリのエビが入った本家本元のトムヤムクンが一番人気なのは、言うまでもありませんね。
タイ王室から世界へ:トムヤムクンの歴史物語
トムヤムクンの歴史を紐解くと、その起源については諸説あり、はっきりとした記録は意外にも新しいものが多いんです。19世紀後半から20世紀初頭にかけて在位したラーマ5世の時代に、現在のような形で広く知られるようになったという説が有力とされています。
もちろん、それ以前にも似たようなスープ料理は存在していたと考えられています。タイの宮廷料理や民間料理の中に、トムヤムクンのルーツとなる料理があった可能性は十分にあるでしょう。タイの近代化が進む中で、様々な食文化が融合し、現在私たちが知るトムヤムクンへと発展していったのかもしれません。宮廷料理から庶民の食卓へ広がったのか、それとも庶民の知恵が結集して生まれた料理が宮廷でも愛されるようになったのか…その真相は歴史の霧の中ですが、どちらにせよ魅力的な物語ですよね。
そして2024年、トムヤムクンはついにユネスコの無形文化遺産として登録されました。タイの食文化を代表する料理として、世界的にその価値が認められたということですね。
辛い!酸っぱい!香り高い!三位一体の味わい
トムヤムクンの味を一言で表現するのは、正直言って不可能です。なぜなら、このスープは複数の味覚要素が”じわっ”と重なり合って、まるでオーケストラのような味のハーモニーを奏でているからです。
まず最初に感じるのは、レモングラスやガランガル(タイ生姜)の爽やかな香り。スプーンを口に運ぶ前から、もう食欲がそそられます。そして一口含むと、唐辛子のピリッとした辛さが舌を刺激し、続いてライムやタマリンドの酸味がさっぱりと後味を整えてくれる。この辛さと酸味の絶妙なバランスこそが、トムヤムクンの真骨頂なんです。
さらに、ココナッツミルクの有無によって2つのタイプに分かれるのも興味深いところ。ココナッツミルク入りの「ナムコン」は、まろやかでコクのある味わい。一方、ココナッツミルクなしの「ナムサイ」は、ハーブの風味と酸味がダイレクトに感じられる、よりシャープな味わいです。あなたはどちらがお好みでしょうか?
ナムコンとナムサイ:2つの顔を持つスープ
トムヤムクンには大きく分けて2つのスタイルがあることをご存知でしたか? 「ナムコン(น้ำข้น)」と「ナムサイ(น้ำใส)」です。
ナムコンは「濃い水」という意味で、ココナッツミルクが入った乳白色のスープ。見た目もクリーミーで、味わいもマイルドです。辛さや酸味が苦手な方でも比較的食べやすく、コクのある深い味わいが楽しめます。タイ料理初心者の方には、まずこちらから試してみることをおすすめしますね。
一方のナムサイは「澄んだ水」という意味で、ココナッツミルクを使わない透明感のあるスープです。ハーブ類の香りがストレートに感じられ、辛味と酸味もより鮮烈に。ナムサイの方がより古いスタイルだという説もありますが、現在ではどちらもタイ全土で愛されている定番のスタイルとなっています。
どちらが正解というわけではなく、その日の気分や体調、一緒に食べる料理との相性で選ぶのが良いでしょう。私個人としては、暑い日にはさっぱりとしたナムサイ、少し肌寒い日にはコクのあるナムコンを選ぶことが多いですね。地域や店によっても得意とするスタイルが異なるので、いろいろ試してみるのも楽しいものです。
プリプリエビとハーブの饗宴:基本の具材たち
トムヤムクンの主役は、なんといってもプリプリのエビ! 新鮮なエビを使うことで、スープに旨味が溶け出し、より深い味わいになります。エビの大きさは好みですが、食べ応えのある大きめのものを使うと、見た目も豪華になりますよ。
そして、このスープの味の決め手となるのが、タイハーブたちです。レモングラスは爽やかな柑橘系の香りを、ガランガル(タイ生姜)はピリッとした辛味と独特の香りを、バイマックルー(コブミカンの葉)は清涼感のある香りをそれぞれ加えてくれます。
きのこ類も欠かせない具材です。本場ではフクロタケがよく使われますが、日本ではしめじやエリンギで代用することも。きのこの旨味がスープに深みを与えてくれるんです。
仕上げに欠かせないのがパクチー。好き嫌いが分かれるハーブですが、トムヤムクンには絶対に必要な存在です。苦手な方も、一度騙されたと思って少量から試してみてください。意外とクセになるかもしれませんよ?
本場の味を再現!伝統的な調理の極意
本格的なトムヤムクンを作るには、まず香り付けから始めます。レモングラス、ガランガル、バイマックルーなどのハーブ類を軽く潰して香りを引き出し、水に入れて煮出します。この工程で、スープのベースとなる香り高い出汁が完成するんです。
次に、エビの下処理が重要です。背わたを取り除き、殻は剥いても剥かなくても構いませんが、頭は残しておくのがポイント。エビの頭からは濃厚な旨味が出るので、これを逃す手はありません。
味付けの要となるのが、ナムプリックパオ(チリインオイル)です。これは唐辛子、にんにく、エシャロットなどを油で炒めたペーストで、トムヤムクンの複雑な味わいの土台となります。市販品もありますが、本格派を目指すなら手作りに挑戦してみるのも面白いですね。
最後に、ライムの搾り汁とナンプラーで味を整えます。ここで大切なのは、火を止めてから加えること。特にライムは加熱すると苦味が出てしまうので、必ず最後に加えましょう。 この一連の流れで、あの複雑で奥深い味わいが生まれるのです。
まとめ
書いているそばから、思わず手を伸ばしたくなるほど食欲をそそられます。トムヤムクンは、単なるスープ料理を超えた、タイの食文化の結晶とも言える存在です。辛味、酸味、香りが三位一体となった味わいは、一度食べたら忘れられない強烈な印象を残します。
ナムコンとナムサイという2つのスタイル、エビを中心とした豊富な具材、そして伝統的な調理法。これらすべてが組み合わさって、世界三大スープの一つとして愛され続けているのです。2024年にはユネスコ無形文化遺産にも登録され、その価値は世界的に認められました。
次にタイ料理レストランを訪れた際は、ぜひ本格的なトムヤムクンを注文してみてください。そして可能であれば、ナムコンとナムサイの両方を試して、その違いを楽しんでみるのはいかがでしょうか。きっと、新たな発見があるはずです。
さいごに
シェフレピでは、「Ăn Đi風トムヤムクン」のレッスンを公開しております!
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Ăn Đi風トムヤムクン/Ăn Đi 内藤千博

フランス料理をルーツに持ちながらベトナム料理だけでなく、タイやカンボジアなど周辺の東南アジア料理までも取り込んだ「モダン・ベトナミーズ」のコンセプトで「Ăn Đi (アンディ)」のシェフを務める内藤千博シェフは、この2つの異なる魚介料理を融合させた新感覚の”モダン・タイ料理”を用意してくれました。 「フランス料理の技法を使った●●料理」という表現をよく目にすると思いますが、イマイチどこがフランス料理の技法なのかピンとこない人も多いと思います。今回、内藤シェフが紹介する”モダン・タイ料理”はまさに「フランス料理の技法を使ったタイ料理」といえます。基本的にはタイの食材を使ってタイ料理を作りますが、そのなかに光るフランス料理のテクニックにも注目してみてください。