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馬告(マーガオ)とは?台湾原住民が愛する幻の香辛料の魅力と使い方

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「馬告(マーガオ)」についてお話ししていきたいと思います。馬告は、台湾原住民タイヤル族が古くから大切にしてきた伝統的なスパイスです。レモンのような爽やかさと胡椒に似たピリッとした辛味が同居する、まさに”幻の香辛料”と呼ぶにふさわしい存在。本記事では、この希少な香辛料の魅力と使い方について、その文化的背景から実用的な活用法まで詳しく解説していきます。

初めて馬告の香りを嗅いだとき、その複雑な香りの層に驚きました。封を開けた瞬間、レモンと生姜、そして黒胡椒が一度に香り立つような…いや、それ以上に奥深い何かを感じたのです。一粒口に含むと、じわっと広がる辛味の後に柑橘の爽やかさが追いかけてくる、この感覚は他のスパイスでは味わえません。

山の恵みが生んだ奇跡のスパイス:馬告の正体

馬告は、クスノキ科ハマビワ属の植物「アオモジ」の実から作られる香辛料です。正式には「山胡椒」と呼ばれますが、日本で一般的に知られる山椒(サンショウ)とは全く別の植物。台湾では主に標高1500メートル付近の山麓地帯に自生し、6月から8月という限られた期間にのみ収穫されます。

この植物の実には、シトラール、リモネン、ゲラニオールという3つの主要な香気成分が含まれています。シトラールとリモネンがレモンのような爽やかさを、そしてゲラニオールがバラのような華やかさを演出。これらが絶妙に調和することで、馬告特有の複雑で魅力的な香りが生まれるのです。

収穫作業は今でも手作業で行われており、一粒一粒丁寧に摘み取られます。機械化が難しい急斜面での作業となるため、収穫量は極めて限定的。これが「幻の香辛料」と呼ばれる所以でもあります。

タイヤル族の誇り:繁栄を意味する「Makauy」の物語

「馬告」という名前は、台湾原住民タイヤル族の言葉「Makauy(マカウイ)」に漢字を当てたものです。この言葉には「続く繁栄」という意味が込められており、タイヤル族にとって馬告は単なる調味料以上の存在でした。

タイヤル族の伝統的な食文化において、馬告は肉料理の臭み消しや風味付けに欠かせない存在として受け継がれてきました。特に山で獲れた獣肉を調理する際には、馬告の持つ強い香りと殺菌作用が重宝されたのです。現代でも、タイヤル族の祝い事や重要な儀式の際には、馬告を使った料理が振る舞われることが多いといいます。

レモンと胡椒が踊る:馬告の味覚的特徴

馬告の最大の魅力は、その独特な風味プロファイルにあります。一口噛むと、まず感じるのは黒胡椒のようなピリッとした辛味。しかし、それは一般的な胡椒とは違い、どこか優しさを含んだ辛さです。

続いて広がるのは、レモンを思わせる爽やかな柑橘系の香り。さらに奥には、生姜のようなほのかな温かみも感じられます。これらの要素が口の中で次々と現れては消え…そんな不思議な体験をもたらしてくれるのです。

料理に使用すると、肉の臭みを消しながら爽やかな風味を加え、スープに入れれば深みのある香りが立ち上ります。特に鶏肉との相性は抜群で、台湾では「馬告雞湯(馬告と鶏のスープ)」が定番料理として愛されています。豚肉料理に使えば、脂っこさを和らげながら食欲をそそる香りを演出してくれるでしょう。

台湾各地で花開く馬告料理の世界

台湾では、馬告を使った料理が各地で独自の発展を遂げています。最も有名なのは前述の「馬告雞湯」ですが、これは鶏肉と馬告、生姜、ネギなどをじっくり煮込んだ滋味深いスープ。馬告の香りが鶏の旨味を引き立て、体の芯から温まる一品です。

「馬告香腸」という馬告入りのソーセージも人気があります。豚肉に馬告を練り込んで作るこのソーセージは、通常のものより爽やかで後味がさっぱりしているのが特徴。ビールのお供にぴったりだと、地元の人々に愛されています。

また、最近では馬告オイルも注目を集めています。オリーブオイルに馬告を漬け込んだこのオイルは、サラダのドレッシングや炒め物の仕上げに使うと、料理全体に華やかな香りを添えてくれます。パスタの仕上げに振りかけるだけで、いつもの料理がエスニックな一品に変身するから不思議ですね。

馬告を活かす調理のコツと相性の良い食材

馬告を料理に使う際は、その繊細な香りを活かすことが大切です。加熱しすぎると香りが飛んでしまうため、煮込み料理の場合は仕上げの10分前に加えるのがベスト。炒め物なら、最後の香り付けとして使うのがおすすめです。

相性の良い食材としては、まず鶏肉が挙げられます。淡白な鶏肉の味わいに、馬告の複雑な香りが見事にマッチします。豚肉、特に脂身の多い部位との相性も抜群。魚介類では、白身魚やエビ、イカなどと合わせると、臭みを消しながら上品な香りを楽しめます。

野菜では、キノコ類との組み合わせが秀逸です。しいたけやエリンギを馬告で炒めると、森の香りと柑橘の爽やかさが融合した、なんとも言えない美味しさに。また、トマトベースの料理に少量加えると、酸味に奥行きが生まれ、プロの味に近づけることができるでしょう。

まとめ

馬告は、台湾原住民タイヤル族が守り続けてきた、まさに山の恵みとも言える貴重な香辛料です。レモンのような爽やかさと胡椒のスパイシーさを併せ持つその独特な風味は、一度味わえば忘れられない印象を残すことでしょう。

鶏肉のスープに、豚肉の炒め物に、あるいはサラダのアクセントに…使い方次第で、いつもの料理を特別な一品に変えてくれる魔法のスパイスです。

台湾の山々で、今も手作業で大切に収穫される馬告。その一粒一粒に込められた自然の恵みと伝統を感じながら、ぜひあなたも馬告の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。きっと、新しい味覚の扉が開かれるはずです。

さいごに

台湾原住民が大切に守り続けてきた馬告の魅力、いかがでしたでしょうか。シェフレピでは、この魅力的な馬告を活用したレッスンをご紹介しております。まだまだ一般的ではない馬告の使い方を研究されている2人のシェフ。どちらもスパイスの新しい可能性を感じられる料理となっておりますので、ぜひチェックしてみてください。

石黒農場 ホロホロ鳥のバロティーヌ 馬告とスモークパプリカ/フランス料理人 小泉敦子

馬告の可能性をさらに追求したのが、小泉敦子シェフによるホロホロ鳥のバロティーヌです。フランスの伝統料理であるバロティーヌに、馬告とバスク地方のスモークパプリカを組み合わせることで、「伝統」と「進化」が見事に融合した一皿に。新しいスパイスの使い方を学べる貴重な機会です。

デュカ風味の自家製サルシッチャとキノコのマファルディーネ、マーガオの香り/イタリア料理人 関口幸秀

馬告と中東のミックススパイス「デュカ」を使った本格イタリアンパスタを学べます。関口幸秀シェフが教えてくださるのは、デュカを練り込んだ自家製サルシッチャと、キノコの旨味をしっかり引き出すトリフォラーティを合わせたクリームソース。パスタ発祥の地グラニャーノの伝統的なマファルディーネに、仕上げの馬告が爽やかな香りをプラスします。

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