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ピラミッドに供えられた果実
紀元前2700年。砂漠の風が吹き抜けるナイル川のほとりで、古代エジプト人たちはファラオの墓に奇妙な供物を捧げていました。それはプルーンです。
ピラミッドの石室に置かれたこの果実は、死者への手向けものとして選ばれていました。当時の上流階級の食卓には、大麦や豆、パンにビール、ナイル川で獲れた魚や肉料理が並び、そこへ生野菜や果物が添えられていたといいます。その中にプルーンの姿があったのです。
私たちがスーパーで手にするプルーンは、単なるドライフルーツではありません。約4700年前、すでに特別な果実として扱われていた歴史がある。この事実を知ると、あの黒く艶やかな果実が少し違って見えてくるかもしれませんね。
プルーンとは何か
プルーンは「西洋すもも」とも呼ばれるスモモの一種で、果実は楕円形をしており、果皮の色は赤紫から青紫色をしています。日本すもも(プラム)と同じグループに属する植物ですが、見た目や味に違いがあるため、市場では区別して扱われています。
この名称の由来を辿ると、古代のフリュギアという地域に行き着きます。そこからギリシア語へ、さらにラテン語へと伝わり、中世以降にフランス語として「プルーン」(prune)が定着したという言語学的な流れがあったのです。言葉が時代を超えて旅をした果実、それがプルーンなのですね。
クレオパトラの食卓から世界へ
紀元前2700年頃の古代エジプト。死者の墓には、来世への供物として干した果実が納められていました。当時の上流階級が催した晩餐を辿ってみると、大麦や豆、パンに魚や肉料理が並ぶ中、生野菜や果物が彩りを添えていたといいます。その一画に、艶やかな紺色の果実があったのでしょう。
クレオパトラが客人をもてなした晩餐の席。黄金の燭台が照らす長いテーブルに、プルーンを練り込んだケーキが運ばれてくる。一口頬張ると、濃縮された果実の甘みが口いっぱいに広がり、噛むほどに深みを増していく。古代の支配者たちも、この濃厚な味わいに心を奪われたのかもしれません。
地中海沿岸から西アジアへ。そして新大陸へと渡り、カリフォルニアで大規模な栽培が始まるまで、プルーンは数千年の時をかけて食卓を旅してきました。一粒の果実に、歴史の重みが凝縮されているのです。
日本に渡ったプルーン
明治初期、日本の土を初めて踏んだプルーンの苗木は、当時の政府主導による西洋果樹導入政策の一環として持ち込まれました。北海道を中心とした開拓地に植えられたものの、生食用としての普及は思うように進まなかったと言われています。
長らく日本の食卓では馴染みの薄い存在でしたが、1980年代以降、状況が一変します。健康食品としての認知度が高まり、ドライフルーツの形で急速に普及していったのです。
スーパーの棚に並ぶドライフルーツとしての姿が定着したのは、つい最近の出来事だったのですね。
品種と特徴:甘みと酸味のバランス
日本で栽培されるプルーンの品種を辿ると、それぞれが異なる個性を持っていることが見えてきます。古くから日本に根付いてきた「チューアン」は、40gほどの果実が赤紫色に染まり、糖度は15度。酸味が控えめで、その名の通り甘みを楽しめる品種です。8月上旬から中旬にかけて収穫を迎えます。
一方、果実がひと回り大きいのが「スタンレイ」です。50g前後のやや楕円形で、8月中旬から下旬が収穫時期。紅紫色の果皮を持ち、食味は良好とされます。長野市の倉島氏が開発した品種はさらに甘みが際立ち、糖度が17〜20%にも達するそうです。酸味が少ないため、生で食べるのに適しているのでしょう。
品種によって果実の大きさや糖度、収穫の時期が異なる。自分の好みに合わせて選べるというのは、産地直送ならではの楽しみかもしれませんね。
宇宙へ飛び出したプルーン
2000年代に入ると、プルーンの旅路は宇宙空間へと広がっていきます。
長期保存が可能で、栄養価が高い。この特性こそが、過酷な宇宙環境においてプルーンが見直された理由です。限られた資源で生命を維持しなければならない宇宙ステーションでは、保存性と栄養面のバランスが重要になります。
2013年、三基商事の「ミキプルーンエキストラクト」が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙日本食に認証されました。プルーン製品がこの認証を取得したのは、この時が初めてのことです。
それから5年後の2018年、アメリカ・フロリダ州ケープカナベラルから国際宇宙ステーション(ISS)へ向けて打ち上げられました。古代エジプトで貴族に愛された果実が、現代では宇宙飛行士の食卓に届く。プルーンの長い歴史を辿ると、人類の挑戦と重なる軌跡が見えてきます。
小さな果実に秘められた豊かな栄養
長い歴史を旅してきたプルーンが、現代において健康食品として注目を集めるのには理由があります。一粒の果実に凝縮された栄養素は、想像以上に多彩なのです。
生のプルーン100gあたりには、高血圧予防によいとされるカリウムが220mg、貧血防止に役立つ鉄分が0.2mg含まれています。風邪予防や老化抑制に作用するとされるβカロテンは480mcg、便秘予防に働きかける食物繊維も1.9g。さらに果皮には、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種、アントシアニンが含まれています。生のままかじりつけば、果実本来のみずみずしさとともに、これらの栄養を丸ごと取り込めるというわけです。
一方、水分が抜けて栄養成分が凝縮されたドライプルーンは、まさに天然の健康補助食品といえる存在です。100gあたりの含有量を見てみると、カリウムは480mgへと倍以上に。マグネシウム40mg、リン45mg、鉄1mg、亜鉛0.5mg、銅0.3mgとミネラル類が層を成し、βカロテンは1100mcgに達します。エネルギー代謝に欠かせないナイアシンが2.2mg、タンパク質代謝を支えるビタミンB6が0.34mg。そして食物繊維は7.2gと、生の約4倍にもなるのです。
こうした栄養成分の組み合わせから期待される効能は幅広く、貧血予防、高血圧予防、動脈硬化予防、脳梗塞や心筋梗塞の予防、疲労回復、便秘改善といったところに及びます。古代エジプトの人々がファラオの墓にこの果実を供えたのも、宇宙飛行士の食卓に選ばれたのも、偶然ではなかったのかもしれません。小さな黒い果実の中には、人間の体を内側から支える力が静かに息づいているのです。
小さな果実に詰まった大きな歴史
紀元前2700年頃、古代エジプトの人々は死者の墓にプルーンを供えていました。彼らにとって、この果実は単なる食べ物以上の意味を持っていたのでしょう。晩餐の席には大麦や豆、パン、ナイル川で獲れた魚料理とともに果実が添えられ、上流階級の食卓を彩っていたといいます。
時は流れ、2000年代に入るとプルーンは新たな舞台へと旅立ちます。保存性や栄養面が評価され、長期保存が必要で人体にとって過酷な宇宙空間での活用が始まりました。2013年には「ミキプルーンエキストラクト」がJAXAの宇宙日本食に認証され、2018年には国際宇宙ステーションへ届けられています。
地上の砂漠から、宇宙という名の新たな砂漠へ。プルーンは時代を超えて人びとの暮らしに寄り添い続けてきました。一口食べるたびに、数千年の時を感じてみるのも悪くありません。























