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はじめに
「オッソブーコ」という料理をご存知でしょうか? これは、イタリア北部、特にミラノを代表する伝統的な煮込み料理です。骨付きの仔牛すね肉をじっくりと煮込み、その名の通り「骨の穴(osso buco)」から覗く骨髄まで味わい尽くすのが醍醐味。この記事では、オッソブーコの魅力について、その定義から起源、特徴、そして伝統的な調理法まで、詳しく解説していきます。
料理の定義と概要
オッソブーコ(Ossobuco)は、イタリア語で「穴の開いた骨」を意味し、その名の通り、骨付きの仔牛すね肉(通常は厚さ3cm程度に輪切りされたもの)を主要な材料とする煮込み料理です。香味野菜や白ワイン、ブロード(出汁)と共に長時間かけて柔らかく煮込まれ、肉の旨味と骨髄の濃厚なコクが溶け出したソースが特徴です。特に「ミラノ風オッソブーコ(Ossobuco alla Milanese)」が有名で、伝統的にサフランリゾットと共に供されます。

起源と歴史
オッソブーコの正確な起源は定かではありませんが、中世にはすでにあったとされるとても古い料理です。当初は現在ほど洗練された料理ではなく、より素朴な煮込み料理だったようです。
さまざまあるオッソブーコのレシピの中でも、「トマトを使わないレシピが伝統的なのではないか」とイタリア料理人、関口幸秀シェフは言います。というのも、イタリアを代表する食材である「トマト」は、1492年イタリア北西部の港町ジェノヴァの船乗り、コロンブスが南米からトマトを持ち込む以前はヨーロッパに無かったと言われています。トマトを使わず、香味野菜をしっかり炒めた「ソフリット」でうま味とコク、鶏などのブロード(出汁)で作るのが、古いオッソブーコではないかと考えているからです。
時代と共にレシピは洗練され、ミラノのレストランなどで提供されるようになり、イタリアを代表する肉料理の一つとして広く知られるようになりました。特に、サフランリゾットと組み合わせる「ミラノ風」のスタイルが確立されたことで、その地位は不動のものとなったと言えるでしょう。
主要な特徴
オッソブーコの最大の特徴は、以下の点に集約されます。
- 骨付き肉の使用: 輪切りにされた仔牛すね肉の中心にある骨とその中の骨髄が、料理名の由来であり、味わいの核心部分です。煮込むことで骨髄が溶け出し、ソースに深いコクと旨味を与えます。本場イタリアでは、食べる際にこの骨髄を小さなスプーンですくって味わうのが楽しみの一つとされています。
- じっくり煮込む調理法: 長時間煮込むことで、硬いすね肉が驚くほど柔らかくなり、口の中でほろりと崩れる食感が生まれます。
- グレモラータ(Gremolata): ミラノ風オッソブーコに欠かせないのが、仕上げに添えられる「グレモラータ」です。これは、刻んだパセリ、レモンの皮のすりおろし、ニンニクのみじん切りを混ぜ合わせたもので、煮込み料理の濃厚な味わいに爽やかな香りと風味を加え、全体のバランスを引き締める役割を果たします。
また、パセリの代わりにローズマリーなどのお好みのハーブに置き換えるのもおすすめです。 - サフランリゾットとの組み合わせ: ミラノ風では、鮮やかな黄色いサフランリゾットと共に提供されるのが伝統です。リゾットがオッソブーコの濃厚なソースを吸い込み、絶妙なハーモニーを生み出します。
イタリア料理人の関口幸秀シェフにこの料理を教わった際、煮込み終わった後に骨髄を取り出し、サフランリゾットに加えていました。そうすることで味に奥行きが生まれ、より一体感が増すと言います。
地域による違いや派生料理
最も有名なのは「ミラノ風」ですが、地域や家庭によってレシピにはバリエーションが見られます。
- トマトの使用: 古典的なミラノ風のレシピではトマトを使わない、あるいは少量のみ使うことが多いですが、近年ではトマトやトマトペーストを加えて煮込むレシピも一般的になっています。トマトを加えることで、ソースに酸味と旨味が加わり、より親しみやすい味わいになります。
- 香味野菜: 玉ねぎ、人参、セロリといった基本的な香味野菜(ソフリット)は共通して使われますが、その比率や種類に違いが見られることもあります。
- ワインの種類: 主に白ワインが使われますが、赤ワインで煮込むバリエーションも存在します。
また、仔牛肉の代わりに豚肉や鶏肉など、他の肉を使ってアレンジされることもあります。
一般的な材料と特徴
オッソブーコの基本的な材料は以下の通りです。
- 仔牛すね肉(骨付き、輪切り): 主役となる食材。骨の周りの肉はゼラチン質が豊富で、煮込むと柔らかくなります。骨髄の濃厚な味わいが特徴です。手に入りにくい場合は、牛すね肉で代用されることもあります。
- 香味野菜: 玉ねぎ、人参、セロリが基本。これらを細かく刻んで炒め、ソースのベースとします。
- 白ワイン: 煮込みの風味付けと肉の臭み消しに使われます。
- ブロード(ブイヨン): 牛肉や野菜から取った出汁。ソースの旨味の基盤となります。
- 小麦粉: 肉に軽くまぶして焼き色をつけ、ソースにとろみをつける役割があります。
- バター、オリーブオイル: 野菜や肉を炒める際に使われます。
- (ミラノ風の場合)グレモラータ: パセリ、レモンの皮、ニンニク。
- (好みで)トマト、トマトペースト: 風味と色合いを加えます。
- 塩、胡椒: 味を調えるために使われます。
これらの材料が組み合わさることで、肉の旨味、野菜の甘み、ワインの風味、そして骨髄のコクが一体となった、深く豊かな味わいが生まれます。

本来の伝統的な調理法
伝統的なオッソブーコの調理法は、時間と手間をかけることが美味しさの秘訣です。
- 仔牛すね肉に軽く切り込みを入れ(煮崩れと反り返り防止)、塩胡椒をして小麦粉を薄くまぶします。
- 鍋にバターやオリーブオイルを熱し、肉の表面に焼き色をつけ、一旦取り出します。
- 同じ鍋でみじん切りにした香味野菜(玉ねぎ、人参、セロリ)をじっくりと炒めます(ソフリット)。
- 白ワインを加えてアルコールを飛ばし、鍋底の旨味をこそげ取ります。
- 肉を鍋に戻し、ブロード(出汁)を加えます。(好みでトマトやトマトペーストも加える)
- 蓋をして、オーブンまたは弱火で、肉が非常に柔らかくなるまで長時間(通常2〜3時間)煮込みます。途中、煮汁が少なくなったらブロードを足します。
- (ミラノ風の場合)仕上げにグレモラータを散らします。
- 伝統的にはサフランリゾットを添えて提供されます。
この丁寧な工程を経ることで、素材の持つ旨味が最大限に引き出され、格別な味わいのオッソブーコが完成します。
まとめ
オッソブーコは、仔牛すね肉の旨味と骨髄のコクを存分に味わえる、イタリア・ミラノが誇る伝統的な煮込み料理です。じっくりと時間をかけて煮込まれた肉の柔らかさ、香味野菜とワインが織りなす深い味わい、そして仕上げのグレモラータがもたらす爽やかなアクセントは、多くの人々を魅了してきました。サフランリゾットと共にいただけば、そこにはロンバルディア地方の豊かな食文化が凝縮されています。レストランで見かけたり、ご家庭で挑戦する機会があれば、ぜひその奥深い味わいを体験してみてください。
さいごに
シェフレピでは、イタリア料理人の関口幸秀シェフによる「ミラノ風オッソブーコとサフランのリゾット」のレッスンを公開しております!
伝統的な作り方を踏襲しつつ、家庭でも作りやすいようにアレンジを加えたレシピとなっております。
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