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はじめに
みなさんはかんぴょうをご存知ですか?食べたことはあっても、意外とその正体を知らない人も多いのではないでしょうか?寿司屋で注文すると、甘辛く煮付けられた茶色い紐状の具材が酢飯と海苔に包まれて出てくるあの一品です。実はこの「かんぴょう」、ユウガオという大きなウリ科の果実から作られる伝統的な乾物なのです。
江戸時代から続く日本の食文化に深く根ざし、寿司だけでなく精進料理や煮物にも欠かせない存在として親しまれてきました。現在では国内生産の98%を栃木県が担い、その独特の食感と風味は和食の名脇役として今も多くの料理人に愛されています。
この記事では、かんぴょうの正体から歴史、製法、そして料理での活用まで、この地味ながら奥深い食材の魅力を余すところなくお伝えします。初めて食べたときの、あの独特の歯ごたえと甘辛い味わいが忘れられない方も多いのではないでしょうか。私自身、かんぴょう巻きのシンプルながら計算された味のバランスに、改めて和食の奥深さを感じたものです。
ユウガオの果実が変身する乾物の正体
かんぴょうとは、ウリ科のユウガオ(夕顔)の果実を細長い紐状に剥き、天日干しで乾燥させた食品です。漢字では「干瓢」または「乾瓢」と表記され、「瓢(ひさご・ふくべ)」はユウガオの別名を指します。
ユウガオは観賞用のヒョウタンと同じ仲間ですが、かんぴょうの原料となるのは丸型やだるま型の品種です。果実は直径20〜30センチメートル、重さ7〜8キログラムにまで成長し、その巨大な果肉を専用の機械で帯状に削り取っていきます。削られた果肉は幅3〜5センチメートル、長さは1つの果実から数メートルにも及ぶ長いリボン状になるのです。
この紐状の果肉を天日干しすることで水分が抜け、独特の食感と保存性を持つかんぴょうが完成します。乾燥後は淡いベージュ色(無漂白の場合は薄い褐色)になり、軽くて硬い状態になりますが、水で戻すと柔らかく弾力のある食感に戻るのが特徴です。
かんぴょうを食用とするのは日本と中国の一部地域だけで、他の国ではユウガオの果実は容器や観賞用として利用されています。この独特の加工法と食文化は、日本の乾物文化の中でも特に興味深い存在と言えるでしょう。
神功皇后伝説から栃木の特産品へ
かんぴょうの起源には諸説ありますが、最も古い伝承は神功皇后の時代にまで遡ります。三韓征伐から凱旋した際、大阪の敷津に船をつけ、皇后が船中で出産した際の産衣を木津の地に埋めたところ、翌年その場所からユウガオの新芽が出たという伝説が残されています。この大阪の木津村は、古くからかんぴょうの産地として知られ、日本のかんぴょう発祥の地とされてきました。
一方、16世紀には中国に渡った留学僧が精進料理に使われていた干瓢を持ち帰ったという記録もあり、中国からの伝来説も有力です。いずれにせよ、かんぴょうは古くから日本の食文化に根付いていたことは確かでしょう。
江戸時代になると、かんぴょうの生産は水路を経て近江国の水口(現在の滋賀県甲賀市)に伝わり、近江の特産品として栄えました。歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』の水口宿の絵には、干瓢を干す姿が描かれており、当時の生産風景を今に伝えています。
そして1712年、水口藩藩主だった鳥居忠英が下野国(現在の栃木県)の壬生藩に国替えとなった際、水口からユウガオの種を取り寄せたことが、栃木県のかんぴょう生産の始まりとされています。20世紀以降、栃木県南部が主要産地となり、現在では国内生産の98%以上を占めるまでになりました。
保水性が高く水はけの良い関東ローム層の土壌と、夏季に雷が多く午後に雨が降る気候が、ユウガオの生育に最適だったのです。300年以上にわたる栽培の歴史は、栃木県の誇る食文化遺産と言えるでしょう。
独特の食感と淡白な味わいが魅力
かんぴょうの最大の特徴は、その独特の食感にあります。水で戻して煮ると、コリコリとした歯ごたえと同時に、しなやかな弾力が生まれます。この食感は人の皮膚に似ているとも言われ、実際に栃木県の医療器具メーカーと大学が協力して、かんぴょうを使った縫合練習キットを開発したほどです。
味わい自体は非常に淡白で、ほのかな甘みと旨味がある程度。だからこそ、調味料の味を吸収しやすく、甘辛く煮付けたり、酢の物にしたり、様々な料理に応用できるのです。この「主張しすぎない個性」こそが、かんぴょうが名脇役として重宝される理由でしょう。
かんぴょうには漂白品と無漂白品があります。漂白品は白く美しい見た目ですが、使用前に塩揉みと下茹でをして硫黄の残留物を除去する必要があります。一方、無漂白品は薄い褐色で、自然な甘味や旨味がより強く、柔らかく仕上がりますが、価格は高めです。
現在、日本で消費されるかんぴょうの8割は中国などからの輸入品で、主に業務用として使われています。国産は2割程度ですが、消費者向けの小売商品には国産品が多く使われる傾向にあります。品質や風味にこだわるなら、やはり栃木県産の無漂白かんぴょうがおすすめですね。
江戸前寿司から郷土料理まで多彩な活用法
かんぴょうの代表的な用途といえば、何といっても巻き寿司でしょう。江戸前寿司の定番ネタとして、かんぴょう巻きは欠かせない存在です。江戸時代、「のり巻」といえばかんぴょう巻きを指すほど一般的で、「の」の字に巻くのが原則とされ、芯にした具がくたっとしないように巻き上げるのが職人の腕の見せどころでした。
太巻き寿司やちらし寿司の具材としても定番で、特に節分の恵方巻きには欠かせない具材の一つです。寿司以外では、昆布巻きの結束、揚げ巾着やロールキャベツを縛る紐としても活躍します。かんぴょうは煮ても切れにくく、食べられる紐として重宝されるのです。
主産地の栃木県では、さらに多彩な使い方が見られます。煮物、炒め物、きんぴら、卵入りの干瓢汁(海苔を入れると「かみなり汁」と呼ばれ、学校給食の定番メニュー)、酢の物など、日常的な家庭料理に幅広く使われています。
近年では、サラダの具材や揚げ物の衣としての使い方も広がりつつあります。壬生町では、かんぴょう料理をご当地グルメとして売り出しており、ユウガオを材料にしたスイーツまで登場しているそうです。伝統食材が現代の食シーンで新たな可能性を見せている点は、非常に興味深いですね。
早朝の手仕事が生み出す伝統の味
かんぴょうの製造は、気温の低い、日の出前の早朝に行われるのが一般的です。栃木県では4月半ばにユウガオの苗を植え、5月には藁を敷いて乾燥や病気を防ぎます。ユウガオは白い美しい花を咲かせ、6月から8月下旬にかけて果実が7〜8キログラムに成長したら収穫の時期です。
収穫した果実は、専用の電動機械を使って加工します。まず硬い表皮を取り除き、垂直の軸に果実を刺してモーターで回転させながら、側面からピーラーを押し当てて帯状に削っていきます。この作業は熟練の技術が必要で、均一な厚さに削ることが品質を左右します。
削られた帯状の果肉は、すぐに天日干しにされます。栃木県特有の夏季の気候は、かんぴょうの乾燥に絶妙な湿度バランスをもたらすと言われています。天日干しによって水分が抜け、独特の風味と食感が生まれるのです。
この一連の作業は、早朝の涼しい時間帯に集中して行われます。気温が上がると果肉が傷みやすくなるため、夜明け前から始める生産者も少なくありません。こうした手間暇かけた製法が、300年以上続く栃木県のかんぴょう文化を支えているのです。
現代では機械化が進んでいますが、それでも人の手と目による品質管理は欠かせません。一つ一つの果実と向き合う生産者の姿勢が、高品質な国産かんぴょうを生み出しているのでしょう。
まとめ
かんぴょうは、ユウガオの果実を紐状に剥いて乾燥させた、日本独特の乾物です。神功皇后の伝説や中国からの伝来説など、古い歴史を持ちながら、江戸時代に近江を経て栃木県に伝わり、現在では国内生産の98%を占める特産品となりました。
その魅力は、独特のコリコリとした食感と淡白な味わいにあります。主張しすぎない個性が、江戸前寿司のかんぴょう巻きから精進料理、煮物、さらには現代的なアレンジ料理まで、幅広い用途を可能にしているのです。
早朝の涼しい時間帯に収穫・加工され、天日干しで仕上げられる伝統的な製法は、300年以上にわたって受け継がれてきました。栃木県の気候と土壌が育む高品質なかんぴょうは、和食文化の貴重な財産と言えるでしょう。
地味な存在ながら、その奥深さと多様性は、まさに和食の名脇役にふさわしいものです。次にかんぴょう巻きを食べる機会があれば、この小さな紐状の食材に込められた歴史と職人の技に、ぜひ思いを馳せてみてください。きっと、いつもとは違った味わいを感じられるはずです。






















