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はじめに:カポナータとの出会いと魅力
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、シチリア伝統料理「カポナータ」についてお話していきたいと思います。
カポナータ。この名前を聞いて、どんな料理を思い浮かべるでしょうか?色鮮やかな野菜がたっぷり入ったイタリアの煮込み料理、そうイメージする方が多いのではないでしょうか。カポナータは、南イタリア、特にシチリア島で愛される伝統的な一皿です。この記事では、カポナータの魅力とその背景にある文化について、深く掘り下げていきます。ラタトゥイユとの違いや、家庭でも楽しめるヒントもお伝えできればと思います。
シェフレピでの撮影で、関口シェフが作ったカポナータを口にした時の衝撃は忘れられません。鮮やかな野菜の色合いと、甘酸っぱい香りにまず心を奪われ、一口食べると、揚げナスのコクと野菜の旨味、そして甘酸っぱさの絶妙なバランスに衝撃を受けたのを覚えています。まさに、太陽の恵みが凝縮された一皿だと感じましたね。
カポナータってどんな料理?:定義と概要をズバリ解説
カポナータ(Caponata)とは、イタリアのシチリア島を発祥とする、野菜を使った煮込み料理です。特に、ナスが主役となることが多く、玉ねぎ、セロリ、トマト、オリーブ、ケッパーといった地中海の恵みがふんだんに使われます。
最大の特徴は、甘酸っぱい味付け。これは、砂糖と酢(主に白ワインビネガー)によってもたらされるもので、他の野菜煮込み料理、例えばフランスのラタトゥイユとは一線を画す点です。野菜を一度素揚げしてから煮込む(あるいは和える)のも、カポナータならではの調理法と言えるでしょう。これにより、野菜の旨味が凝縮され、独特のコクと食感が生まれます。
冷やして食べることが多く、前菜として、あるいはパンと一緒に、時にはパスタソースとしても楽しまれます。
太陽の恵み、シチリアから:カポナータのルーツを探る旅
カポナータの正確な起源については諸説ありますが、そのルーツはシチリア島にあると広く考えられています。地中海の中心に位置するシチリア島は、古代から様々な民族が行き交い、多様な文化が融合してきた土地です。ギリシャ、ローマ、アラブ、ノルマン、スペイン…これらの支配者がもたらした食文化が、シチリア料理の豊かさを形作ってきました。
カポナータの甘酸っぱい味付けは、アラブ料理の影響、あるいはスペイン統治時代(16世紀〜18世紀初頭)の影響とも言われています。当時は、貴族たちが楽しんだ魚料理「カポーネ(Capone、シイラのこと)」に似せた安価な代替料理として、野菜だけで作られるようになった、という話も伝わっています。
時代と共にレシピは変化し、地域や家庭によって様々なバリエーションが生まれましたが、その根底には、シチリアの豊かな風土と複雑な歴史が息づいているのです。歴史のロマンを感じますね。
五感を刺激する!カポナータならではの3つの魅力
カポナータの魅力は、単なる野菜の煮込み料理という言葉だけでは語り尽くせません。他の類似料理と比較した際の、際立った特徴を挙げてみましょう。
- 揚げナスのコクと旨味: カポナータの主役であるナスは、多くの場合、たっぷりのオリーブオイルで素揚げされます。これにより、ナスは油を吸ってとろりとした食感になり、旨味が“ぎゅっ”と凝縮されます。この揚げナスが、料理全体に深いコクと満足感を与えているのです。
- 甘酸っぱさの絶妙なバランス: 砂糖と酢(ビネガー)によるアグロドルチェ(Agrodolce)と呼ばれる甘酸っぱい味付けは、カポナータを最も特徴づける要素です。この甘酸っぱさが、揚げナスの油っぽさを和らげ、他の野菜の風味を引き立て、食欲を刺激します。暑い夏でもさっぱりと食べられる秘訣は、ここにあるのかもしれません。
- 複雑で奥行きのある味わい: トマトの酸味、セロリの爽やかな香り、オリーブの塩気、そしてケッパー独特の風味。これらの要素が甘酸っぱいベースと絡み合い、非常に複雑で奥行きのある味わいを生み出します。仕上げにバジルを散らしたり、レシピによっては松の実やレーズン、カカオパウダーを加えることもあり、さらに風味の層が深まります。
この複雑な味わいこそが、カポナータの真骨頂と言えるでしょう。
似て非なるもの?シチリアとナポリ、それぞれのカポナータ
「カポナータ」という名前の料理は、実はシチリアだけでなく、ナポリにも存在します。しかし、その内容は大きく異なります。これは、料理名が同じでも地域によって全く違うものを指すことがある、イタリア料理の面白い側面の一つですね。
- シチリア風カポナータ: これまで説明してきた、揚げナスを主体とした野菜の甘酢煮込みです。イタリア全土、そして世界的に「カポナータ」として知られているのは、主にこちらのタイプです。
- ナポリ風カポナータ: こちらは「アックァ・サーレ(Acqua Sale)」とも呼ばれ、水で戻した硬いパン(フレセッレなど)をベースに、トマト、ニンニク、オレガノなどをオリーブオイルで和えた、サラダに近い料理です。野菜だけでなく、ツナやアンチョビなどの魚介類が加わることもあります。シチリア風とは全く異なる、素朴でさっぱりとした味わいが特徴です。
日本では、一般的に「カポナータ」と言えばシチリア風を指すことが多いようです。もしイタリア料理店で「カポナータ」を注文する機会があれば、どちらのタイプか尋ねてみるのも面白いかもしれません。どちらも魅力的ですが、まずはシチリア風を試してみてはいかがでしょうか?
カポナータを彩る名脇役たち:定番の材料とその役割
シチリア風カポナータに使われる材料は、地域や家庭によって多少の違いはありますが、基本となるのは以下の野菜たちです。
- ナス: 主役。素揚げすることで、とろりとした食感とコクを生み出します。
- 玉ねぎ: 甘みと風味のベースとなります。じっくり炒めることで、料理に深みを与えます。
- セロリ: 独特の爽やかな香りがアクセントに。シャキシャキとした食感も楽しめます。
- トマト: 酸味と旨味を加えます。トマトホール缶やパッサータ(トマトピューレ)を使うことが多いですが、フレッシュトマトを使うことも。
- ピーマン・パプリカ: 彩りと甘みを加えます。
- オリーブ(主にグリーンオリーブ): 塩気と独特の風味を加えます。
- ケッパー: 塩漬けまたは酢漬けのものが使われ、特徴的な酸味と風味を加えます。これが無いと物足りなく感じる人もいるほど、重要な役割を果たします。
- 砂糖&酢(白ワインビネガーなど): 甘酸っぱい味付けの要。絶妙なバランスが求められます。
- オリーブオイル: 野菜を揚げたり炒めたりするのに不可欠。風味の土台となります。
- バジル: 仕上げに加えることで、爽やかな香りを添えます。
この他にも、松の実やレーズン、アーモンド、時にはカカオパウダーやチョコレートが加えられることもあり、より複雑な風味を醸し出すことも。これらの食材が一体となって、あの複雑で豊かな味わいを生み出すのです。
揚げナスと甘酢が決め手!伝統的な作り方のエッセンス
カポナータの伝統的な作り方は、いくつかのポイントを押さえることが重要です。家庭で作る際の参考に、そのエッセンスをご紹介しましょう。
- ナスを揚げる: まず、ナスを角切りにし、たっぷりのオリーブオイルで素揚げします。色よく揚がったら油を切っておきます。これがカポナータのコクの源泉です。少し手間はかかりますが、この工程が美味しさの秘訣。
- 香味野菜を炒める: 別の鍋でオリーブオイルを熱し、玉ねぎ、セロリ、ピーマンなどをしんなりするまで炒めます(ソフリット)。ここで野菜の甘みを引き出すのがポイント。
- トマトと煮込む: 炒めた野菜にトマト(ホール缶やパッサータ)を加え、少し煮詰めます。
- 甘酢で味付け: 砂糖と酢を加えて混ぜ合わせ、アグロドルチェのベースを作ります。味を見ながら、好みの甘酸っぱさに調整しましょう。ここで味が“ガツン”と決まります。
- ナスと他の具材を加える: 揚げたナス、オリーブ、ケッパーなどを加え、全体を混ぜ合わせながら軽く煮込みます。煮込みすぎず、野菜の形が残る程度にするのがコツです。
- 冷まして味をなじませる: 火から下ろし、粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やします。カポナータは冷ますことで味がなじみ、より美味しくなります。食べる前にバジルを散らすと、香りが引き立ちます。
もちろん、これは基本的な流れであり、細かな手順は様々です。野菜を揚げる代わりに炒めるレシピもありますが、伝統的なスタイルはやはり「揚げナス」にこだわるところが多いようです。手間をかけた分だけ、格別の美味しさが待っていますよ。
関口シェフのカポナータも、やはりナスを揚げる工程が重要でした。こんがりと揚げるのはもちろんなのですが、そのこんがり具合に驚きました。焦がしてしまったのかと思うくらいに色をつけるのですが、「ここまで揚げるからこそ、生まれるコクがあるんですよね」と関口シェフ。「カブトムシのような色になるまで揚げましょう(笑)」とおっしゃっていました。

まとめ:カポナータの奥深い世界
カポナータは、単なる野菜の煮込み料理ではなく、シチリアの豊かな自然と複雑な歴史、そして人々の知恵が詰まった、奥深い一皿です。揚げナスのコク、野菜の旨味、そして甘酸っぱいアグロドルチェの絶妙なハーモニーは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。
ラタトゥイユとは似ているようでいて、揚げナスと甘酢という明確な違いがあり、それぞれに独自の美味しさがあります。もしこれまでカポナータを味わったことがなければ、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。レストランで本格的な味を楽しむのも良いですし、ご紹介したエッセンスを参考に、ご家庭で作ってみるのも楽しい経験になるはずです。きっと、その複雑で豊かな味わいの虜になることでしょう。
さいごに
シェフレピでは、関口シェフによる「カポナータ」のレッスンを公開しております!
温かい状態でも、冷たい状態でも美味しい、作り置きにぴったりな料理です。
ぜひこの機会にチェックしてみてください!