この記事を読むのに必要な時間は約 6 分です。

Table of Contents
はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「クスクス」についてお話していきたいと思います。
北アフリカの食卓に欠かせない「クスクス」。粟(あわ)や稗(ひえ)のような見た目の小さな粒は、実はデュラム小麦から作られた「世界最小のパスタ」と呼ばれる食材です。モロッコやチュニジアなどマグレブ地方で主食として愛され、今では世界中の食卓を彩る存在となっています。本記事では、クスクスの正体から歴史的背景、そして現代における広がりまで、この魅力的な食材について詳しく解説していきます。
粒々の正体:クスクスは小麦から生まれる
クスクスとは、デュラム小麦の粗挽粉(セモリナ粉)に水を含ませ、直径1〜3mm程度の小さな粒に丸めたものです。見た目は雑穀のようですが、れっきとしたパスタの一種なんですね。アメリカではパスタとして分類されることが多い一方、日本を含む多くの国では米やコーンのような穀物として扱われています。
製造過程では、セモリナ粉に少しずつ水を加えながら手で転がし、均一な大きさの粒に仕上げていきます。伝統的な製法では、女性たちが集まって手作業で行うことも。
語源はベルベル語で、「良く丸められたもの」という意味。アラビア語では「كسكس(kuskusu)」と呼ばれ、この名前が世界中に広まりました。フランス語では「couscous」、イタリア語では「cuscus」と、各地で少しずつ呼び方が変化しているのも興味深いですね。
ベルベル人が紡いだ千年の歴史
クスクスの歴史は、13世紀半ばまで遡ります。現在のモロッコやチュニジアなど北アフリカ地域に住むベルベル人の主食として誕生しました。当初は蒸したクスクスに、スメンと呼ばれる熟成した澄ましバターをかけ、乳と一緒に食べるシンプルな料理だったそうです。
13世紀の料理書『友人との絆』には、既にクスクスの名前と調理法が記載されています。同時期の『マグリブとアンダルスの料理書』や『食卓の秀逸』といった文献にも、クスクスの製法が詳しく載せられており、マグリブ地方固有のパスタとして紹介されています。
特に興味深いのは、『食卓の秀逸』に記された3種類の粒状パスタの分類です:
- クスクス(kuskus):蟻の頭の形
- フィダーシュ(fidāsh):小麦の形
- ムハンマス(muḥammas):胡椒の粒
これらの記述から、当時から粒の大きさや形状にこだわりがあったことがうかがえます。まさに食文化の奥深さを感じさせますね。
小さな粒に秘められた大きな特徴
クスクスの最大の特徴は、その独特な食感と汎用性の高さにあります。蒸し上がったクスクスは、ふわふわとした軽い口当たりで、一粒一粒がほろほろとほぐれます。この食感、実は他の穀物では味わえない独特のものなんです。
調理法も実に多彩です。伝統的な方法では、二段重ねの専用鍋を使い、下段で煮込み料理を作りながら、その蒸気で上段のクスクスを蒸します。現代では、熱湯を注いで5分ほど蒸らすだけの簡単な方法も普及しています。どちらの方法でも、スープや煮込み料理の旨味をしっかりと吸収してくれるのが魅力です。
また、冷めても美味しく食べられるため、サラダの具材としても人気があります。野菜やハーブと和えれば、地中海風のヘルシーな一品に。温かい料理にも冷たい料理にも対応できる、まさに万能選手といえるでしょう。
国境を越えて広がる多彩なクスクス文化
北アフリカで生まれたクスクスは、時代とともに世界各地へと広がっていきました。地中海を渡ってシチリアやサルデーニャでは伝統料理として定着し、フランスでは移民文化とともに国民食の一つとなりました。
各地域で独自の発展を遂げたクスクス料理も見逃せません。モロッコでは羊肉と野菜をたっぷり使った豪華なクスクス、チュニジアでは魚介類を使った海の幸クスクス、アルジェリアでは唐辛子の効いたスパイシーなクスクスなど、それぞれの土地の食文化と融合した料理が生まれています。
さらに興味深いのは、アフリカのガーナやセネガル、そして大西洋を越えたブラジルにも独自のクスクス料理が存在することです。これらの地域では、トウモロコシ粉を使った別種のクスクスが発展しており、同じ名前でも全く異なる料理として愛されています。各地域の解釈によって異なる調理法や付け合わせが変わる点が、この料理の面白い点ですね。
2020年には、マグレブ4カ国の「クスクスの生産と消費に関する知識・ノウハウと実践」がUNESCOの無形文化遺産に登録されました。単なる食材を超えて、文化的価値が認められた瞬間でした。
基本材料はシンプル、でも奥が深い
クスクスの原材料は驚くほどシンプルです。基本的にはデュラム小麦の粗挽粉(セモリナ粉)と水、そして少量の塩だけ。この3つの材料から、あの独特な粒が生まれるのです。
デュラム小麦は、パスタ作りに欠かせない硬質小麦の一種で、グルテン含有量が高く、独特の黄色みを帯びています。この小麦を粗く挽いたセモリナ粉は、粒子が粗いため、水を加えて練っても粘りすぎず、理想的な粒状に仕上がります。
市販のクスクスには、調理時間によって以下のような種類があります:
- ファインクスクス:粒が細かく、5分程度で調理可能
- ミディアムクスクス:最も一般的なサイズ
- パールクスクス:大粒で、もちもちとした食感が特徴
それぞれ用途や好みに応じて使い分けることで、料理の幅が広がります。最近では全粒粉を使ったヘルシーなタイプも登場し、選択肢はますます豊富になっています。
伝統が息づく本場の調理法
本場北アフリカでは、クスクスの調理は単なる料理を超えた文化的な営みです。伝統的な調理法では、「クスクシエール」と呼ばれる二段重ねの専用鍋を使用します。
下段では肉や野菜をじっくりと煮込み、その蒸気で上段のクスクスを蒸し上げます。この方法により、クスクスは煮込み料理の香りと旨味をたっぷりと吸収し、ふっくらとした理想的な仕上がりになります。蒸し時間は約30〜40分。途中で一度取り出してほぐし、再び蒸すことで、均一な食感に仕上げます。
現代の簡易調理法も便利です。クスクスと同量の熱湯(または温めたスープ)を注ぎ、蓋をして5〜10分蒸らすだけ。仕上げにバターやオリーブオイルを加えてフォークでほぐせば、手軽に本格的な味わいが楽しめます。
伝統を守りながらも、現代のライフスタイルに合わせた調理法が生まれているのは、まさに生きた食文化の証といえるでしょう。どちらの方法を選んでも、クスクスの持つ魅力は変わりません。
まとめ
クスクスは、デュラム小麦から作られた世界最小のパスタとして、13世紀のベルベル人の食卓から始まり、今や世界中で愛される食材となりました。その小さな粒には、千年の歴史と文化、そして人々の知恵が詰まっています。
シンプルな材料から生まれる奥深い味わい、温かい料理にも冷たい料理にも対応できる汎用性、そして各地域で独自に発展した多彩な料理文化。クスクスは単なる食材を超えて、文化をつなぐ架け橋となっています。
次にクスクスを見かけたら、ぜひその歴史に思いを馳せながら味わってみてください。きっと、一粒一粒に込められた物語を感じることができるはずです。
さいごに
シェフレピでは、「剣先烏賊とイカスミのラグー クスクス添え」のレッスンを公開しております!イカの捌き方や、アサリのジュの取り方、自家製マヨネーズの基本的な作り方など料理の学びも盛りだくさんです。ぜひこの機会にチェックしてみてください!