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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「大学芋」についてお話ししていきたいと思います。カリッと揚がったさつまいもに、艶やかな糖蜜がとろりと絡む大学芋。その甘い香りに誘われて、つい手が伸びてしまう経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
大学芋は、油で揚げたさつまいもに糖蜜を絡めた日本の菓子、あるいは料理です。家庭でも簡単に作ることができ、おやつとしてはもちろん、地域によってはごはんのおかずとしても親しまれています。本記事では、大学芋の歴史や名前の由来、その特徴について詳しく解説していきます。
素朴な材料が生み出す、日本の伝統おやつ
大学芋は、さつまいも、砂糖、油という3つの基本材料から作られる、極めてシンプルな料理です。揚げ菓子の一つに分類されますが、その位置づけは菓子と料理の境界線上にあると言えるでしょう。
調理工程もまた明快です。さつまいもを乱切りにして油で揚げ、砂糖と水を煮詰めた糖蜜を絡める。たったこれだけの手順で、誰もが知る懐かしい味が完成します。仕上げに黒ごまを振りかけることで、香ばしさと見た目の美しさが加わり、より一層食欲をそそる一品となります。
栄養価も高く、甘さと食べ応えがあることから、おやつとしての人気が高い大学芋。鹿児島県や茨城県のようなさつまいもの一大産地では、おやつの枠を超えて、ごはんのおかずの一品として食卓に並ぶこともあるそうです。これは興味深い食文化の違いですね。
学生街から広がった、名前の謎と歴史
大学芋という名前を聞いて、「なぜ大学?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。実はこの名前の由来には、いくつかの興味深い説が存在します。
最も有力とされるのが、大正から昭和にかけて、東京の神田近辺の学生街で中央大学や明治大学などの大学生が好んで食べていたためという説です。当時の学生たちにとって、手頃な価格で満足感のある大学芋は、まさに理想的なおやつだったのでしょう。
もう一つの説は、昭和初期に東京大学の学生が学費を捻出するために作って売ったのが名前の由来だというもの。学業と生活を両立させるための工夫が、この料理の名前に刻まれているとすれば、なんとも感慨深い話です。
さらに、台東氷業による記録では、東京大学の赤門の前に三河屋というふかしいも屋があり、大正初期に蜜に絡めた芋を売ったのが大学生の間で人気を呼び、この名がついたという説もあります。三河屋は1940年(昭和15年)まで門前で営業していたとのことですから、かなり長い間、学生たちの胃袋を満たしていたことになりますね。
興味深いことに、1898年(明治31年)に書かれた『東京風俗志』には、明治時代にさつまいもにゴマを合わせることが一般的であったことや、焼き芋屋が味付けをすることが始まっていたことが記されています。大学芋の原型は、明治時代にはすでに存在していたのかもしれません。
カリッとホクホク、糖蜜が織りなす至福の食感
大学芋の最大の魅力は、なんといってもその食感と味わいのコントラストにあります。
外側は油で揚げることでカリッと香ばしく、中はさつまいも本来のホクホクとした食感が残る。この二重の食感が、一口ごとに楽しさを与えてくれます。そこに糖蜜の甘さとコクが加わることで、シンプルながらも奥深い味わいが完成するのです。
糖蜜は砂糖と水を煮詰めて作りますが、この加減が大学芋の出来を左右します。煮詰めすぎると固くなり、足りないとべたつく。ちょうど良い粘度の糖蜜が、揚げたさつまいもの表面に均一に絡むことで、あの艶やかな見た目と、口の中でとろける甘さが生まれるのです。
仕上げに振りかける黒ごまは、単なる飾りではありません。ごまの香ばしさが糖蜜の甘さを引き締め、味に深みを与える重要な役割を果たしています。この小さな工夫一つで、大学芋の味わいは格段に豊かになるのです。
家庭から海外へ、広がる大学芋の世界
大学芋は家庭でも簡単に作ることができるため、日本全国で親しまれています。しかし、地域によってその楽しみ方には違いがあります。
前述の通り、さつまいもの主要産地の鹿児島県や茨城県などでは、おやつとしてだけでなく、ごはんのおかずの一品として大学芋を食べることもあります。甘いおかずに抵抗がある方もいるかもしれませんが、さつまいもの自然な甘さと栄養価を考えれば、理にかなった食べ方と言えるでしょう。
また、大学芋に似た料理は他にも存在します。中国には「チャイナポテト」や「中華ポテト」と呼ばれる、糖蜜を絡めた揚げ芋料理があり、大学芋のルーツの一つではないかとも考えられています。日本国内では、細切りにしたさつまいもを揚げて砂糖をまぶした「芋ケンピ」も、大学芋の親戚のような存在です。
近年では、大学芋の魅力が海外にも広がりつつあります。2020年には鹿児島県からアメリカ合衆国への輸出が行われたという記録もあり、日本の伝統的なおやつが国境を越えて愛される日も近いかもしれませんね。
さつまいもと糖蜜、シンプルゆえの奥深さ
大学芋の材料は、さつまいも、砂糖、油、そして黒ごまという、どこの家庭にもあるようなシンプルなものばかりです。しかし、このシンプルさこそが、大学芋の魅力を支えています。
さつまいもは品種によって甘さや食感が異なります。ホクホク系の品種(なると金時、紅あずまなど)を使えば軽やかな食感に、ねっとり系の品種(安納芋、シルクスイートなど)を使えば濃厚な味わいになります。どちらを選ぶかは好み次第ですが、揚げることで外側がカリッとする点は共通しています。
砂糖は、白砂糖を使うのが一般的ですが、黒糖やきび砂糖を使うことで、よりコクのある味わいに仕上げることもできます。糖蜜の作り方一つで、大学芋の表情は大きく変わるのです。
油は、揚げ油として使用します。さつまいもをじっくりと揚げることで、中まで火が通り、外側はカリッと、中はホクホクとした理想的な食感が生まれます。揚げ時間や温度の調整が、美味しい大学芋を作る鍵となります。
黒ごまは、最後の仕上げに振りかけます。この一手間が、見た目の美しさと香ばしさを加え、大学芋を完成へと導くのです。
伝統の調理法、揚げることの意味
大学芋の伝統的な調理法は、さつまいもを乱切りにして油で揚げ、糖蜜を絡めるというものです。この工程には、それぞれに意味があります。
まず、さつまいもを乱切りにするのは、表面積を増やして糖蜜が絡みやすくするためです。また、不規則な形にすることで、カリッとした部分とホクホクした部分のバランスが生まれ、食感に変化が出ます。
油で揚げる工程は、大学芋の食感を決定づける最も重要なステップです。低温でじっくりと揚げることで中まで火を通し、最後に高温で仕上げることで外側をカリッとさせる。この二段階の揚げ方が、理想的な食感を生み出します。
糖蜜は、砂糖と水を鍋で煮詰めて作ります。砂糖が溶けて、とろみがつき、少し色づいてきたら完成の合図です。この糖蜜を、揚げたてのさつまいもに素早く絡めることで、表面に美しい艶が生まれます。
最後に黒ごまを振りかければ、伝統的な大学芋の完成です。シンプルな工程ながら、一つ一つの手順に意味があり、それが積み重なって、あの懐かしい味が生まれるのです。
まとめ
大学芋は、さつまいも、砂糖、油という3つの基本材料から作られる、日本の伝統的な菓子であり料理です。
その名前の由来には、大正から昭和にかけて東京の学生街で大学生に愛されたという説や、東京大学の学生が学費のために売ったという説など、いくつかの興味深い物語があります。いずれにしても、学生たちの生活と深く結びついた料理であることは間違いありません。
カリッとした外側とホクホクした中身、そして糖蜜の甘さとコクが織りなす味わいは、シンプルながらも奥深く、世代を超えて愛され続けています。家庭でも簡単に作ることができ、おやつとしてはもちろん、地域によってはおかずとしても楽しまれている大学芋。
近年では海外への輸出も始まり、日本の伝統的なおやつが世界に広がる可能性も見えてきました。これからも、大学芋は多くの人々に甘い幸せを届け続けることでしょう。