この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

Table of Contents
はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「サテ」についてお話ししていきたいと思います。東南アジアの屋台街を歩けば、どこからともなく漂ってくる香ばしい煙と、スパイスの芳醇な香り。その正体こそが、現地の人々に愛され続ける串焼き料理「サテ」です。日本の焼き鳥に似た外見ながら、独特のスパイスとピーナッツソースが織りなす味わいは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。本記事では、インドネシアのジャワ島で生まれ、東南アジア全域に広がったこの料理の奥深い世界をご紹介します。
串に込められた東南アジアの食文化:サテとは
サテ(サテー、サテイ、インドネシア語: sate、英語: satay)は、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイなどの東南アジア諸国で広く食べられている串焼き料理です。小さく切った肉を竹串やヤシの木で作った串に刺し、炭火でじっくりと焼き上げる調理法は、見た目こそ日本の焼き鳥に似ていますが、その味付けや食べ方には独自の文化が息づいています。
現地では老若男女を問わず愛される国民食として定着しており、街角の屋台から高級レストランまで、あらゆる場所で楽しむことができます。特徴的なのは、ケチャップマニス(甘口醤油)やコリアンダーなどの香辛料で下味をつけた肉を、さらにピーナッツをすりつぶして作った甘めのソースで食べる点でしょう。この二重の味付けが、サテならではの複雑で奥深い味わいを生み出しているのです。
ジャワ島から始まった串焼きの歴史
サテの発祥地は、インドネシアのジャワ島とされています。興味深いことに、この料理はアラビアからの移民がもたらした料理を現地風にアレンジしたものだと言われています。語源については諸説ありますが、タミル語で「肉」を意味する「சதை(catai)」が有力とされています。
ジャワ島で生まれたサテは、その後マレーシア、シンガポール、タイなど周辺諸国へと広がっていきました。各地域で独自の進化を遂げ、それぞれの食文化と融合しながら、今日見られるような多様なバリエーションが生まれたのです。マレーシアでは国を代表する料理の一つとして位置づけられ、官製の航空書簡に絵と作り方が描かれたり、外交パーティーでも振る舞われるほどの存在感を持っています。
現在では、シンガポール航空やマレーシア航空のビジネスクラスやファーストクラスの機内食としても提供されるなど、東南アジアの食文化を代表する料理として国際的な認知度も高まっています。
炭火が生み出す香ばしさ:サテの魅力的な特徴
サテの最大の魅力は、何と言ってもその調理法にあります。ヤシがらを使った炭火でじっくりと焼き上げることで、肉の表面はカリッと香ばしく、中はジューシーに仕上がります。焼いている最中に立ち上る煙も、独特の風味を肉に移す重要な要素となっています。
串に使われる素材も特徴的で、現地では竹串よりもヤシの木で作った串が好まれます。これは単に入手しやすいという理由だけでなく、ヤシの木の串が持つ微かな香りが、焼き上がりの風味に影響を与えるためだと言われています。
また、サテは大量の煙が出ることから、現地では家庭で作るよりも店で食べたり購入することの方が一般的です。街角の屋台で焼かれるサテの香りは、まさに東南アジアの日常風景の一部となっています。
国境を越えて愛される多彩なバリエーション
インドネシアでは地方により数々のバリエーションが存在します。最も一般的なのは鶏肉のサテですが、牛肉、羊肉、ヤギ肉も人気があります。西スマトラのパダンでは、カレーソースをかけて食べる牛肉や牛もつのサテが有名です。さらに驚くべきことに、水牛肉、ウサギ肉、貝、さらにはヘビやミズオオトカゲまでもがサテとして調理される地域もあるのです。
マレーシアでは、サテにクトゥパと呼ばれるヤシの葉に包んだ米飯と、キュウリやタマネギなどの付け合わせが一緒に出されることが多く、これらの組み合わせが絶妙なハーモニーを奏でます。一方、タイでは豚肉を用いたムー・サテが主流ですが、イスラム教徒の多い地域では鶏肉のガイ・サテが好まれます。タイのピーナッツソースは他国のものと比べて甘味が強いのが特徴で、これがタイ料理特有の甘辛い味わいを生み出しています。
台湾や中国の福建省では、精進料理として大豆を加工した湯葉や押し豆腐を使ったサテも登場し、さらには「沙茶醤(サーチャージャン)」というサテ風味のソースが中華料理全般に応用されるなど、独自の発展を遂げています。
香辛料と肉が織りなす絶妙な味わい
サテに使われる主な材料は、鶏肉、牛肉、羊肉、ヤギ肉などの肉類です。これらを一口大に切り、ケチャップマニス、食塩、コリアンダー、ターメリック、レモングラスなどの香辛料で作ったタレに漬け込みます。この下味の段階で、すでにサテ特有の複雑な風味の基礎が作られるのです。
最も特徴的なのは、やはりピーナッツソースでしょう。ピーナッツをすりつぶし、ココナッツミルク、タマリンド、唐辛子、ニンニク、エシャロットなどを加えて作るこのソースは、甘さ、辛さ、酸味が絶妙にバランスした味わいです。肉の旨味とピーナッツの濃厚さが口の中で混ざり合う瞬間は、まさに至福の時と言えるでしょう。
付け合わせとして提供される生のキュウリやタマネギは、濃厚な味わいをリフレッシュさせる役割を果たし、何本でも食べ続けられる秘訣となっています。
炭火で焼き上げる伝統の調理法
サテの調理法は、シンプルながらも奥が深いものです。まず肉を適切な大きさに切り分け、香辛料を混ぜ合わせたタレに最低でも2時間、理想的には一晩漬け込みます。この漬け込み時間が、肉に深い味わいを与える重要なプロセスとなります。
串に刺す際は、肉と肉の間に適度な隙間を作ることがポイントです。これにより火の通りが均一になり、表面がカリッと焼き上がります。炭火の温度管理も重要で、強すぎると表面だけが焦げてしまい、弱すぎると肉汁が流れ出てパサパサになってしまいます。熟練の屋台の職人は、炭火の状態を見極めながら、串を絶妙なタイミングで返していきます。
焼き上がりの目安は、表面に美しい焼き色がつき、肉汁がじゅわっと滲み出てくる頃合い。このタイミングを見極めることこそが、美味しいサテを作る最大のコツなのです。現地の屋台では、注文を受けてから焼き始めることが多く、出来立ての熱々を楽しむことができます。
まとめ
サテは、東南アジアの豊かな食文化と歴史が凝縮された一品です。インドネシアのジャワ島で生まれ、各国で独自の進化を遂げながら、今なお人々に愛され続けているこの料理は、まさに東南アジアの食のアイデンティティと言えるでしょう。
香辛料の効いた下味、炭火でじっくりと焼き上げる調理法、そして濃厚なピーナッツソース。これらが三位一体となって生み出される味わいは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。日本でも東南アジア料理店で本格的なサテを楽しむことができるようになってきました。ぜひ一度、この魅力的な串焼き料理の世界を体験してみてはいかがでしょうか。きっと、東南アジアの食文化の奥深さと、人々の温かさを感じることができるはずです。