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トムセップ徹底解説!タイ・イサーン地方の辛旨スープの魅力とは?

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「トムセップ」についてお話していきたいと思います。タイの煮込み料理と聞けば、多くの方がトムヤムクンを思い浮かべるかもしれません。しかし、タイにはまだまだ知られざる美味しいスープが存在します。その一つが、今回ご紹介する「トムセップ」。タイ東北部、イサーン地方の伝統的なスープで、その辛味と酸味、そしてハーブの複雑な香りが織りなす味わいは、一度食べたら忘れられない魅力を持っています。この記事では、そんなトムセップの世界を深掘りし、その定義から歴史、特徴、そしてご家庭でも楽しめるような情報まで、余すところなくお届けします。

初めてトムセップを知ったのは、私がまだ、シェフレピのユーザーだった頃。清藤シェフのレッスン「豚バラ肉のトムセップ風」を自宅で作って食べた時、衝撃を受けたのです。パクチーが苦手な私は、やはりタイ料理にも苦手意識がありました。しかし材料を見てみると、これならいけるかもしれないと思ったのです。実際に作って食べてみると、プルプルの豚バラ肉、オレンジやタマリンドの優しい酸味、朝天辣椒やハーブの奥深い香り、その全てが絶妙に調和し、これは美味しい!と思わず悶絶してしまいました。

トムセップとは?その魅力に迫る

トムセップ(ต้มแซบ)は、タイ語で「トム」が煮る、「セップ」が美味しい、を意味する、文字通り「美味しい煮込みスープ」です。主に豚や牛の内臓(モツ)を使い、レモングラス、バイマックルー(こぶみかんの葉)、ガランガル(タイの生姜)、唐辛子、ライムなどで風味豊かに仕上げられます。

その最大の特徴は、何と言っても「辛味」「酸味」「旨味」そして「ハーブの香り」が絶妙に調和した、パンチのある味わいでしょう。トムヤムクンと比較されることも多いですが、トムセップはより素朴で、内臓のコクとハーブのストレートな風味が際立つ、イサーン地方ならではの力強さを感じさせるスープと言えます。このスープ、一度知るとヤミツキになること間違いなしです。

トムセップの起源と歴史を紐解く

トムセップの正確な起源を特定するのは難しいものの、そのルーツはタイ東北部、ラオスと国境を接するイサーン地方の食文化に深く根ざしています。イサーン地方は、もち米を主食とし、発酵食品やハーブを多用した、独特の食文化を持つ地域です。

トムセップに使われる内臓肉は、古くから手に入りやすい食材であり、それを余すところなく活用する知恵から生まれた料理と考えられます。また、高温多湿な気候の中で食欲を増進させ、保存性を高めるために、唐辛子やハーブ、ライムといった香味野菜がふんだんに使われるようになったのでしょう。まさに、その土地の気候風土と生活の知恵が生んだ郷土料理と言えるのではないでしょうか。

トムセップを特徴づける味わいの秘密

トムセップのあの複雑で奥行きのある味わいは、どこから来るのでしょうか? その秘密は、やはり特徴的な食材とその調理法にあります。

まず、ベースとなるのは豚や牛の内臓から出る濃厚な出汁。これがスープ全体のコクと旨味の土台となります。そこに、レモングラスの爽やかな香り、こぶみかんの葉の柑橘系の芳香、ガランガルのスパイシーな刺激が加わり、何とも言えないエキゾチックな風味を醸し出します。

そして、味の決め手となるのが、たっぷりの唐辛子による突き抜けるような辛味と、ライム果汁のキリッとした酸味。これらが渾然一体となることで、トムセップ特有の「辛くて酸っぱくて旨い!」という、後を引く味わいが生まれるのです。このバランス感覚こそ、トムセップの真骨頂と言えるでしょう。

イサーン地方の味!トムセップのバリエーション

トムセップはイサーン地方の代表的な料理ですが、地域や家庭によって、また使う肉の種類によって様々なバリエーションが存在します。

最も一般的なのは豚の内臓を使った「トムセップ・ムー」ですが、牛肉を使った「トムセップ・ヌア」や、鶏肉を使った「トムセップ・ガイ」も見られます。特に、骨付きの豚スペアリブ(クラードゥック・ムー)を使ったトムセップは、骨から出る旨味がスープに深みを与え、非常に人気があります。

また、辛さのレベルやハーブの種類、酸味の強さなども、作り手によって微妙に調整されることがあります。それぞれの家庭の味、食堂の味があるのも、郷土料理ならではの面白さですね。

トムセップに欠かせない材料と、その特徴

トムセップのあの独特な風味を生み出すために欠かせない主要な材料をいくつかご紹介しましょう。

  • 内臓肉(豚または牛): スープに深いコクと旨味を与える、トムセップの主役。丁寧に下処理することで、臭みがなくなり、美味しい出汁が出ます。
  • レモングラス(タクライ): 爽やかな柑橘系の香りが特徴。叩いてから煮込むことで、香りがより引き立ちます。
  • こぶみかんの葉(バイマックルー): 独特の強い芳香があり、タイ料理には欠かせないハーブ。葉脈を取り除いて使います。
  • ガランガル(カー): タイの生姜とも呼ばれるスパイス。日本の生姜よりもスパイシーで複雑な香りがあります。薄切りにして使います。
  • 唐辛子(プリック): 辛味の源。乾燥唐辛子や生の唐辛子(プリッキーヌなど)を、好みの辛さに応じて量を調整して使います。
  • ライム(マナオ): 仕上げに加えることで、キリッとした酸味と爽やかな香りをプラスします。
  • その他ハーブ類: パクチー(コリアンダー)の根や、ホムデン(赤わけぎ)、炒った米を砕いたカオクアなどが風味付けや食感のアクセントとして加えられることもあります。

これらの材料が複雑に絡み合い、トムセップならではの味わいを生み出すのです。まさに、ハーブのオーケストラと言えるでしょう。

家庭で再現!トムセップの伝統的な調理法

トムセップの伝統的な調理法は、意外とシンプルです。基本的には、下処理した内臓肉とハーブ類を水からじっくりと煮込み、肉が柔らかくなったら唐辛子やナンプラー、ライム果汁で味を調えるという流れになります。

ポイントは、内臓肉を丁寧に下処理すること。これにより、臭みがなくなり、スープの味がクリアになります。また、ハーブ類は香りを最大限に引き出すために、煮込む直前に叩いたり、手でちぎったりするのがコツです。

そして、味付けの際には、辛味、酸味、塩味のバランスを見ながら、少しずつ調味料を加えていくことが大切です。特に唐辛子の量は、お好みに合わせて慎重に調整してください。火を止める直前にライムを絞り入れることで、フレッシュな酸味と香りが立ちます。この“じゅわっ”と広がる香りがたまらないのです。

まとめ

トムセップは、タイ・イサーン地方の豊かな食文化が生んだ、辛味、酸味、旨味、そしてハーブの香りが絶妙に調和した、まさに「美味しい煮込みスープ」です。その刺激的でありながらも奥深い味わいは、一度体験すると忘れられない魅力があります。

トムヤムクンとはまた異なる、素朴で力強いトムセップの世界。この記事を通して、その魅力の一端でも感じていただけたなら幸いです。あなたも、このエキゾチックなスープの虜になってみませんか?

さいごに

シェフレピでは、家庭でも作りやすい「豚バラ肉のトムセップ風」のレッスンを公開しております!本来は内臓を使用しますが、手に入りやすく、食べやすい豚バラ肉でアレンジしているため、私と同じようにタイ料理に苦手意識を持っている人にこそ挑戦してもらいたいレシピです。
ぜひこの機会にチェックしてみてください!

豚バラ肉のトムセップ風/枯朽 清藤洸希

うま味ではなく、酸味と香りで食べさせるオリエンタルな煮込み料理。
ハーブや豚の内臓を使ったタイの料理「トムセップ」を、豚バラ肉にアレンジ。
豚バラの塊肉を煮込む前に塩漬けにすることで、煮込んだ後も肉にしっかりと深い味わいが残ります。
さらに煮込みの見極めやスパイスを入れるタイミングなどのプロの技やオレンジやタマリンドの組み合わせの妙が学べます。

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