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モスタルダとは?北イタリアの伝統的スパイシージャムの魅力を徹底解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回はイタリアの調味料「モスタルダ」についてお話ししていきたいと思います。モスタルダという名前を聞いて、すぐにその姿や味を思い浮かべられる方は、まだ日本では少ないかもしれません。北イタリアで14世紀から愛され続けているこの伝統的な保存食は、見た目はマーマレードのようでありながら、口に含むとピリッとしたマスタードの刺激が広がる、実に個性的な食品です。

初めてモスタルダを口にしたとき、その意外な味わいに驚きました。フルーツの甘さが広がったかと思うと、すぐにマスタードの辛味が追いかけてくる。この絶妙なバランスが、チーズや生ハムの旨味を引き立てる様子に、イタリア料理の奥深さを改めて感じたものです。

甘くて辛い?モスタルダの正体とその魅力

モスタルダは、カットした果物や野菜をマスタード風味のシロップで煮込んだ、北イタリアの伝統的な保存食です。「スパイシージャム」や「コンフィチュール」とも呼ばれることがありますが、一般的なジャムとは一線を画す独特の存在感を持っています。

その最大の特徴は、フルーツの甘さとマスタードのピリッとした辛味が共存していること。この一見相反する要素の組み合わせこそが、モスタルダの真骨頂なのです。見た目は宝石のように美しく、琥珀色のシロップに浮かぶ果実は、まるで芸術品のよう。しかし、その優雅な外見からは想像もつかない刺激的な味わいが隠されているのです。

「モスタルダ(mostarda)」という名前の由来も興味深く、ラテン語の「ムストゥム・アルデンス(Mustum Ardens)」から来ています。これは「熱い、スパイシーな(Ardens)果汁(Mustum)」を意味し、まさにこの食品の特徴を的確に表現していますね。

ゴンザーガ家も愛した、14世紀から続く高級保存食

モスタルダの歴史は古く、その起源は14世紀のロンバルディア州マントヴァ県にまで遡ります。当時この地を治めていたゴンザーガ家の公文書にも、モスタルダに関する記録が残されているというから驚きです。

中世のイタリアにおいて、モスタルダは相当な高級品として扱われていました。なぜでしょうか? それは、当時貴重だった砂糖とスパイスをふんだんに使用していたからです。保存技術が限られていた時代、果物を長期保存できるこの方法は画期的でした。しかも、ただ保存するだけでなく、マスタードの防腐効果も相まって、より長期間の保存が可能だったのです。

時代と共に、モスタルダは貴族の食卓から一般家庭へと広がっていきました。各地域で独自のレシピが生まれ、使用する果物や野菜、スパイスの配合も多様化していきました。現代でも、北イタリアの多くの家庭では、秋の果物が豊富な時期に自家製モスタルダを仕込む習慣が残っています。

フルーツの甘さとマスタードの辛味が織りなす絶妙なハーモニー

モスタルダの味わいを一言で表現するのは、実はとても難しいんです。最初に感じるのは果物本来の甘さ。リンゴや洋梨、パイナップル、アプリコットなど、使用する果物によって異なる風味が楽しめます。そして次の瞬間、マスタードのピリッとした刺激が舌を襲います。

この甘さと辛さの絶妙なバランスが、モスタルダ最大の魅力。単なる甘いジャムでもなく、ただ辛いだけのマスタードでもない。両者が見事に調和することで、複雑で奥深い味わいを生み出しているのです。

食感も特徴的で、果物はシロップ煮によって適度な歯ごたえを残しながらも、じゅわっと果汁が広がります。野菜を使ったものでは、カボチャやカブなどがよく用いられ、これらは果物とはまた違った食感と風味を楽しませてくれます。

香りの面でも、フルーツの華やかな香りとマスタードのツンとした刺激的な香りが混ざり合い、食欲をそそります。瓶を開けた瞬間に広がるこの香りは、まさに北イタリアの食文化を象徴するものと言えるでしょう。

地域ごとに異なる個性豊かなモスタルダたち

イタリア各地で作られるモスタルダは、それぞれの地域性を反映した個性的な特徴を持っています。代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

モスタルダ・ディ・クレモナ(Mostarda di Cremona)は、最も有名なモスタルダの一つ。様々な果物を丸ごと、または大きくカットして使用するのが特徴です。見た目も華やかで、クリスマスシーズンには欠かせない存在となっています。

モスタルダ・ディ・マントヴァ(Mostarda di Mantova)は、モスタルダ発祥の地で作られる伝統的なタイプ。リンゴを主体とし、マルメロ(カリン)やナシを加えることもあります。果物を細かく刻んで作るため、ペースト状に近い仕上がりになることが多いですね。

モスタルダ・ヴェネタ(Mostarda Veneta)は、ヴェネト州で作られるタイプで、マルメロを主原料とすることが多く、比較的マイルドな辛味が特徴です。

さらに興味深いのが、モスタルダ・クニャ(Mostarda Cugnà)。ピエモンテ州特産のこのタイプは、ブドウ、洋ナシ、イチジク、ナッツを煮込んで作られ、砂糖を加えず、辛味もないという、他のモスタルダとは一線を画す存在です。

シェフレピでのレッスン撮影の際、関口シェフから教わったパイナップルとレフォール(西洋ワサビ)のモスタルダに感動したことを覚えています。
基本のマスタードに留まらず、日本でも様々なアレンジが広がっているのですね。

各地域のモスタルダを食べ比べてみると、イタリアの食文化の多様性を実感できます。同じ「モスタルダ」という名前でも、これほどまでに違いがあるなんて、本当に奥が深いですよね。

基本は果物・野菜・マスタード・砂糖のシンプルな組み合わせ

モスタルダの材料は、意外にもシンプルです。基本となるのは以下の4つ:

  1. 果物または野菜 – リンゴ、洋梨、アプリコット、イチジク、サクランボ、カボチャ、カブなど
  2. マスタード – 粉末または粒マスタードや練りマスタード
  3. 砂糖 – シロップを作るために使用
  4. – シロップのベースとして

地域や家庭によっては、これにナッツ類(クルミ、アーモンドなど)を加えることもあります。また、レモンの皮やシナモン、クローブなどのスパイスで風味付けすることも。

果物の選び方にもコツがあります。完熟しすぎていない、やや硬めの果物を選ぶことで、煮込んでも形が崩れにくく、美しい仕上がりになります。野菜を使う場合も同様で、煮崩れしにくい品種を選ぶのがポイントです。

マスタードの量は、好みによって調整できますが、一般的には控えめに使用します。あくまでも果物の甘さを引き立てる程度の辛味が理想的。初めて作る場合は、少なめから始めて、徐々に自分好みの辛さを見つけていくのがおすすめです。

時間をかけてじっくり煮込む、伝統的な製法の秘密

モスタルダ作りは、決して難しくはありませんが、時間と愛情が必要な作業です。伝統的な製法では、以下のような工程を経て作られます。

まず、果物や野菜を適当な大きさにカットします。大きさは好みですが、一口大程度が食べやすく、見た目も美しく仕上がります。次に、砂糖と水でシロップを作り、そこに果物を加えて煮込みます。

ここでポイントとなるのが、煮込む時間と火加減。強火で一気に煮てしまうと、果物が崩れてしまいます。弱火でじっくりと、果物に甘みを含ませるように煮込むのがコツ。途中でアクを丁寧に取り除くことも、澄んだ美しいシロップに仕上げるために重要です。

マスタードを加えるタイミングも大切。煮込みの最後に加えることで、辛味が飛びすぎず、ちょうど良い刺激を残すことができます。完成したモスタルダは、熱いうちに殺菌した瓶に詰めて密封します。

伝統的な家庭では、この作業を家族総出で行うことも。秋の収穫期に、一年分のモスタルダを仕込む光景は、北イタリアの風物詩とも言えるでしょう。手間はかかりますが、その分、出来上がったときの喜びもひとしおです。

まとめ

モスタルダは、14世紀から続く北イタリアの伝統的な保存食として、今もなお多くの人々に愛され続けています。フルーツの甘さとマスタードの辛味が織りなす独特の味わいは、一度食べたら忘れられない印象を残します。

ゴンザーガ家の時代には高級品として珍重され、現代では各地域で独自の発展を遂げたモスタルダ。クレモナ、マントヴァ、ヴェネタ、そしてクニャと、それぞれに個性があり、イタリアの食文化の豊かさを物語っています。

シンプルな材料から生まれる複雑な味わい、そして時間をかけて丁寧に作り上げる伝統的な製法。モスタルダは単なる調味料や保存食を超えて、イタリアの食文化そのものを体現する存在と言えるでしょう。チーズや生ハムと合わせて楽しむもよし、ボッリート・ミストの付け合わせとして味わうもよし。あなたも一度、この魅惑的な北イタリアの味を体験してみてはいかがでしょうか。

さいごに

シェフレピでは、イタリア料理人の関口シェフによる「牛肉のタリアータ パイナップルのモスタルダとローストポテト」のレッスンを公開しております!
パイナップルの甘味と酸味、レフォールの爽やかさがステーキとの相性抜群。ぜひこの機会にチェックしてみてください。

牛肉のタリアータ パイナップルのモスタルダとローストポテト/イタリア料理人 関口幸秀

イタリア語「薄く切った」を意味するタリアータは、塊肉で焼いてからサラダと一緒に食べるのがイタリア流です。ソースは王道の赤ワインとバルサミコ酢。付け合わせのパイナップルのモスタルダとローストポテトもよく合います。フライパンだけで焼きあげるテクニックを習得すれば、家庭でもおいしいステーキが食べられるようになります。

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