🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 3人のグランシェフのDNAを引き継いだ「丁寧な料理」

3人のグランシェフのDNAを引き継いだ「丁寧な料理」

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分です。

大森雄哉|TOYO Tokyo

伝統的なフランス料理をみっちりと学んできた大森雄哉さんが用意した煮込み料理は「和牛ホホ肉の赤ワイン煮込み」です。

本来は、うま味のベースになるフォン・ド・ヴォー(牛骨の出汁)を使うのですが、家庭でも再現できるように、うま味を野菜から引き出す方法で、酸味の利いた赤ワイン煮込みを作ります。

うま味を引き出すための野菜の切り方や煮込み中の微妙な火加減など、レストランシェフの技を学べるだけでなく、付け合わせのマッシュポテトのレシピは、さまざまな肉料理の付け合わせにもなるので、ぜひ覚えておきたい料理です。

厳しくも的確に指導してくれたグランシェフ

熊本県出身の大森さんは、九州を代表する3人のグランシェフに料理を学びました。

一人は、鹿児島県生まれのフランス料理人、上柿元 勝氏です。上柿元氏は、フランスの伝説的な三つ星シェフ、アラン・シャペル氏に弟子入りした数少ない日本人料理人の一人で、シャペル氏の日本出店を機に帰国し、以降、日本のフランス料理界の発展に尽くした偉大なシェフです。

大森さんは、上柿元氏がハウステンボスで腕をふるっていた時に入社し、伝統的なフランス料理の基礎を叩きこまれました。「一流の料理人である前に、一流の人間であれ」というのが上柿元氏の教えで、料理に対してもちろん厳しい厨房だったと同時に、社会人としての在り方につていも厳しく指導をされたそうです。

続いて大森さんが学んだのは、地元・熊本市の名店「洋食の店 橋本」でした。オーナーの橋本民雄氏は、東京では帝国ホテルで料理をし、スイス、ドイツでも経験を積んだ料理人です。各国で学んだ本格的な西洋料理をベースに、故郷である・熊本旬の食材を取り込んだ料理は、東京からわざわざ訪れる食通が多くいます。

大森さんは、あるとき橋本氏に「人が心地よいと感じる塩分濃度は生理食塩水と同じ0.9%。毎日0.9%の塩水を飲んで覚えろ」とわれたそうです。

「それは、きつかったですよ。0.9%だけでなく、0.5%と0.7%、1.1%の食塩水も一緒に用意して、0.9%を軸にしながらその差や、日々によって心地よく感じる塩分濃度の違いまで得ようよ思って毎日2カ月くらい続けたんです。終わってから早く帰りたいのに、そのテイスティングをしなければ帰れない。だけど、僕も負けず嫌いなので『やるならとことん』と思ってやりました」

そうすると、0.9%の塩分濃度がわかるようになっただけでなく、どのような環境で人は、塩分が濃いものを欲するかなど、応用もできるようになったといいます。

「橋本シェフは、塩分ひとつとっても『お客様が感じる心地よさ』から考えることを大事にされていました。シェフを務めているTOYO Tokyoは、カウンターのお店なのですが、お客様を見て、そのかたにあわせて塩分を微妙に変えたりすることもできているのは、この時の経験なのだと思っています」

パリの中山シェフに出会い、衝撃を受けた

3人目のシェフは、パリで「Restaurant TOYO」のオーナーシェフを務める中山豊光さんです。大森さんと同じ、熊本県出身の料理人。パリで活躍していた世界的ファッションデザイナー、高田賢三氏の専属料理人として数々のVIPを相手に料理を振る舞ってきたあと、2009年に中山さんのニックネームを冠したレストランをオープンしています。

橋本氏の紹介で、「Restaurant TOYO」のオープニングを手伝うために渡仏。そこで、上柿元氏、橋本氏とは違ったフランス料理の姿を目の当たりにします。

「トヨさんの料理は、とにかく斬新でした。たとえば、魚料理の臭み消しに使うようなクールブイヨン(野菜出汁)で、リード・ヴォー(仔牛の乳腺)を煮込んでいたり、僕が学んできたフランス料理とは、また違うものでした」

しかし、斬新で奇抜に見える中山氏の料理ですが、基本は食材を丁寧にあつかう料理。素材本来のおいしさを伝えるという点は、上柿元氏や橋本氏も大切にしてきた料理の根本と同じでした。3人のグランシェフから学んできたことで、食材に対して真摯に向き合い、丁寧に料理をすることが、自然と大森さんのオリジナリティになっていったようです。

中火のなかにも10段階の火加減がある

「今回の『牛ホホ肉の赤ワイン煮込み』は、煮込み料理の基本中の基本です。うま味を引き出すことと同時に、雑味やえぐみを出さないこと。そのためには火加減がものすごく重要です。この料理が上手にできるようになると、どんな煮込み料理もおいしくできると思います」

2時間ほど煮込むのなら、煮込んでも野菜が溶けないようにすべて1.5㎝に切り揃えます(もっと煮込む料理の場合は、もっと大きく切る)。さらにしっかり炒めて甘味を出し、さらにメイラード反応(糖とアミノ酸が、加熱によって結合し褐色物質《メラノイジン》を生み出す反応のこと。一般に表面についた茶色の焼き色がうま味成分になることで説明される)を起こしうま味も引き出します。

メイラード反応をさせる一方で、行きすぎた焦げは苦味やえぐみを出すだけなので、火加減を調節が必要で、鍋につきっきりになる場面もあります。

「火加減は、強火・中火・弱火の三段階だけでなく、中火のなかに10段階の火加減があると思っています。そういったことは、若い料理人が多いTOYO Japanのスタッフにもいつも教えていることです。今回、煮込みの火加減について細かく説明していますので、TOYOのスタッフのような修業中の料理人が見ても勉強になるんじゃないかと思います」

さらに、日本酒や穀物酢を使うことワインだけでは出せない酸味とうま味を加えることで、日本人になじみのある料理になっています。フランスのレシピとはひと味違った大森さんの牛ホホ肉の赤ワイン煮込みを体験してみてください。

大森雄哉●おおもり・ゆうや
1983年熊本県出身。2004年辻調理技術専門学校卒業。同年、㈱ハウステンボスホテルズ入社。アランシャペル氏の弟子の上柿元勝氏に師事。2008年大阪フランス料理エプバンタイユ入社。同年、熊本・洋食店 橋本入社。2010年渡仏RESTAURANT TOYOで中山豊光氏に師事。その後帰国。2015年TOYOプロジェクト参画。2017年3月再渡仏 RESTAURANT TOYOにて中山豊光氏に師事。2018年3月「TOYO Tokyo」シェフに就任。
TOYO Tokyo:http://toyojapan.jp/

🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 3人のグランシェフのDNAを引き継いだ「丁寧な料理」