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h.b.|枯朽
伝統的なフランス料理をルーツに持ちながら、インドやネパールといったニューワールドな料理を積極的に取り入れて、オリジナリティあふれる世界観の料理が話題の料理人、h.b.さん。店舗をもたないフリーランスではありますが、不定期で開催するイベントは、告知したとたんに満席になる人気ぶりです。
h.b. さん前回のインタービュー記事
https://chefrepi.com/blogs/news/chef-hb
「皿の上は自由だ」というh.b.さんが「おもしろい食材」と感じるスパイスの魅力について話してもらいました。
こんなにも知らない食材が世界にはあるのかと驚いた
専門学校を卒業後、大阪のミシュラン一つ星のレストランでフランス料理を学んできたh.b.さんは、いわゆる「王道のクラシック料理」が好きだといいます。一方で、フランス料理ではクミンやフェンネル、コリアンダーといった基本的なスパイスの使用はあっても、積極的には使われないこともあって、「インドやネパールのスパイスに出会ったのは衝撃的だった」そうです。
出張料理人や間借り料理人になる前、都内のビストロでシェフをしていたh.b.さんは、新しいランチメニューのひとつとして、大阪時代から好きで食べ歩いていたスパイスカレーを出そうと考えます。
「東京でスパイスを買うなら新大久保かなと思って探しにいってみたら、初めて見るような食材やスパイスがたくさんあったんです。それだけならまだしも、日本語で説明が書いてないものも多くて。もともと調べるのが好きで、シェフもやり始めてだいぶ知っていることが増えたと思っていたのですが、まだまだ知らないことがあるんだと驚きました」
以来3年ほど、趣味の散歩もかねて新大久保に通い街を歩き回っては、未知のスパイスや食材、さらにはさまざまな国の文化を捜し歩いています。
「スパイスに出会って、こんなにおもしろい食材があるのに知らないのはもったいないと思いました。もともとレストランは、新しい食材を取り入れて自由に料理をしようという場所。まだまだ新しい素材を本当に取り入れられいないし、僕たち料理人ももっと違う世界を知らないといけない。そんなことに気付かせてもらえたのがスパイスだったんです」
フレンチシェフだからこそカレーがうまく作れなかった
スパイスを使ったカレーを作り始めた当時をh.b.さんは「なぜかカレーをおいしく作れなかったんです」と振り返ります。
「スパイスカレーは、さまざまな食材のうま味を重ねていく西洋のソースや煮込みのような出汁を使わず、食材と油、調味料とスパイスで作ります。おいしくするために、ちょっとフォン・ド・ヴォライユ(鶏の出汁)を入れるということができないので、最初は『水だけではどうしようもないじゃん』と思ってました(笑)。でもそこで出汁を入れてしまったらカレーとは違うものになると思って、『出汁なしでどうやっておいしく作るか』をひたすら考えるようになりました」
たとえば、タマネギもていねいにあめ色になるまで色づけるのではなく、強火で焦がしつけることでうま味を引き出すように、出汁なしでもおいしくなることに気付くようになります。暑いインドで作られていた料理であることを考えると、長時間火にかけて出汁をとらずに強火で瞬間的に調理する料理が生まれたことも納得でき、調理の根本的な意味も見えてきます。
「フランス料理のようにていねいにていねいに作るのとは根本的に違う」。それのことに気づいてから、カレーが上手になってきたなとh.b.さんはいいます。
素材の特徴を色濃く残す脂をスパイスでさっぱりと
「フランス料理をやってきたからスパイスがおもしろいと思えている部分もあるので、いろいろなお料理を作られてきた方にも僕が感じた楽しさを味わってもらえるような鴨肉のレシピを今回は考えました」
鴨を塩漬けにしてから焼き、さらに鴨の分厚い脂にフェンネルやコリアンダー、アジョワン(タイムに似た香りの種子のスパイス)、黒コショウ、スモークパプリカパウダーといった基本となるスパイスを漬け込む方法をとったのは、「鴨の脂もおいしく食べてほしい」からだといいます。
「鴨だけでなく、お肉のおいしいさは脂にあると思っています。その生き物が何を食べて、どんな暮らしをしていたのかは脂肪にかなり出てくる。ですので、良い食材であればあるほど脂まで食べてほしい。脂をおいしく食べるには、前回の『米沢豚のトムセップ風』(2021年4月にシェフレピで販売)で使ったタマリンドの酸味を使ってさっぱりと食べさせる方法などがあります。今回は、塩味とスパイスの香りや辛みといった刺激で脂っぽさを和らげる、酸味とは違ったテクニックを使っています」
塩漬けにして”鴨ハム”を作ってからフライパンとオーブンを使って焼いて、さらにスパイスで漬け込む。さらにエギュイエットという肉を薄くスライスし、熱々に焼き上げたリンゴと一緒に盛り付けることでリンゴの熱で鴨の脂を溶かし、脂についたスパイスの香りを立ち上らせるような仕立てです。さらには、うま味と甘味、酸味があるジューシーなリンゴがソース代わりにもなっています。
さらにh.bさんは、「家庭での再現性を重視したかった」ともいます。
「肉を焼きながらソースを温めて、その間に肉を切って、付け合わせの準備をする。そうしたら盛り付けてしているとソースが煮詰まってしまった、なんてこともありますよね。とくに、2人前で作ると量が少なくソースが煮詰まりやすかったりするので、料理人でも難しいんです。前日に鴨をハムのようにして火入れしておくことで味があらかじめついていますし、スライスも冷めたままで準備をしておけます。ゴボウチップも仕込んでおけば、リンゴの焼き上がりに合わせて盛り付けができるので、焦らずに完成させることができると思います」h.b.●エイチ・ビー
福岡県生まれ。高校卒業後、大阪の調理師専門学校に入学。
卒業後は大阪市内のミシュラン一つ星のフランス料理店に勤務し、フランス料理から料理人の基礎を学ぶ。その後、東京に移り、都内のビストロで料理長兼店長として務めた。その後、ビストロを退職し、独立準備に入る。伝統的なフランス料理をルーツにニューワールドな料理を積極的に取り入れた独創的な料理を発表し続けている。
Twitter:@huji_no_hana1Instagram:https://www.instagram.com/haricot.blanc/