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関口幸秀|イタリア料理人
関口幸秀シェフは、首都圏で6店舗を展開するイタリアン・レストラングループ「カステリーナ」の統括料理長として活躍していた頃から、レシピ開発や企業のオペレーション講習なども手掛け、「料理を作って提供する」以上の活動を続けてきました。現在は、自身の店をオープンするための準備を進めているといいます。
さらに関口シェフは、Twitterでは「おせっかい料理人」として活動しています。「おせっかい」を名乗るようになったのは、2019年7月頃。ちょうどSNSでの発信を始めた頃です。
それまでSNSでの発信を「カッコ悪い」と思ってやっていませんでしたが、統括料理長を経て、これからの働き方や未来像の実現するためにも想いを言葉で伝えていかなければならないと感じたことで、SNSを始めましたといいます。
「発信をしていくなら、自分をすぐに理解してもらえるような”肩書き”があったほうがいいなと思ったんです。僕自身としては、人に何かをしてあげたり、社会に貢献できる料理人になりたいと思っていたなかで、ふと『おせっかい』って言葉が思い浮かんだんです。おせっかいって、人に何かしても、見返りを求めないとか、あんまりマイナスな印象もないように感じたんです。昭和っぽい懐かしさもあるし、いいんじゃないかと思って使いはじめました」
おせっかい料理人としての活動
おせっかい料理人を名乗り始めてから1、2カ月経った後、2019年10月、「令和元年東日本台風」(台風19号)が東日本を襲います。とくに長野県では千曲川が氾濫するなど災害の規模は大きく、県内の多くのリンゴ農家が被災しました。
「食材がなければ料理ができない。料理人にとって産地が被災することは、自分たち自身の問題でもある」といった思いが募るなか、Twitter上で、フランス・カーニュのレストラン「La Table de KAMIYA」のオーナーシェフ、神谷隆幸さんが中心になった#被災地農家応援レシピという運動を目にします。
この運動に賛同した関口シェフは、リンゴを使った調味料「モスタルダ」のレシピを投稿します。これがきっかけになって、神谷シェフが代表を務める#CookForJapan という食のプログループにも参加。2020年2月には、前年の令和東日本台風で被災した長野県でポップアップレストランにも参加した関口シェフは、産地や生産者との結びつきをより強くしていきます。
さらにコロナ禍では、関口シェフ自身が自宅にいる時間が増えたことで「冷蔵庫の中のものをきちんと使いきる大変さ」に気付き、家庭の日々の食事の苦労や悩みを身を料理人の知識や経験で解決できないかと考えるようになります。
「僕もそうなんですけど、麻婆豆腐に使った豆板醬や、バーニャカウダーで使ったアンチョビなどが冷蔵庫に残っていることが多いと思うんです。うちの奥さんに『残ってる豆板醤を使ってみたら?』といったら、『使い方がわからない』といって答えたんですね。『うちの奥さんがそうなら、他にも同じ悩みを持つ人がいるんじゃないか』と思って、Twitterで冷蔵庫に余っている食材を募り、それを使ったレシピを紹介する#教えて消費レシピをはじめたんです」
これが予想以上に多くの反響があり、結果的に200種類以上の消費レシピが生まれました。さらに #教えて消費レシピ は、オンラインメディアのBuzzfeedやTwitterのトレンドなどに取り上げられます。
被災した産地を応援すること、目の前にいる身近な人たちが困っていることに料理人としてできることを考えて、それをすぐさま形にして発信していく。関口シェフの姿は、まさに”おせっかい”そのものでした。
料理人として料理を伝えていくこと
#教えて消費レシピでたくさんの人たちにレシピを伝えていく中で、関口シェフは「楽しさ」を意識してきたといいます。そのことは、今回のシェフレピのレシピキットにも大いに活かされています。
「日本人は忙しい人が多いので、レシピサイトやメディアで、楽(らく)する料理を伝えているように感じています。けどそれは、料理を作ることに対して『作らないといけない』とか『時間がかかる』などマイナスなイメージからの思考からなんですよね。料理は知識などを蓄積していくと必ずおいしくなるのに、料理人としてはちょっと淋しい気持ちがあります。なので僕は、料理人だからこその目線や基礎知識、なるほど!と思ってもらえるようなコツなどを伝ることで楽(らく)ではなく楽(たの)しんでもらえるようなことを目指したいんです」
イタリアで使われるニョッキボードもつけてパスタを成形したり、塩とハーブで漬け込む最高級の自家製生ベーコン、グアンチャーレを8日間かけて作ったりするようなレシピを提案したのは、「作ってみたい」「これ面白そう」というプラスなメージから料理と向き合ってもらいたいと考えたからです。
さらに、汎用性が高い基本のトマトソースも、一度覚えたら、繰り返し使えるレシピ。生パスタの加水量の調節や、関口シェフが料理人経験として学んだことなども丁寧に動画で伝えています。
「自分が知ってるより、ちょっと上くらいって楽しいいんですよ。味もまるっきり想像できないものよりは、9割想像できて、1割は想像できないくらいがワクワクしますよね。プロの技を知って、それを応用していくことで、食の豊かさがもっと広がっていくと思います」
「行きすぎない調理」をすることが上達する近道
「プロ野球の名監督、野村克也さんの座右の銘に、『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』という言葉があって、要はちゃんと、失敗したデータを蓄積していれば、成功する可能性は上がるということを言っています。料理もこれと同じで、失敗した料理から、なぜ失敗したのかをちゃんと自分の中で落とし込むことが大事なんです」
今回のレシピや動画を見ていると関口シェフは、リカバリーできる方法をとっていることに気付かされます。それは、これまでたくさんの失敗を経験してきたからこそ「失敗の仕方」をちゃんと知っているからだと関口シェフはいいます。そうして学んだ失敗しにくい方法は、「行きすぎない調理」だと関口シェフはいいます。
たとえば、料理の大きな失敗のひとつに「焦げ」があります。一度焦げてしまうと、元に戻すことはできず、焦げの臭いが付いたままです。それなら焦がさないように、少しずつ加熱していくと失敗を防ぐことができます。
塩加減も、入れすぎたらもとに戻せませんから、一度に加えず何度かにわけて少しずつ塩を加えた方が、入れすぎて失敗する可能性を減らせます。
動画では、トマトソースのタマネギの炒め方や煮込み方、グアンチャーレの焼き方などでその方法を教えてくれています。他にも、塩味の決め方なども丁寧に紹介されています。料理を作ることを楽しんで欲しいという関口シェフの”おせっかい”を体験してみてください。
関口幸秀●せきぐち・ゆきひで
千葉市川市出身。首都圏でグループ店を展開するイタリアンレストラン「カステリーナ」の統括料理長の経て、現在はフリーランス料理人。Twitterでは、おせっかい料理人として #教えて消費レシピ などで、料理人が考える家庭のレシピを伝える。 #教えて消費レシピは、Buzzfeedなどのメディアにも取り上げられた。2019年の台風被害によって始まった#CookForJapanのメンバーでもある。2021年6月には#CookForJapan×食べチョクのポップアップレストラン「RESQ」のメインシェフを務めた。関口シェフ Twitter
関口シェフ Instagram