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ブレゼとは?フランス料理の蒸し煮技法を徹底解説

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はじめに

こんにちは。シェフレピの池田です。今回はフランス料理の調理法「ブレゼ」についてお話ししていきたいと思います。
フランス料理の調理技法には、素材の旨味を最大限に引き出す知恵が詰まっています。その中でも「ブレゼ」は、硬い肉を驚くほど柔らかく、そして風味豊かに仕上げる魔法のような調理法です。密閉した鍋の中で、少量の水分と共にじっくりと加熱することで、素材本来の味わいが凝縮され、まるで高級レストランのような一皿が家庭でも作れるのです。

蒸しながら煮る、フランス料理の知恵「ブレゼ」

ブレゼ(braiser)とは、フランス語で「蒸し煮にする」という意味を持つ調理法です。肉類や魚介類、野菜などの食材を、まず油脂で表面を焼き固めてから、少量の液体(だし汁、ワイン、ブイヨンなど)と共に密閉性の高い鍋などに入れ、オーブンなどでじっくりと加熱する技法を指します。

この調理法の最大の特徴は、素材が液体に半分程度しか浸からない状態で調理することです。完全に液体に浸かる「煮込み」とは異なり、上部は蒸気で、下部は液体で同時に加熱されるため、素材の旨味が逃げることなく、むしろ凝縮されていくのです。まさに「蒸す」と「煮る」の良いところを合わせ持った、理にかなった調理法と言えるでしょう。

19世紀から受け継がれる、ブレゼの歴史と文化

ブレゼの起源は19世紀のフランスにさかのぼります。当時のフランスでは、硬い部位の肉や野鳥など、そのままでは食べにくい食材を美味しく調理する方法が模索されていました。そんな中で生まれたのが、このブレゼという技法です。

フランスの家庭では、日曜日の昼食に家族が集まって食事をする習慣があります。その際、朝から仕込んでおいたブレゼ料理がテーブルに並ぶことも多く、家族の絆を深める大切な料理として愛されてきました。特に冬の寒い時期には、オーブンから漂う香ばしい香りが家中を包み、温かな団らんの時間を演出してきたのです。

現代においても、ブレゼはフランス料理の基本技法として、プロの料理人から家庭料理まで幅広く活用されています。伝統的な調理法を尊重しつつも、現代の食のシーンに合わせた進化も見られる点は興味深いですね。

じわっと旨味が凝縮する、ブレゼの3つの特徴

ブレゼには、他の調理法にはない独特の特徴があります。

まず第一に、密閉調理による旨味の凝縮です。蓋をしっかりと閉めた鍋の中で調理することで、素材から出た水分や香りが逃げることなく、再び素材に戻っていきます。この循環によって、驚くほど深い味わいが生まれるのです。

第二の特徴は、二段階の加熱プロセスです。最初に表面を焼き固めることで、肉汁や旨味を閉じ込め、その後のゆっくりとした加熱で内部まで火を通します。この工程により、外は香ばしく、中はしっとりとした理想的な食感が実現します。

そして第三に、少量の水分での調理という点が挙げられます。素材が半分程度しか液体に浸からないため、煮崩れすることなく、形を保ったまま柔らかく仕上がります。また、調理後の煮汁は濃厚なソースとして活用でき、一滴も無駄にならない合理的な調理法なのです。

地域で異なる、ブレゼの多彩な表情

フランス各地では、その土地の食材や文化に合わせた独自のブレゼ料理が発展してきました。

ブルゴーニュ地方では、名産の赤ワインを使った「牛肉のブレゼ」が有名です。牛肉を赤ワインでブレゼすることで、ワインの酸味と牛肉の旨味が見事に調和し、深みのある味わいに仕上がります。一方、プロヴァンス地方では、トマトやオリーブ、ハーブをふんだんに使った地中海風のブレゼが人気です。

また、アルザス地方では、ザワークラウト(発酵キャベツ)と豚肉を組み合わせたブレゼ料理「シュークルート」が郷土料理として愛されています。各地域の解釈によって調理法や付け合わせが異なる点が、この料理の面白い点ですね。

日本でも、フランス料理の技法を取り入れながら、和の食材を使ったブレゼが創作されています。例えば、鯛や鰤などの魚を日本酒でブレゼしたり、根菜類を出汁でブレゼしたりと、和洋折衷の新しい味わいが生まれています。

ブレゼに欠かせない、基本の材料と味の決め手

ブレゼを成功させるには、適切な材料選びが重要です。

肉類では、豚肩肉、牛すね肉、鶏もも肉など、やや硬めで脂肪分のある部位が最適です。これらの部位は、長時間の加熱によってコラーゲンがゼラチン質に変化し、とろけるような柔らかさになります。魚介類なら、鯛やスズキなど身のしっかりした白身魚が向いています。

野菜は、玉ねぎ、人参、セロリなどの香味野菜が基本です。これらは「ミルポワ」と呼ばれ、料理全体の味の土台となります。また、じゃがいもやカブ、キャベツなども相性が良く、肉や魚の旨味を吸収して美味しくなります。

液体の選択も重要なポイントです。赤ワインは牛肉に、白ワインは豚肉や鶏肉、魚に合います。だし汁やブイヨンを使う場合は、素材の味を邪魔しない優しい味わいのものを選びましょう。液体の量は、素材の半分程度が浸かる程度が目安です。多すぎると煮込み料理になってしまい、少なすぎると焦げ付きの原因になります。

本格ブレゼの調理手順

ブレゼの基本的な調理手順を解説します。

  1. 下準備:肉は室温に戻し、塩・胡椒で下味をつけます。野菜は大きめにカットし、香味野菜は別に用意します。

  2. 焼き固め:厚手の鍋に油を熱し、肉の表面を強火でしっかりと焼き色をつけます。この工程で旨味を閉じ込めるのです。焼き色がついたら一旦取り出します。

  3. 香味野菜の調理:同じ鍋で香味野菜を炒めます。肉の焼き汁と野菜の甘みが合わさり、ソースのベースができあがります。

  4. 液体の投入:ワインやだし汁を加え、鍋底についた旨味をこそげ取ります。これを「デグラッセ」と呼び、料理の味を決める重要な工程です。

  5. オーブン調理:肉を鍋に戻し、蓋をしてオーブンへ。160〜180度で1〜3時間、素材によって調整します。途中で一度確認し、必要なら液体を足します。

  6. 仕上げ:肉が柔らかくなったら取り出し、煮汁を濾してソースに仕上げます。必要に応じてバターや生クリームでコクを加えます。

家庭でオーブンがない場合は、弱火でコトコトと加熱する方法でも構いません。ただし、火加減の調整には注意が必要です。あなたもこの手順で、レストランのような一皿に挑戦してみませんか?

まとめ

ブレゼは、19世紀のフランスで生まれた「蒸しながら煮る」という独特の調理法です。密閉した鍋で少量の水分と共に加熱することで、素材の旨味を最大限に引き出し、硬い肉も驚くほど柔らかく仕上げることができます。

この調理法の魅力は、単に美味しい料理が作れるだけでなく、調理の過程で生まれる香りや、家族で囲む食卓の温かさにもあります。フランスの各地域で独自の発展を遂げ、今では世界中で愛される調理技法となりました。

基本の手順さえ押さえれば、家庭でも本格的なブレゼ料理を楽しむことができます。週末の特別な日に、じっくりと時間をかけてブレゼ料理に挑戦してみてはいかがでしょうか。オーブンから漂う香ばしい香りと、とろけるような柔らかさの肉料理は、きっと忘れられない味わいになることでしょう。

さいごに

シェフレピでは、ブレゼの技法を使用した「多良木町産の猪肉とゴボウの煮込み キャベツのブレゼ」、「豚肉のブレゼ(蒸し煮) キャベツとムール貝のクリームソース」2種のレッスンを公開しております!
ぜひこの機会にチェックしてみてください!

多良木町産の猪肉とゴボウの煮込み キャベツのブレゼ/モノリス 石井剛

熊本県多良木町のイノシシを「モノリス」の石井剛シェフが「日本で一番良い」と絶賛するのは、多様性あふれる豊かな山の恵みを受けながら育ったからだといいます。今回、石井シェフが人気のあるロースなどの部位ではなく、普段あまり使われない部位のスネ肉やバラ肉をあえて使ったのは、山の恵みを余すことなく使いきりたいから。フランスの伝統料理から発想を得たイノシシの煮込み料理は、行程は多いですが難しい作業はありません。一つひとつ丁寧に作っていけば、質のよいイノシシならではのクリアなうま味の煮込み料理が完成します。山の恵みに感謝しながらいただきましょう。

豚肉のブレゼ(蒸し煮) キャベツとムール貝のクリームソース/枯朽 清藤洸希

ブレゼは、ラグー(煮込み)と似た調理法ですが、肉や野菜の一部が浸かるほどしか液体を入れません。こうすることで蓋をした鍋の中で「煮込み」と「蒸し焼き」の両方の調理を行えます。豚肉やムール貝、野菜からの出汁と生クリームの濃厚なソースを、レモンやマスタードなどの酸味でまとめ上げます。

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