🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 料理上手になるには » 「0.1」を積み上げていくと料理は上手になる

「0.1」を積み上げていくと料理は上手になる

この記事を読むのに必要な時間は約 10 分です。

Chef Ropia(シェフロピア)|リストランテ フローリア

YouTubeチャンネル「Chef Ropia料理人の世界」の登録者数55万人以上(2023年1月9日時点)を誇る人気のイタリアンシェフ、Chef Ropia(シェフロピア)さんは、長野市にあるイタリアンレストラン「Ristorante Floria(リストランテ・フローリア)」のオーナーシェフでもあります。

2013年以来、シェフとしてRistorante Floriaのキッチンに立ち続け、ランチとディナーでたくさんのゲストを迎えてきました。さらに2014年からYouTubeに動画投稿を開始。動画クリエイターとしての活動を続けています。実店舗での料理だけでなく、動画で投稿しているレシピにおいても、Chef Ropiaさんは、毎日のように作ってきたプロならではの説得力のある料理を発信し続けています。

長野市にあるイタリアンレストラン「Ristorante Floria」。

積み重ねる「0.1」は作る以外の場面にもある

Chef Ropiaさんが監修した全3回のレッスン「YouTubeで伝えきれなかったパスタの基本」でも、一つひとつの行程の意味を解説しながらパスタを作っています。行程の隅々にわたるこだわりの数々をChef Ropiaさんは、「0.1の積み重ね」と呼び、店のホームページでも、レストランで働く人と生産者、そしてゲストとの目指す関係性にまで通じる大切な想いとして書き綴られているものでもあります。

Chef Ropiaさんが大切にする「0.1の積み重ね」は、動画クリエイターとしての活動のなかで感じた経験がもとになっているそうです。

動画を公開すると、さまざまな反応をコメント欄にいただきます。なかには、否定的なコメントもあって、たとえば『そこで塩をふる意味はない』というような指摘をいただくこともあります。たしかに、塩をしたからといって仕上がりに大きな差が生まれないこともあります。その場面だけを見たらほんの少しの差でも、それをいくつも積み重ねていくことで、出来あがった料理に大きな差が生まれる。僕は、そういったこだわりの積み重ねを『0.1の積み重ね』といっているんです

Chef Ropiaさんがいう「0.1」というのは、食材や調味料を加えるタイミングや量といったレシピに関わることだけではありません。食べやすい盛り付けや、料理を出す際の温度など、レシピに書かれていないことも「0.1」の積み重ねになるといいます。

レッスンの1回目で作るのは、合計再生回数100万回越えの人気レシピ「極上ボロネーゼ」。動画では伝えきれなかった野菜の切り方や肉の焼き方、煮込み加減などを解説するほか、Chef Ropiaさんが好んで使うトマト缶で、業務用で入手が難しい「ピノキオ」も届くのでシェフの味に限りなく近づくことができる。
ソース作りからスパゲティの茹で方・和え方など、パスタを作る基本が学べるChef Ropiaさんのレッスンでは、ソースを作ることで煮込み料理の基本も学ぶことができます。

料理上手への第一歩は「計量」にある

普段のYouTube動画では、視聴者に「作ってみたい」と感じてもらえるような動画制作を目指し、広く知られるイタリアの定番料理を中心に、料理の楽しさを伝えることを心がけているとChef Ropiaさんはいいます。2020年に初の著書を出版して以来、3冊出版しているレシピ本でも、料理の楽しさや、くり返し作り続けることの大切さを伝えています。

『料理がうまくなるには、どうしたらいいですか?』とよく聞かれます。そのたびに、家族や友人、恋人など大事な人に料理を作るときのことを思い出してほしいとお答えしているんです。相手によろこんでもらおうとする気持ちをもつことで、レシピ以外のことにまですごく気をつかうようになります。相手を思うことは、丁寧に料理を作ることにも繋がる。そうすれば、料理はどんどんうまくなると思います

料理に向き合う心構えをそのように表現したうえでChef Ropiaさんは、料理上手の最初の一歩は「計量」にあるといいます。

しかしYouTubeでの動画配信では最初の頃、それほど熱心に「計量」の重要性を視聴者に伝えることはしていなかったといいます。次第にチャンネルが人気になり、実際に動画を見ながら料理をしている人が増えてくると、反応が多くなる一方で、失敗したというコメントも寄せられるようになります。

失敗したという方々を観察して気付いたことは、計量していないことに気付いたんです。それをなぜだろうと考えたときに、たとえばタマネギ1/2個といっても大きさによって量が違ったりするんですよね。それ以来、動画ではすべてグラム単位で表示するようにして、スケール(計量器)で計量をしてもらうことを前提にするようにしました。『1000円もしないので、買ってくれ!』という感じでお願いをしています(笑)

素材の個体差のほか、小さじ1杯や大さじ1杯といっても計量スプーンをもっていない人も多く、体感で加えてしまっている人も多い。そのことを知り、Chef Ropiaさんは、調味料もすべてグラム表記を徹底します。すると「失敗の報告」は、格段に少なくなったといいます。

「僕が憧れたのは、テレビ番組『料理の鉄人』(後に『アイアンシェフ』として復活)に出演するシェフたちでした。フライパンに『バサッー』と無造作に調味料を加えたり、その場で思いついたかのように食材を合わせたりしているのを見て『カッコいい!』と憧れたものです。計量もせず、身体や頭で覚えた感覚で料理をする。すごくカッコいいですが、料理初心者がそれをやったらハチャメチャになってしまいます(笑)。まずは基本を学ぶ上でも、計量は大事なんです」とChef Ropiaさん。
2回目のレッスンで作る「魚のラグーパスタ」は、シェフロピアさんの動画や実際のお店「リストランテ フローリア」でも人気の料理のひとつ。今回は、オイル系のソースの基本で応用力のあるレシピで、炒めすぎず香味野菜の甘味だけを引き出し、ニンニクのやわらかいコクでバランスをとるのがポイント。軽やかで淡い味わいの白身魚を繊細に支える。

数値化しづらい「加減とバランス」は料理上手のセカンドステップ

計量」が料理上手の第一歩だとしたら、次のステップは「加減とバランス」です。同じ食材でもあるときは強火で炒めるのに、別の時は弱火で炒める、もしくはほぼ炒めないときもある。それによって仕上がりが軽くなることもあれば、香りが強くなったり、食べ応えのある濃厚な料理にもなる。正解は決してひとつではないということを感じとれるようになると、第二ステップの楽しさが生まれます。

計量は、料理の数値化だとすれば『加減とバランス』は、逆に数値化しづらい部分です。だからこそ、そこにまで目が行き届くようになるとさらに料理は上手になると思います。その点でシェフレピさんのサービスは、食材が計量されたところから料理が始められるので、計量の再現性が高い。今回のレッスンでも、ソフリットを作るときにタマネギ、ニンジン、セロリのバランスは『3:2:1』でと伝えていても、YouTubeの動画などで自分で食材を集めていたりする方のなかには、残ってしまったニンジンももったいないから入れちゃえってこともありますから

さらに食材の下処理などは、YouTubeで公開する場合、動画が長くならないようにカットすることもあります。シェフレピで、調理工程を全公開することで、たとえばまな板をきれいに保ったまま順序よく下処理をしていくコツや、調理器具の選び方、調理工程が変わる度に行う段取りの確認など、伝えきれなかったことまで公開できるようになったといいます。

シェフレピの動画制作スタッフからの質問を通じて、気付かされたことも多く、自分だけでは伝えきれていなかったことがたくさんあることに改めて知りました。レッスンのタイトル通り『YouTubeで伝えきれなかったパスタの基本』になっていますので、チャンネルのファンの方にとっても新鮮なレッスンになっていると思います

シェフレピの食材キットは、計量済みの食材が届くのはもちろん、シェフと同じ食材や調味料が届くことも特徴のひとつ。今回のレッスンでも、Chef Ropiaさんが実際のお店でも使っている「ピノキオ」のトマト缶が届く。

正解がたくさんあるからこそ自分のゴール地点を知っておく

YouTubeの動画でも、今回のレッスンでも『こうでなければダメ』というように言い切らないようにしています。というのもRistorante Floriaは2016年に、在日イタリア商工会議所が授与する機関認定AQI(Adesivo di Qualità Italiana)からイタリアンレストランの品質認証を受けています。そのため、伝統的なイタリア料理をできるだけ現地のレシピに沿って作っていきたい。一方で、イタリア料理と、醤油や味噌など日本の食材を融合させて、イタリアにはない日本ならではのイタリア料理を創り出しているシェフたちもいます。シェフによって『正解』があるように、料理にも正解はたくさんある思うのです

Chef Ropiaさんが若い料理人時代に、レシピ本などで学んだシェフ、たとえば「LA BETTOLA da Ochiai(ラ・ベットラ・ダ・オチアイ )」の落合務シェフは、伝統的なイタリア料理を作り続ける日本のイタリア料理の巨匠です。一方、「リストランテ アクアパッツァ」の日髙良美シェフは、伝統的なイタリア料理を作りながらも、海苔や乾物など、日本の食材を大胆に使ったイタリア料理を作り続けています。

同じようにイタリアで修業しても、長い年月の末、シェフにしかできないイタリア料理を生み出したという点で、どちらが正解とはいうことはできないのではないかとChef Ropiaさんは感じています。

ゴール地点を知っておくというのも大切なことだと思います。僕の場合、2007年頃に、プロ向けの料理講習会で憧れだった落合シェフの料理をはじめて食べたんです。食べたのはボロネーゼ。それまで落合シェフのレシピでボロネーゼを作っていたことはありましたが、実際に食べてみると、チーズもがっつり、塩気もきちっと決まっていました

自分が作ったものとは違う強い味がした落合シェフのボロネーゼに衝撃を受けた一方で、その経験以降は、あの味よりも強くしたい、もしくは弱くしたいと、ゴール地点がはっきり見えるようにもなりました。ゴールがはっきり見えると「加減とバランス」もつけやすくなったといいます。
食べることが好きという人は、ゴールをたくさん知っているということで料理上手になる可能性があると思います。それは外食するかどうかだけではないと思っていて、それは、自分自身に味の物差しをしっかりもっていることだとも思うんです。自分は濃い味が好きだけど、こうすると軽くなるんだなというように、味を感覚ではなく要素として細分化させていく。そうすると調味料やスパイスの使い方などから、おいしいポイントを探れるようになります。さまざまな食体験をしていくことで、料理は上手になっていくと思いますし、何より食べることがさらに楽しくなっていくと思います

AQI(Adesivo di Qualità Italiana):イタリア料理の伝統的なレシピを遵守し、イタリアの文化とホスピタリティーをゲストに伝える努力をしているイタリアンレストランに在日イタリア商工会議所がその品質を認定する。その機関のこと。
シェフロピアさんが初めて勤めたお店で人気だったという思い出のメニューを初レシピ化した「パスタグラタン」は、レッスンの最終3回目で作る。ナポリタンにグラタンで使用するベシャメルソース(ホワイトソース)とチーズをかけて焼き上げる。エビのうま味と香りの引き出し方やベシャメルソースの作り方など、料理の基本がギッシリ詰まったレッスンだ。

Chef Ropia●シェフロピア
2014年11月にYouTubeチャンネル「Chef Ropia料理人の世界」を開設。プロの料理人が家庭でも再現できる料理を伝える調理動画を中心に公開、2018年には、動画総再生数100万回と登録者1万人を達成した。2020年7月には初の著書『Chef Ropia 極上のおうちイタリアン』(ワニブックス)を上梓する。近著に、『Chef Ropiaのまかない帖』(大和書房)、『Chef Ropia 極上のイタリアンおつまみ』(ワニブックス)がある。2022年12月現在でチャンネル登録者数は55万人。本名は、小林諭史。1980年長野市生まれ。24歳で食の世界へ飛び込み、各地のイタリア料理店で修業を重ねる。2013年に長野市「リストランテ フローリア」の料理長、2016年にオーナーシェフに就任した。
YouTube:https://www.youtube.com/@ChefRopia/
Homepage:https://ropia.jimdo.com/
Twitter:https://twitter.com/ropia515
Instagram:https://www.instagram.com/chef_ropia/

photos by さいだー

連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。

関連商品:「YouTubeで伝えきれなかったパスタの基本

🏠 » シェフレピマガジン » シェフインタビュー » 料理上手になるには » 「0.1」を積み上げていくと料理は上手になる