この記事を読むのに必要な時間は約 7 分です。

Table of Contents
はじめに:心温まる家庭の味、筑前煮
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は家庭料理の定番「筑前煮」についてお話していきたいと思います。
「筑前煮」と聞くと、どこか懐かしく、心温まる家庭の味を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。鶏肉や根菜がごろごろと入った、甘辛い醤油味の煮物。日本の食卓に深く根付いたこの料理は、一体どのように生まれ、愛されてきたのでしょう?この記事では、筑前煮の定義からその歴史、特徴、そしてご家庭でも楽しめる調理のポイントまで、詳しく掘り下げていきます。
私にとっての筑前煮は、やはりお正月の思い出でしょうか。母と祖母が台所でお節料理の準備をしている横で、こんにゃくを結ぶ手伝いをするのが楽しかったのを覚えています。一緒に作った筑前煮のあの優しい甘さと具材の旨味が染み込んだ味わい。特に、味がしっかり染みた鶏肉と、ほっくりとした里芋の組み合わせは格別で、今でも忘れられない記憶です。皆さんにとっての筑前煮は、どんな思い出と結びついていますか?
筑前煮ってどんな料理?その定義と魅力に迫る
筑前煮は、鶏肉、れんこん、にんじん、ごぼう、しいたけ、こんにゃくなどの具材を油で炒めてから、砂糖と醤油をベースにした甘辛い出汁で煮詰めた料理です。最大の特徴は、煮る前に具材を油で炒めること。これにより、具材の旨味を閉じ込め、コクと照りが生まれます。まさに、日本の家庭料理を代表する煮物の一つと言えるでしょう。
「煮物」と一括りにされがちですが、他の煮物とは一線を画す特徴を持っています。例えば、「煮しめ」は炒める工程がなく、出汁でじっくり煮含めるのが一般的。筑前煮は、炒めることで生まれる香ばしさとコクが加わる点が異なりますね。このひと手間が、筑前煮ならではの深い味わいを生み出しているのです。
筑前煮、そのルーツを探る:福岡の郷土料理「がめ煮」からの変遷
筑前煮の起源は、現在の福岡県にあたる筑前国にあります。元々は「がめ煮」という名前で親しまれていた郷土料理でした。その名前の由来には諸説あります。
一つは、博多弁で「寄せ集める」を意味する「がめくり込む」から来ているという説。あり合わせの材料を一緒に煮込む様子を表しているのかもしれません。
また、文禄の役(1592年)の際に、豊臣秀吉の朝鮮出兵に参加した兵士たちが、スッポン(当時は「どぶがめ」と呼ばれた)と手に入る野菜を煮込んで食べたのが始まり、という説も有力です。さらに、博多湾に多く生息していたカメ(亀)を使ったから「亀煮(がめに)」になった、という説もあります。
いずれにせよ、当初はスッポンやカメが使われていたようですが、時代とともに手に入りやすい鶏肉が主流となりました。この「がめ煮」が、学校給食などを通じて全国に広まる過程で、「筑前煮」という名称が定着したと考えられています。福岡では今でも「がめ煮」と呼ぶのが一般的で、正月料理や祝い事には欠かせない、まさに“ソウルフード”なのです。
筑前煮を彩る!定番の具材とそのハーモニー
筑前煮の魅力は、なんといってもその具材の豊富さ。それぞれの食材が持つ味や食感が、甘辛い煮汁の中で見事に調和します。
- 鶏肉: 旨味のベースとなる重要な存在。もも肉が使われることが多く、炒めることで香ばしさが増し、煮込むことで柔らかくジューシーに仕上がります。
- 根菜類(れんこん、にんじん、ごぼう): シャキシャキとした食感が楽しいれんこん、彩りと甘みを加えるにんじん、独特の香りと歯ごたえが魅力のごぼう。これらの根菜が、筑前煮に深みと食べ応えを与えます。特に福岡市は、ごぼうの消費量が全国トップクラスであり、がめ煮(筑前煮)の影響が大きいと言われています。
- しいたけ: 干ししいたけを使うのが一般的。その豊かな風味と旨味は、煮汁に深いコクを与えます。戻し汁もだしとして活用されることが多いですね。
- こんにゃく: プリプリとした食感がアクセントに。手綱こんにゃくや、ちぎりこんにゃくなど、形を工夫すると味が染み込みやすくなります。
- その他: 里芋やたけのこ、さやえんどう(彩り用)などもよく使われます。里芋のねっとりとした食感もたまりません。
これらの具材が、それぞれの持ち味を発揮しつつ、一つの鍋の中で見事なハーモニーを奏でる。これぞ筑前煮の醍醐味と言えるでしょう。

炒めて煮るのがミソ!筑前煮ならではの特徴とは?
筑前煮を筑前煮たらしめる最大の特徴は、「炒り煮」という調理法にあります。つまり、煮込む前に具材を油で炒める工程です。
なぜ炒めるのでしょうか? それは、いくつかの理由があります。
まず、油で炒めることで、鶏肉や野菜の表面がコーティングされ、旨味が内部に閉じ込められます。同時に、余分な水分が飛び、味が凝縮されるのです。
次に、炒めることで香ばしさが加わり、料理全体の風味が増します。特に鶏肉や根菜は、油との相性が抜群です。
さらに、油のコクが煮汁に溶け出し、味に深みと照りを与えます。この照りが、見た目の美味しさにも繋がるわけですね。
この「炒める」ひと手間が、単なる煮物とは違う、筑前煮独特のコクと風味、そして美しい照りを生み出す秘訣なのです。まさに、筑前煮の“ミソ”と言える工程でしょう。
地域や家庭で変わる顔:筑前煮のバリエーション
全国的に知られる筑前煮ですが、発祥の地である九州北部、特に福岡では「がめ煮」として、地域や家庭ごとに少しずつ異なるレシピが受け継がれています。
例えば、福岡市近郊の志賀島では、縁起を担いで具材の種類を必ず奇数にするという風習があるそうです。面白いですよね。
また、使う具材も微妙に異なります。里芋を入れる家庭もあれば、入れない家庭も。季節によっては旬の野菜が加わることもあります。
精進料理として作る場合は、鶏肉の代わりに油揚げを入れたり、仏事の際には肉類を一切使わない地域もあるなど、そのバリエーションは様々です。
このように、基本的な作り方はありつつも、地域や家庭の数だけ「我が家の筑前煮」が存在する。これもまた、長く愛され続ける理由の一つかもしれません。
家庭で再現!筑前煮の伝統的な調理ステップ
ご家庭で美味しい筑前煮を作るための、基本的なステップをご紹介しましょう。
- 下ごしらえ: 鶏肉は一口大に切ります。れんこん、にんじん、ごぼうは乱切りにし、ごぼうは水にさらしてアクを抜きます。干ししいたけは水で戻し、石づきを取って適当な大きさに切ります(戻し汁は取っておきましょう)。こんにゃくは下茹でしてアクを抜き、手綱こんにゃくにするか、スプーンで一口大にちぎります。里芋を使う場合は皮をむき、塩で揉んでぬめりを取っておくと良いでしょう。
- 炒める: 鍋に油を熱し、鶏肉を炒めます。表面の色が変わったら、硬い野菜(ごぼう、れんこん、にんじん)から順に加えて炒め合わせます。油が全体に回ったら、しいたけ、こんにゃくも加えて軽く炒めます。
- 煮る: しいたけの戻し汁と出汁(または水)、酒、砂糖、みりん、醤油を合わせた煮汁を加えます。煮立ったらアクを取り、落し蓋をして中火で煮込みます。
- 煮詰める: 野菜が柔らかくなってきたら、里芋を加えます(里芋を使う場合)。さらに煮込み、煮汁が少なくなり、全体に照りが出てきたら火を止めます。
- 仕上げ: 器に盛り付け、彩りに茹でたさやえんどうなどを散らせば完成です。
ポイントは、焦がさないように注意しながら、しっかりと具材を炒めること。そして、煮込む際は落し蓋をして、味を均一に染み込ませることです。煮詰める加減はお好みで調整してくださいね。じっくりコトコト、愛情込めて煮込む時間もまた、料理の楽しみの一つではないでしょうか。
まとめ:時代を超えて愛される、筑前煮の魅力再発見
書いているそばから、あの甘辛い香りが漂ってくるようで、思わずお腹が鳴ってしまいます。筑前煮は、単なる煮物ではなく、福岡の歴史や文化、そして日本の家庭の温もりを映し出す一皿と言えるでしょう。
その起源は「がめ煮」にあり、炒めてから煮るという特徴的な調理法によって、深いコクと旨味が引き出されます。鶏肉や根菜を中心とした豊富な具材が織りなすハーモニーは、まさに絶妙。地域や家庭によって少しずつ顔を変える多様性も、筑前煮の奥深い魅力です。
この記事を通して、筑前煮の新たな一面を発見していただけたなら幸いです。ぜひ、ご家庭でも愛情込めて筑前煮を作り、その温かい味わいを楽しんでみてください。きっと、食卓に笑顔が広がることでしょう。
さいごに
シェフレピでは、乃木坂しん 石田シェフによる「筑前煮」のレッスンを公開しております!
私も筑前煮が大好きで、何度も作ってきた料理ではあるのですが、撮影時に教わったこの筑前煮の作り方が私の中では衝撃的でした。
火加減や調味の考え方など、固定概念を覆すような調理法。なぜそうするのか?理にかなった考え方を、非常にわかりやすく解説してくださいます。