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パスタが僕を料理人にし、地元でやる勇気をくれた

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仲本章宏|リストランテ・ナカモト

20歳で日本を飛び出しイタリアに渡った仲本章宏さんは、シエナとフィレンツェで働いた後、アメリカのニューヨークへ。帰国後は、東京のイタリア料理店で腕を磨いてきました。フィレンツェ時代に勤めた「エノテカ・ピンキオーリ」では、パスタ部門を経験。エノテカ・ピンキオーリは、2014年に8年ぶりに悲願だったミシュランガイドの三つ星復帰を成し遂げており、仲本シェフは、その瞬間をパスタ部門で迎えています。

感動的な瞬間でした。ピンキオーリの念願だったので、パスタ部門にいて少しは役に立てたんじゃないかと、自信にもなりましたね」と仲本シェフ。エノテカ・ピンキオーリではパスタを「必ずお客様に出す直前に打っていた」といい、打ち立てへのこだわりは、独立した今ももち続けているといいます。

遠くまで旅する価値があるレストランを目指したい

京都駅からJR奈良線にのって1時間ほど。木津川市は、京都府の南端、奈良県に近い街です。観光地でも、高級住宅地でもない地方の街で2011年、仲本章宏シェフは「リストランテ・ナカモト」を開きました。

エノテカ・ピンキオーリには4年半働いた後、ニューヨークへ渡った仲本シェフは、新店の立ち上げメンバーとしてメニュー開発やオペレーションの構築にも携わったといいます。アメリカで2年間、計10年間の海外生活を終えて、日本に帰国すると、東京・青山のイタリアン・レストランで2年間スーシェフシェフ(副料理長)を勤めます。

これだけの経歴をもつ仲本シェフですから、東京でも、大阪でも、京都でもどこでもお店をオープンできたはずです。しかし選んだのは、仲本シェフが生まれた街・木津川。さらには、祖父の代からこの地で食堂を開き、家族が働く姿を見て育ったこともあり、独立するなら木津川しか考えられなかったといいます。

イタリアには、田舎に有名なレストランがあっても誰も驚きません。その店での食事のためにわざわざでかけるんです。『あなたの料理が食べたい』と。僕も、そういうお店を目指したいと思ったんです

今でこそ、SNSが一般になり情報発信ツールが可能になったことで地方のレストランにも注目集まりやすくなりましたが、仲本シェフが店をオープンさせる2011年頃は、ようやくFacebookが使われはじめたころ。地方の街のレストランの情報を得る方法も少なく「食事をしにわざわざ旅をする」という文化は一般的ではありませんでした。当然、「まずは都心でやった方がいい」という意見も多かったといいます。それでも、地元で店を始めることを決めた仲本シェフは、自分がもつ「わざわざ食べにくる価値のある料理は何か」を考えるようになります。

モチモチではなく、ソースを楽しむシャキシャキの食感を目指す

ピンキオーリでパスタ部門をひと通りやり遂げたことが『料理を一生の仕事として続けていける』と自信になりました。肉の火入れの技が高いとか、食材の知識があるとか、お店やシェフの売りってあると思うんです。アメリカでも東京でも、ずっと『パスタをおいしくしたい』と考えながら作っていました。僕のなかに何があるかと考えると、自分の売りはパスタなんだと思うようになったんです

仲本シェフが目指すパスタとは、食べる直前に打った歯切れのいい食感。あちこち食べ歩いても、自身が求めているパスタにほとんど出会えなかったのも「自分の個性はパスタにある」ことを気付かせたといいます。「モチモチのパスタ」が日本ではおいしさの代名詞になっていますが、仲本シェフは、レストランで作り込んだソースと一緒に食べるならモチモチよりも歯切れの良いパスタの方が相性がいいと考えています。

歯切れのよいパスタの食感を生むには、加水率をできるだけおさえる必要があります。しかし、その分乾燥しやすくなるなど扱いも難しくなります。効率を考えて加水率をあげることもできますが、仲本シェフはあえてそれを選択せず、消費期限の短いパスタを作りたいといいます。

麺を冷凍しておくこともできるのですが、それだとやはり歯切れのよい食感にならないんです。それに『わざわざ食べに来てもらう価値』とは、僕が目指すパスタを用意していることだと思うんです。ですので、今も毎日、お客様がいらっしゃる時間に合わせてパスタを用意するようにしています

手打ち パスタは、何度も作ることで上手になる

パスタは、何度も作ることで必ず上手になります。シェフレピのキットで作ったあとも、同じレシピで何度も作ってみてください」と仲本シェフはいいます。その日の気温や湿度によって、少しずつ生地の出来あがりも変わってくるので、作るたびにその変化を感じるようにしてほしいともいいます。

また、今回のレシピでは、ラビオリの生地を練るときが一番注意が必要だといいます。生地を伸ばしているときに切れてしまうのは卵の量が少ないか、生地が乾燥しはじめている可能性があります。一方で生地がうまく練れていれば、麺棒で伸ばしやすくなります。「その場合は、麺棒を少し濡らして伸ばすようにしてください」(生地に霧吹きなどをするとムラになったり麺棒にくっついたりする)と仲本シェフ。

何度かトライしてもらって、できるだけ生地を素早く薄く、向こうが透けて見えるくらいまで伸ばしていくことを目指してみてください。薄ければ薄いほどレストランの繊細な食感に近づきます。そのためには、動画でも説明していますが、卵黄を少しずつ加えていくことです。生地の水分量を見極めながら、まんべんなく粉に入っていくようにしていきます。その日の湿度や粉の状態などもありますので、卵黄は必ずしも目安の量を使い切らなくても良いです。動画の出来あがりをみながら調整していってください

伸ばす前のラビオリの生地は、空気が入らないようにラップをすれば冷蔵庫で2、3日保存できます。今回のキットでは、出来あがりの量は2人分よりも多くありますので、余った生地と余った詰め物、2種類のソースで、もう一度挑戦することもできます。

きっと2回目の方が、うまくできるはずです(笑)。さらに生地は、冷蔵庫で熟成させると伸ばしやすくなりますので、伸ばすときにストレスがかからなくなる分、食感の良さも生まれやすくなります。そういった変化も楽しんでもらえたら、何がパスタの食感や味を決める要因になっているのか、ということも感じとれるのではないかと思います

仲本章宏●なかもと・あきひろ
1979年、京都府木津川市生まれ。家業は、地元・木津川の役所前にあった「仲本食堂」を開いており、幼いころから飲食業に触れて育つ。辻調理学校卒業後、奈良のイタリア料理店で修業した後、20歳でイタリアに渡る。トスカーナ州シエナの「バゴガ」やフィレンツェの「エノテカ・ピンキオーリ」 などで6年間研鑽を積む。「エノテカ・ピンキオーリ」では、パスタ部門を担当。2004年の8年ぶりの三つ星復帰にパスタ担当として貢献した。その後、アメリカ・ニューヨークに渡り「レストラン・ファライ」の立ち上げから2年間勤める。帰国後は、東京・外苑前「イル・デジデリオ」のスーシェフ(副料理長)を経て、2011年に地元・木津川に「リストランテ・ナカモト」をオープンさせた。

リストランテ・ナカモト 店舗サイト
仲本シェフ Twitter
仲本シェフ Instagram

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