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東 浩司|AUBE
レシピの再現性が高く、調理のポイントやテクニックの説明が簡潔でわかりやすい“教え上手”なシェフを特集した「ベスト・ティーチャー2021」で新作レシピを提供してくれた現代中国料理「AUBE」の東浩司シェフによる全3回のレッスンが、新しいシェフレピについに登場しました。
「むずかしくない!中国料理、何度も作りたくなるプロのひと手間」というタイトルが示す通り、プロがもつ調理技術はなくとも、時間をかけて煮込んだり炒めたり、大きさを揃えるように切ったりと、ひと手間かけることでグッとお店の味に近づく、目からうろこの中国料理レッスンです。
特別な技術や調理器具がなくても店の味に近づく
「ベスト・ティーチャー2021」では、冬の食材を使ったシュウマイのレシピを披露した東シェフ。ひき肉ではなく、豚の塊肉を切って餡にしたり、敬遠されがちな「蒸し」も蒸籠を使えば手軽にできることを教えてくれました。
東さんがシェフを務めるAUBEでは、「中国に日本という街があったら」というコンセプトで、中国料理を厳選した日本の食材で作り上げていきます。そのため専門の調理機器やテクニックを使って「レストランでしか味わえない料理」を提供しています。しかし、シェフレピは一転。手に入りやすく、レッスン後も代替可能な食材と家庭にある調理道具で、誰でもゴールできるレシピを提供しています。
そこには、「料理を難しく考えない、むしろ料理をしようと思わないでもらいたい」という東シェフならではの思いがあります。「わかりにくいとか難しいと思われたり、質問がでるようなレシピを出さないように心がけています」という東シェフのレシピは、新作レッスンでも健在です。
たとえば、レッスン初回の「鶏と雪菜の上海風あんかけ焼きそば」は、麺を多めの油で揚げ焼きのようにして、炒めるのが最大のポイントです。これによって、麺が香ばしくなるだけでなく、とろみのある餡と食感のコントラストが生まれ、グッとプロの味になります。さらに、鶏肉や葉ネギやジャガイモといった野菜を麺と一緒に食べやすい大きさに切ることで、麺と餡、具材の一体感も生まれています。レッスン動画中では、なぜこうすると人は美味しく感じるのか?食欲を掻き立てることができるのかなども丁寧に説明してくださっています。
さらに鶏肉と野菜、「雪菜」とよばれる中国の漬け物をバランスよく組み合わせることで出汁がしっかりとれるため、顆粒の鶏ガラスープなどを使う必要もありません。
麺に少しだけ手間をかけること、丁寧に切ること、食材をバランスよく使うこと。特別な技術や調理器具がなくても、この3つを知るだけで、今までお店で食べてきたあんかけ焼きそばが、あなたのキッチンで作れるようになるのです。
とろみをつけて「つなぐ」のは中国料理の真髄
「むずかしくない!中国料理、何度も作りたくなるプロのひと手間」で注目してほしいポイントはほかにもあります。それは、片栗粉を使ったとろみの作り方です。
中国料理では古来、米や澱粉を使ったあんかけの料理を羹(あつもの)とよんできました。たとえば、羹(あつもの)と呼ばれる出汁をとった汁物の食感を滑らかにするために用いられたり、肉が鍋にくっついて焦げ付くのを防ぐために使ったり。肉団子を作る際のつなぎにも使ったりと、用途は多岐にわたっていました。
舟が舟をひく際に用いる綱手のような用途で使うことから「けん」(糸へんに牽、つなぎの意味)とよばれており、18世紀の食通詩人で『随園食単』を書いた袁枚(えん・ばい)は、「意義を理解してけんを用いれば必ず適当である(ふさわしい料理になる)」と記すほど、中国料理の根本にある考え方だと書き記しています。
「片栗粉を使ったとろみの作り方は、じつは料理人でも積み重ねてきた経験がものをいう行程なんです。たとえば、今回の『あんかけ焼きそば』は水150ℊに対して片栗粉大さじ1杯を水で溶いてを加えていますが、たとえば10人分を作るなら単純に両方を10倍にすればいいわけではないんです。なぜなら野菜などの食材から出る水分や時間経過によって状態が変わるから。今回は、使う食材に合わせて量を計算してありますので、ちょうどいいとろみになると思います」
それは、まさに袁枚がいう「けん:つなぎ」としての片栗粉(澱粉)の使い方そのもの。ほかにもレッスン2回目の「大きな塊の黒酢の酢豚」では、黒酢で作ったタレにとろみをつけるだけでなく、煮込んだ豚肉に片栗粉をつけてから揚げていますし、3回目の「水煮羊肉片(スイジュウヤンロウピエン)」では、スライスしたラム肉に片栗粉をつけてから煮ることで、うま味を閉じ込めるだけでなくツルンとした食感を生み出し、中国料理における“つなぎ役”の大事さを伝えてくれます。
料理の応用力をつけるには「調味料を買いすぎない」
「むずかしくない!中国料理、何度も作りたくなるプロのひと手間」で、料理をするハードルを下げてトライしやすいレッスンを考案してもらいましたが、このレッスンを終えたあとはどうすると料理がさらに上達していくのでしょうか。
「調味料を家に置きすぎないことかなと思います。たとえば塩を3、4種類揃えたり、オイルを何種類ももっていたり。それだけで場所をとってしまうし、全部使い切れないで冷蔵庫のなかで眠らせることにもなりかねません。醤油は、最低限は濃口醤油だけよく、あとはそれを水と塩でわって薄口醤油風にすれば代用できます。できるだけある調味料で料理をする。料理を作るための調味料が、調味料のための調味料にならないようにすることが大事だと思います」
一方で、今回の「大きな塊の黒酢の酢豚」で使う鎮江黒酢(中国の黒酢)やイタリアのバルサミコ酢のような、その国の料理の個性が出る調味料は持っていていいといいます。
「料理人同士で話すときに、塩だけで料理ができるようになったら『一人前になれた』という話題になります。火入れと食材の組み合わせができれば、あとは塩をするだけで、料理はちゃんとおいしくなるという意味ですね。それを積み上げていくと、調味料が少なくなっていくと思います。ただ、まったく買うなというわけではないので、1度くらいはその味がどういうものかを覚えるために買うのはいいと思いますよ。そのあとは、その調味料がなくても他の調味料で代用できないか考える訓練をしていくと、料理がどんどん上達していくと思います」
整理整頓や洗い物は「考える時間」である
レシピ動画を撮影している東シェフを見ていて気づいたことがありました。それは異常なほど洗い物と片付けが早いこと。早いというのはスピードが速いという意味ではなく、頻繁に洗い物と片付けをしているので、1回の時間が短いのです。普段は、取材スタッフが洗い物を受け取って合間に洗うのですが、この日は、ほとんどスタッフが洗い物をする機会がありませんでした。
「整理整頓をしなさいと若い料理人に必ずいいます。それはもちろん衛生面や食材の取り違いなどの事故を防ぐ意味もありますが、同時にいったん止まって次に何をすべきかを考える習慣をつけてほしいからです。とはいえ忙しい厨房のなかで、実際に突っ立って考えていてはもちろんだめで(笑)、洗い物をしながら考えるようにしなさいという意味です。洗い物をしているときは、料理をしている時ほど頭を使わなくてもいいわけですよね。手は動いていても、頭は別のことを考えられる。その時間で、これまでの作業の振り返りと次の段取りをつけるんです」
「料理は好きだけど、片付けがめんどくさくて苦手」という人は、洗い物や片付けを「作業の時間」ではなく、次にどうしようかという「クリエイティブの時間」だと考えなおしてみるとやる気がでてくるかもしれません。
そして、最後にもう一つ、片付けが楽になるアドバイスを東シェフは教えてくれました。
「洗い物は大きいものから洗いましょう。大きな鍋やフライパンは体積をとるのでシンクを塞いでしまいます。大きいものは洗っておき、小さいものはあとから洗ってもいいんです。場所の余裕をつくっておけば、次に何か洗い物ができたときに置く場所がなくて焦ってしまうこともありません。作業場所の確保は、“料理上手”になるための大きなポイントだと思います。ちなみにこの作業場所の確保は『頻繁に片付ける』という意識も大事ですが、たとえば保存用のケースやバットとは同じメーカーの同じ形に合わせるということでも解決することができます。同じ大きさで揃えると『重ねられる』というのがポイントです。砂糖や醤油、酒といった調味料も重ね置きできる容器に入れて置くと場所もとらずに扱いやすいんです」
東 浩司●あずま・こうじ
赤坂維新號グループで修業後、2006年、新橋ビーフン東にて料理長に就任。2009年、ソムリエ資格を取得しワインスクールアカデミー・デュ・ヴァン銀座校にて講師を務める。2011年、大阪でChi-FuとAz/ビーフン東の2店を開業し、ミシュランガイド2013でChi-Fuが1つ星を獲得。2014年、台湾で開催された世界中国料理大会で日本人初の3位入賞を果たす。皇室御用達の中華ちまきからモダンチャイニーズと幅広い料理の創作、虎ノ門ヒルズカフェや低糖質カフェをプロデュースするなど、活躍の場は広い。毎日放送「魔法のレストラン HERO’sレシピ」に出演。現在は、2018年にオープンした新店「AUBE」でシェフとして腕を振るう。オーストラリア産ラム肉のPR大使「ラムバサダー」のメンバーでもある。
AUBE ▶ Instagram
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
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