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東 浩司|AUBE
食材を中心に考えながら、うま味と風味を大切にした現代的なアプローチで、日本でしか食べられない中国料理を提案し続ける「AUBE」の東浩司シェフは、現在、大阪に3店の店をもつだけでなく、東京の老舗中華料理店で実家でもある「ビーフン東」や監修店をもつ人気実力派シェフです。
これまでシェフレピに提案してくれたレシピは、どれも作りやすく簡単、それなのに出来あがるとプロの味になると好評で、レッスン後も自分で食材を集めて繰り返し作る人が続出するほどの人気ぶりです。料理初心者にやさしいレシピを生み出す東さんに、料理上手になるための条件を聞きました。
レシピの大切さを理解するまでが「守」
剣道や茶道などでは、修業における段階を示すものに「守破離(しゅはり)」という考え方があります。
守:師や流派の独自な教えや型、技を確実に身につける段階
破:他の師や流派の教えに学び、良いものを取り入れて発展する段階
離:一つの流派から離れて、独自の新しいものを生み出し確立する段階
もともとは兵法の用語だった守破離の考え方は、料理上手を目指す人にとっても必要な考え方だと東さんはいいます。
「『師』や『流派』という言葉を『レシピ』に置き換えてみるとわかりやすいと思います。レシピの分量や方法を守ることでレシピの意味まで身につけ、そこで初めてレシピをアレンジする、つまり破ることができるようになる。そして破り方が安定してできるようになってはじめて、レシピから離れ、自由自在に料理が作れるようになるのだと思います」
東さんが今回3品のレシピを考案した「簡単でおいしいシェフのおうち中華」では、この守破離の「守」を意識して作ってほしいといいます。というのも、レシピにある分量や切り方のほか、炒めたり、揚げたり、煮込んだりする順序は、すべてに意味があり、一つでも抜け落ちれば完成しない。ここまで言うと、少し堅苦しい言い方に聞こえるかもしれませんが、言い換えれば、レシピを見ながら動画の通りに作ればば、おどろくほどおいしい料理ができあがるということでもあるのです。
「もしレシピの作り方を守れないというのなら、それは、レシピを大事だと思っていない証拠。たとえば遅刻する人は、時間を守ることに重きを置いていないからですよね。だけどあるとき大遅刻をして信用を失って初めて大切さを理解するわけです(笑)。レシピ通りに作れ、レシピの大切さを理解するまでやり続けることが『守』の段階だと思ってください。」
作りたい料理の設計図からレシピは生まれる
一方で、料理のプロである東さんは、「離」をどのように行っているのでしょうか。
「自分が『離』の段階まで行っているかどうかといえば、まだまだだとは思うのですが、ひとつ大事にしているのは、作りたい料理の『設計図』を作ることから始めていることだと思います」
たとえば、STEP03の「カリっとした衣の鶏の唐揚げ 油淋鶏風とネギ塩2種類のタレ」でも、「衣が薄く軽い唐揚げ」という設計図を作ったといいます。それを実現させるためには①衣の面積を少なくする②衣をつける量を薄くする③衣自体を軽いテクスチャー(食感)にする、といった方法が考えられます。
「こうやってさまざまな方法を並べて、今回はどうしていくか取捨選択をしていくんです。時には選んだ方法では課題が残ることもあります。たとえば、揚げ衣の強度が足りなくなったりするようなことです。それなら違う食材に変えたり、同じ効果がある別の食材を加えるなどして設計図を詳しく完成させていきます。レシピは、あくまでその設計図通りに作るための手順書であって、レシピが先にあるわけではないのです」
唐揚げを作る行程で、鶏肉をひと口サイズにカットせずに大きな塊で揚げることも「衣が薄く軽い唐揚げ」の設計図をもとに、衣の表面積を少なくするために考えた方法の一つです。
「守破離の話に戻ると、今回の3つのレシピはすべて設計図があって、行程はそれを実現させるために必要な意味のあるものなのです。たとえば、STEP01の『四川風麻婆豆腐』で最後に加えた刻みネギもそう。料理に軽やかさを与えるためのものなので、必ずレシピを守って最後に加えてほしいです。そして食べてみて、その効果も感じてもらいたいですね」
現代のライフスタイルにあった中国料理を作っていきたい
「今回の3品の設計図は、油っぽくて味が濃いというイメージの中国料理のなかでは、かなり軽い仕立てにしてあります。そこには、調味料の味ではなく食材の味を感じてほしいという思いがあります。そして一方で、伝統的な中国料理の良さやレシピの意味は残したい。その2つを両立させるのも今回のテーマでした」
たとえば、STEP01の「四川風麻婆豆腐」は、あくまで豆腐を食べさせる料理であると東シェフ。そのため片栗粉でトロみをつけたタレに重さを感じさせない仕立てにしているといいます。ほかにも塊から細かくカットした肉をしっかり炒めることでムチッとした食感が生まれ、豆腐とタレとの間にコントラストが生まれています。これによってタレの味から肉の食感に意識を向かわせることになり、ベタっと重くならないような印象になっているのです。
「中国の食卓では、いろいろなおかずがのっていて、食べる人たちは各自おわんを1つ持って、それを取り皿にして取り分けて楽しむんです。そのとき、ご飯に合うおかずというのは、ご飯と別々に食べておいしいもの。日本での『ご飯にあう』とは少し違うんです」
日本の「ご飯にあうおかず」といえば、おかずの後味でご飯を食べたり、丼にして口内で一緒に咀嚼しておいしいと感じるようなものの意味が強いと東さんはいいます。日本で発達した中国料理は、麻婆豆腐の豆腐よりもタレの味が強いのは、そのためではないかと東さんは指摘します。
「高度成長期、肉体労働が中心だった時代に、少ないおかずでもご飯が食べられるようにという思いもあって、中国料理の姿が変わっていったという背景もあると思います。しかしそれから時代が変わり、流通技術も発達して食材も良くなってきました。ライフスタイルも大きくかわり、健康やダイエットといったテーマは強く求められています。そんな時代に、強いおかずの後味でご飯をお腹いっぱい食べるのではなく、ご飯もおかずも素材の味を味わって食べ終えておいしい。それには、昔ながらの中国料理の味の構成の方が時代に合っているのではいかと思っています。ぜひ、そういった温故知新、改めて現代にあう中国料理を模索する『モダン・チャイニーズ』をご家庭で作って味わっていただきたいです」
東 浩司●あずま・こうじ
赤坂維新號グループで修行後、2006年、新橋ビーフン東にて料理長に就任。2009年、ソムリエ資格を取得しワインスクールアカデミー・デュ・ヴァン銀座校にて講師を務める。2011年、大阪でChi-FuとAz/ビーフン東の2店を開業し、ミシュランガイド2013でChi-Fuが1つ星を獲得。2014年、台湾で開催された世界中国料理大会で日本人初の3位入賞を果たす。皇室御用達の中華ちまきからモダンチャイニーズと幅広い料理の創作、虎ノ門ヒルズカフェや低糖質カフェをプロデュースするなど、活躍の場は広い。毎日放送「魔法のレストラン HERO’sレシピ」に出演。現在は、2018年に開いた新店「AUBE」でシェフとして腕を振るっている。オーストラリア産ラム肉のPR大使「LAMBASSADOR」の一員でもある。
AUBE Instagram:https://www.instagram.com/aube.japan/
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
関連商品:「簡単でおいしいシェフのおうち中華」