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はじめに
こんにちは。シェフレピの池田です。今回は、「トラパネーゼ」についてお話していきたいと思います。トラパネーゼ(Trapanese)は、イタリア・シチリア島西部のトラパニ地方で生まれた、アーモンドとトマトを使った独特のパスタ料理です。ジェノベーゼの親戚のような存在でありながら、松の実の代わりにアーモンドを使い、トマトを加えることで、より豊かで複雑な味わいを生み出しています。この記事では、トラパネーゼの歴史的背景から調理法、地域による違いまで、この魅力的な料理について詳しく解説していきます。
初めてトラパネーゼを口にしたとき、アーモンドのコクとトマトの酸味、バジルの爽やかさが三位一体となって広がる味わいに魅了されました。ジェノベーゼとは似て非なる、シチリアの太陽を感じさせる一皿でした。
シチリアの宝石:トラパネーゼの正体
トラパネーゼは、正式には「ペスト・アッラ・トラパネーゼ(Pesto alla Trapanese)」と呼ばれる、シチリア島トラパニ地方の伝統的なパスタソースです。一見するとジェノベーゼに似ていますが、実は全く異なる個性を持っています。
最大の特徴は、松の実の代わりにアーモンドを使用すること。そして、フレッシュトマトを加えることで、より軽やかで夏らしい味わいに仕上がっています。バジル、にんにく、オリーブオイル、そしてペコリーノチーズ(またはパルミジャーノ)を組み合わせることで、地中海の恵みをぎゅっと凝縮したような一皿が完成するのです。
このソースは通常、ブジアーテ(Busiate)と呼ばれる、くるくると螺旋状にねじれた手打ちパスタと合わせられます。このブジアーテとトラパネーゼソースの組み合わせが、シチリアでは定番なのです。
また、京都の南イタリア料理店「Cantina Arco(カンティーナ アルコ)」の清水シェフにこの料理を教わった際、パスタ以外にも、魚介の炒め物にトラパネーゼソースを合わせるのも絶品とおっしゃっていました。

海と山の出会い:トラパネーゼ誕生秘話
トラパネーゼの起源は、シチリア島の複雑な歴史と深く結びついています。トラパニは古くから重要な港町として栄え、様々な文化が交差する場所でした。
この料理の誕生には、ジェノヴァからの船乗りたちが大きく関わっていると言われています。19世紀、ジェノヴァの船乗りたちがトラパニに寄港した際、彼らの故郷の味であるペスト・ジェノベーゼを地元の人々に伝えました。しかし、シチリアでは松の実が手に入りにくかったため、代わりに豊富に採れるアーモンドを使用したのです。
さらに興味深いのは、トマトの追加です。これは単なる代替ではなく、シチリアの豊かな農産物を活かした創造的なアレンジでした。太陽の恵みをたっぷり受けたシチリアのトマトは、ソースに鮮やかな色彩と爽やかな酸味をもたらし、重たくなりがちなナッツベースのソースを軽やかに仕上げる役割を果たしています。
五感で楽しむトラパネーゼの魅力
トラパネーゼの魅力は、その複雑で調和の取れた味わいにあります。まず一口食べると、アーモンドの香ばしさが口いっぱいに広がります。これは単なるナッツの風味ではなく、地中海の太陽を浴びて育ったアーモンドならではの、深みのある甘さを伴っています。
続いて感じるのは、フレッシュトマトの爽やかな酸味。これがソース全体に軽やかさを与え、夏の暑い日でも食欲をそそる一皿に仕上げています。バジルの清涼感がアクセントとなり、にんにくの風味が全体を引き締めます。
食感も特筆すべき点です。アーモンドは完全にペースト状にせず、少し粒を残すことで、噛むたびに香ばしさが広がります。この”ざらっ”とした食感が、なめらかなパスタとの対比を生み出し、食べ飽きない美味しさを演出しているんです。
チーズの塩気とオリーブオイルのまろやかさが、これらすべての要素を一つにまとめ上げています。まさに、シチリアの大地と海の恵みが織りなすハーモニーと言えるでしょう。

地域ごとに異なる顔を持つトラパネーゼ
トラパニ地方が本場のトラパネーゼですが、シチリア島内でも地域によって微妙な違いがあります。
トラパニ市内では、最も伝統的なレシピが守られています。ここでは、地元産の「ピッツータ」と呼ばれる特別なアーモンドを使用し、トマトは必ず完熟したものを選びます。チーズはペコリーノ・シチリアーノを使うのが定番です。
パレルモに近づくと、少し都会的なアレンジが加わります。パルミジャーノ・レッジャーノを使ったり、時にはリコッタチーズを少量加えてクリーミーさを出すこともあります。
エリチェなどの山間部では、野生のハーブを加えることもあります。ミントやオレガノを少量加えることで、より複雑な香りを作り出しています。
沿岸部では、時に魚介類と組み合わせることも。特に、小エビやマグロの切り身を添えた「トラパネーゼ・マリナーラ」は、海の幸豊かなシチリアならではのバリエーションです。でも、これは伝統的というより、現代的な解釈と言えるかもしれませんね。
黄金比で作る本格トラパネーゼの材料
本格的なトラパネーゼを作るための材料と、その特徴をご紹介します。
主要材料:
- アーモンド(皮なし):80g – できれば地中海産の上質なものを
- フレッシュバジル:50g – 香りの強い若い葉を選ぶ
- 完熟トマト:300g – 種を取り除いて使用
- にんにく:2片 – お好みで調整可
- ペコリーノチーズ(またはパルミジャーノ):50g
- エクストラバージンオリーブオイル:100ml
- 塩:適量
- 黒胡椒:適量
パスタ:
- ブジアーテまたはスパゲッティ:400g
材料選びのポイントは、何と言ってもアーモンドの質です。できれば皮をむいた生のアーモンドを使い、使用前に軽くローストすると香ばしさが増します。トマトは完熟したものを使うことで、自然な甘みと酸味のバランスが生まれます。
オリーブオイルも重要な要素。シチリア産のフルーティーなものを選ぶと、より本場の味に近づきます。チーズは伝統的にはペコリーノを使いますが、マイルドな味わいが好みならパルミジャーノでも構いません。

伝統が息づく調理法の極意
トラパネーゼの調理法は、シンプルでありながら、いくつかの重要なポイントがあります。
下準備:
- アーモンドを160度のオーブンで5-7分ローストし、香ばしさを引き出します。焦がさないよう注意!
- トマトは湯むきして種を取り除き、粗く刻んでおきます。
- バジルは洗って水気をしっかり拭き取ります。
ソース作り:
- すり鉢(できれば大理石製)に、にんにくと塩ひとつまみを入れ、ペースト状になるまですりつぶします。
- アーモンドを加え、粗めのペースト状にします。完全に滑らかにしないのがポイント。
- バジルの葉を少しずつ加えながら、円を描くようにすりつぶします。
- トマトを加え、軽く混ぜ合わせます。
- チーズを加え、オリーブオイルを少しずつ注ぎながら、クリーミーなソースに仕上げます。
仕上げ:
- パスタは塩を加えたたっぷりの湯でアルデンテに茹でます。
- 茹で汁を少し取っておき、ソースの濃度調整に使います。
- 温めたボウルでパスタとソースを和え、必要に応じて茹で汁を加えます。
伝統的な方法では、すり鉢を使うことで素材の香りと風味を最大限に引き出します。フードプロセッサーを使っても作れますが、食感と香りの点で、やはりすり鉢には敵いません。時間はかかりますが、その分、出来上がりの満足感は格別ですよ。
まとめ
トラパネーゼは、シチリアの歴史と文化、そして豊かな食材が生み出した、まさに地中海の宝石のような料理です。
ジェノベーゼの影響を受けながらも、アーモンドとトマトという地元の食材を使うことで、独自の進化を遂げたこの料理。その味わいは、シチリアの太陽と海風、そして人々の創造性が織りなす、唯一無二のものです。
伝統的な調理法を守りながらも、各地域で少しずつ異なる表情を見せるトラパネーゼ。この多様性こそが、イタリア料理の奥深さを物語っています。ぜひ一度、本格的なトラパネーゼ作りに挑戦してみてください。きっと、シチリアの風を感じることができるはずです。
さいごに
シェフレピでは、Cantina Arco清水シェフによる「ブジアーテのトラパネーゼソース」のレッスンを公開しております!
手打ちで作るブジアーテや、ご家庭でも作りやすいトラパネーゼソースのポイントを丁寧に解説してくださいます。ぜひこの機会にチェックしてみてください!