この記事を読むのに必要な時間は約 4 分です。
Table of Contents
香りと味わいの「調和(アンサンブル)」が楽しめる日本ワイン
焼きそばにワインのペアリングを提案するのは初めての経験でしたが、結果的に素晴らしい組み合わせになったと自負しています。どのような料理であってもドリンクとの相性のポイントは必ず存在します。素材との相性はもちろん、その食感や料理全体の雰囲気に対しても考慮することが、相性を高めるためのポイントとなります。今回は東浩司シェフの「鶏と雪菜の上海風あんかけ焼きそば」ということで、まずは意識を「アジア」に置いて考え始めました。
料理の雰囲気に対してポイントを置きながら、鶏肉や雪菜をはじめとするさまざまな野菜に対して、全てをとらえることのできる個性を持ったアイテムを連想していきました。そして、風味づけとして用いられている醤油とごま油も見逃すことはできません。最終的にはあくまでも「焼きそば」であることを意識した上で、やはりアジア圏で生まれるワインに注目をしました。
#1 焼いた麺の香ばしさとあんのとろみ
東シェフが動画でお話されているとおり、こちらのお料理は食材の味わいはもちろん、カリッと焼いた麺の香ばしさと、あんのやわらかさととろみが大きな特徴。ペアリングでもそこがポイントになると判断し、まろやかさととろみ、適度な香ばしさに相性の良いワインを考えました。ほんのりと香ばしさがあり、果実の甘味をもちながらとろみに対して綺麗な酸味で合わせるマリアージュ。ここを意識します。
#2 鶏もも肉と雪菜、細く切った野菜の味わい
鶏のもも肉とたくさんの野菜が使用されているところもポイント。野菜は雪菜を中心にネギやもやし、キャベツ等、グリーン野菜が中心で、そこにメークインが加わる。もう一つ大切なのは、それぞれが細く切ってあることによりスムースなテクスチャーであることです。緻密なタンニン(渋み)ときめ細かい酸味を持ちながら、ほのかにグリーンフレーヴァーをもつワインに絞って考えていきます。
#3 醤油とごま油の風味
風味づけとして用いられている醤油とごま油、焼いた麺は、共にメイラード反応*¹によって甘く香ばしい風味が感じられる。そしてその香りと味わいからは「和」の要素を感じます。使用されている数種類の野菜も含めて考えたのは、我が国、日本の赤ワインでした。
ワインペアリングの提案
上記3つのポイント全てに当てはまるワインとして私が選んだのは、日本が誇るワイナリーが生み出す「シャトー・メルシャン アンサンブル 藍茜」。日本国内で育まれるそれぞれの産地のブドウをマリアージュすることで生み出される、香りと味わいの「調和(アンサンブル)」が楽しめる日本ワイン。今回のお料理に使用されている食材や食感によくマッチします。
長野県産のメルロー*²を主体にして、山梨県産のマスカット・ベーリーA*³をブレンド。発酵には木桶も用いて、熟成はオーク樽とステンレスタンクをバランスよく使用することで、適度な香ばしさとなめらかなテクスチャー、きめの細かい酸味を感じます。鶏肉の旨味を引き出す適度なタンニン(渋み)、グリーン野菜と同調するフレーヴァー、醤油やごま油と相性の良い甘い香りを持つ日本のワインです。
シャトー・メルシャン 藍茜
Château Mercian Aiakane
生産者 シャトー・メルシャン Château Mercian
生産者のサイトはこちら ▶https://www.chateaumercian.com/lineup/quality/aiakane.html
購入はこちら
▶https://drinx.kirin.co.jp/wine/chm/aiakane18/#_ga=2.73575254.538998465.1657546675-1124988109.1657546675
*¹メイラード反応:糖とアミノ化合物を加熱した時に見られる褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のこと。褐変反応とも呼ばれます。メイラード反応という呼称は、フランスの科学者ルイ・カミーユ・メイヤールがこの反応の詳細な研究を行ったことから名付けられた。カラメルや醤油等を想わるフレーヴァーが生まれます。
*²メルロー:フランスのボルドー地方を原産地とする赤ワイン用ブドウ品種。出来上がるワインの傾向として、赤から黒系のベリーフルーツや土っぽいニュアンスの香りを感じます。タンニンと酸味は中程度のバランス。世界各地で栽培され、日本では長野県のメルローが有名です。
*³マスカット・ベーリーA:1927年(昭和2年)、川上善兵衛により交配された日本固有の生食、醸造兼用品種。イチゴキャンディのような甘い香りが特徴で、優しい口当たりとなめらかな味わいのフルーティな赤ワインを生む。和食との相性には定評があります。
連載「料理がさらにおいしくなるワインペアリング~話したくなるペアリングのポイント」
田邉公一/ワインディレクター
シェフレピのメニュー1品に対して合うワインの提案を具体的な商品案内を含めて紹介します。記事内では、料理から導き出せるペアリングの3つのポイントをもとに、田邉さんがワインを提案。「料理と合う理由」を知ることで、実際に料理と一緒に飲んだときの感度が数段あがるはずです。簡潔にポイントがまとまっているからこそ、食卓を囲む人とともにそのポイントを話しながら楽しむことも可能。食事とワインによってさらに会話が進む。そんな豊かな食卓を、ペアリングを通して提案していきます。
中国料理店で注文したくなる「あんかけ焼きそば」が家で作れたらうれしいですよね。鶏と野菜の炒め煮を作ってから水溶き片栗粉で餡を作り、麺にかけるだけ。作り方はとてもシンプルですが、麺をしっかり炒めたり野菜を食べやすいように切りそろえたりすることでお店の味になります。中国料理の調味料使いも学べます。
Koichi Tanabe
ワインディレクター。ザ・リッツ・カールトン東京開業時よりソムリエを務め、在職中、フランス パリの二つ星レストラン「サンドランス」で研修。その後、フランスへの短期留学を経験し、フランス各地のワイナリーを訪問。レコール・デュ・ヴァン専任講師を経て、2012年 レストラン「L’AS」のオープンと同時に同店のシェフ・ソムリエに就任。
現在は、「タイソンズ アンド カンパニー」「ロワン」「アフリカ―」「麻布とさか」「マイアム ワイン」等のレストランやワインショップ、サイト、イベントのワイン、飲料の監修を手掛ける。ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」講師兼ワイン・SAKEディレクター。第6回キュヴェ・ルイーズポメリーソムリエコンテスト優勝。
2022年11月公開の映画「シグナチャー」にソムリエ役として出演予定。2022年5月に、シェフレピのワインアドバイザーに就任した。
【資格】
日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA
日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL
WSET Level3 Advanced Certificate
フランス語検定準2級
【経歴】
2005年 第6回 ロワールワインソムリエコンクール ファイナリスト
2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズポメリーソムリエコンテスト 優勝
2014年 全日本最優秀ソムリエコンクール クォーターファイナリスト
2019年 SAKE DIPLOMAコンクール 全国セミファイナリスト
田邉さんSNS
Instagram▶︎https://instagram.com/koichi_wine
Twitter▶︎https://twitter.com/tanabe_duvin
note▶︎https://note.com/koichitanabe