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料理に「こうしなきゃいけない」はないんです

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福田浩二|プルマン東京田町

多民族国家であるオーストラリアや、ユニークな食材の宝庫であるニュージーランドを中心に、ヨーロッパやアメリカ、アジアなどの世界各国で料理をしてきた「プルマン東京田町」の福田浩二シェフが講師を務めるレッスンが「ラム肉で学ぶ肉の焼きと煮込み、世界のスパイスと野菜料理」です。

ラム肉は、ジンギスカンくらいしか食べたことがないから、どう調理していいかわからない」というあなたでもラム肉の特徴がつかみやすいように、全5回のレッスンで4つの部位を使った料理を作っていきます。またアメリカやインド、中東、北アフリカといった国々のスパイス料理や意外な食材の組み合わせを学べるのも福田シェフのレッスンの特徴です。

料理が好きなら必ず「料理上手」になれる

料理上手になれる人は、料理が好きな人だと思います。それは作るのもそうだし、食べるのもそう。どちらかが好きならきっと『もっとおいしく作りたい』や『もっとおいしい料理を食べたい』と自分で調べたり工夫したりすると思うんです。そういう食に対する探求心が『料理上手』に必要だと思います

探求心」というと難しく聞こえますが、たとえば自分にあう料理を作るお気に入りの料理系YouTuberを探すのでもいいと福田シェフはいいます。共感することからも探求心が生まれるからです。

福田シェフ自身が、料理への探求心が芽生えるようになったのは、レシピに書かれている作り方や順序を「なぜ、こうするのか」と考えるようになってからだといいます。

レシピには、それを書いた人がいます。丁寧すぎるくらいに書く人もいれば、その人のエゴからかなのか、あえて複雑に書く人もいて、それぞれに個性が出るんです。自分は、シンプルにレシピを書きたいタイプ。だから、他人のレシピをみて『これは意味があるのかな?』と考えるようになったんです。すると、味付けや調理法以外にも仕事を進める段取りや準備などまでレシピから考えるようになるんです

シンプルに」という思いは、レシピに関してだけでなく、福田シェフの料理観そのものにもいえます。 

たとえば「おいしければいい」という言葉は、レッスンのなかで福田シェフが時折口にするものです。それの言葉は「何をしてもいい」という意味で捉えることもできますが、福田シェフは「食べる人に満足してもらうことを大事にする」という意味で使っています。

実際、料理上手になる条件のうちの一つは「愛情」だと、福田シェフは考える間もなく即答します。

好きな人、大事な人を思えば多少焦げてたって、おいしく感じるんです。音楽と同じですよ、誰かのための演奏は、感動するじゃないですか

世界中の人が食べるラム肉を
日本人が知らないのはもったいない

福田シェフは、オーストラリア産ラム肉のPR大使「ラムバサダー」のメンバーでもあります。

今回のレッスンでは、ラム肉を扱うスペシャリストである福田シェフに、ランプ(モモのなかでも腰から尻)とラムチョップ(骨付きロース)の焼き料理2品と、スペアリブ(骨付きバラ)と肩ロースの煮込み料理を2品、最後にラム(1歳未満の仔羊)とマトン(1歳以上の成羊)のロース肉の食べ比べを提案してもらいました。

じつは、ラム肉が一番好きっていうわけでもないんですよ」と、福田シェフは意外な本音を打ち明けます。好きな肉といえば「牛肉」で、ラム肉はオーストラリアなどのオセアニアの食材の一つとして扱ってきたといいます。

それでもラムバサダーになったのは、海外では“ごちそう肉”として知られているラム肉が日本では、ジンギスカンで食べることはあっても家庭の食卓にほとんどのぼらないことを残念に思ったからです。

オーストラリアでは、ラム肉を国民食のバーベキューで食べるなど、とてもポピュラーな食材なんです。また、移民の国で多様な人がいるなかでも、豚や牛などの肉とは異なり、宗教による禁忌がないのでどんな国の人でも食べる。もちろんやわらかくておいしいお肉だから人気もあるのですが、そういった多様さを尊重する世界においてスタンダードな食材を、日本人はまったく知らないというのは、とてももったいないことだと思ったんです

シェフレピでも過去に骨付きロース塊肉の「ラムラック」や、スネ肉の「ラムシャンク」など、福田シェフはスーパーマーケットでは手に入らない肉を使いながらも、誰でも失敗しないで使りきれるレシピを提供してくれました。それは「ラム肉料理初体験」のハードルを下げることでもあり、さらに作った人にとっては、ラム肉は身近な食材にしたはずです。

よくラム肉は『臭い』っていわれますが、僕はまったくそうは思わない。むしろ牛や豚よりも臭いはしないと思っています。もしみなさんのなかに『臭い』というイメージがあるのだったら、それは流通段階の保存が悪かったりしただけだけ。これまでのレシピもそうですが、きっと今回のレッスンを通して使う、適切な処理をされたラム肉は、まったく臭くないということを感じていただきたいですね

世界中にあるラム肉料理と
それに合う料理を楽しんでほしい

もう1つ今回のレッスンで注目したいのは、アメリカやインド、中東、北アフリカ、地中海の食材や料理に触れることができる点です。

たとえばSTEP1の「ケイジャンスパイスでマリネした ラムランプステーキと牡蠣」では、アメリカのステーキレストランなどで見かける「サーフ・アンド・ターフ(Surf & Turf、海と牧草地)」のスタイルでラム肉と牡蠣を合わせたり、ケイジャンスパイスというアメリカ南部のケイジャン料理に使われるミックススパイスを自家配合したりもします。

STEP3の「ラムスペアリブのローガンジョシュ」は、インドカレーのなかでもバターチキンカレーとともに世界的にポピュラーな「ローガンジョシュ」を作ります。

さらにSTEP4では「ラム肩ロース肉のスパイスとヨーグルトの煮込み ザジキソースとレモン」の付け合わせで、ギリシャ料理のヨーグルトを使った料理「ザジキ」、最終回のSTEP5では「ラムとマトンのロース肉の食べ比べ 3種類のソースで」で、肉のソースとして北アフリカの「チャルモラ」のソースや中東の発酵辛み調味料の「ハリッサ」を使ったヨーグルトソースなど、日本ではなじみのない国のスパイスや料理を知ることもできます。

ラム肉の料理を作ることで、世界中の料理を知ることができる。そんなことがレッスンのもう一つのテーマになっています。

材料が2、3品なくても気にせず
フレキシブルに料理を作ってみる

オーストラリアやニュージーランドに10年以上滞在し、現地の人たちの食生活も見てきた福田シェフは、「海外には料理上手な人が多い」と感じたといいます。

向こうの人はホームパーティが好きなので、僕もよく呼ばれて行ってました。そもそも向こうのレシピが1カップとかスプーン1杯で、日本のようにグラム単位で計量もしていないからなのかもしれませんが、計量も適当で雑といえば雑。だけど不思議とおいしくできてしまうんです。そういうのを見ていると、彼らは『料理上手』だなと思うんです

とはいえ、全員が全員料理上手なわけではなく、料理をまったくしない人もいる。若い世代が食事よりもファッションやゲーム、インターネットなどに時間をかけるのは日本と同じで、全体でみたら状況はそれほど変わらないといいます。

彼らとの違いは何のかというと、僕は深く考えすぎていないことなのではないかと思っています。さっき『考える』といっておきながら矛盾してしまうんですが、たとえばレシピと分量が違ってしまったり、書いてある食材がなくても『大丈夫かな』と不安に考えなくていいんです。フレキシブルさが料理上手には必要なこと。その点、海外の料理上手はフレキシブルですね。日本人は応用が難しい。条件に縛られてしまうがちなのは、日本人特有の真面目さがあるのかもしれませんね

食べる人の顔を思い浮かべながら、条件に縛られずにリラックスした心で料理をしよう。そんなメッセージを福田シェフの料理から感じとってみてください。

福田浩二●ふくだ・こうじ
大阪府出身。1990年、食品産業高等学校を卒業。ヒルトンプラザ大阪「ハーレークインインターナショナル」で料理人としてのキャリアをスタート。1998年にニュージーランドに渡ってからは拠点を海外に移し、オーストラリアで「Salt by Luke Mangan」 のオーナーシェフであるルーク・マンガン氏に出逢う。同氏と一緒に世界を飛び回り、数々のレストランの開業をエグゼクティブレベルで経験し、感性と技術を磨く。2006年に帰国し、約5年に渡りルーク・マンガングループの新店舗開業に精力的に努め、その後、2011年 「Salt by Luke Mangan」「 World wine Bar」 エグゼクティブシェフに就任。その後も、オセアニアコンセプト「Terra Australis」のエグゼクティブシェフに就任。以降も、オーストラリアングリル & シーフードレストラン「South」、新丸の内ビルにあるNZコンセプト「Zealander」の開業を成功させる。2019年、東京・田町のプレミアムホテルブランド「プルマン東京」のエグゼクティブシェフに就任。オーストラリア産ラム肉のPR大使「ラムバサダー」のメンバーでもある。

プルマン東京田町 オフィシャルサイト Instagram Twitter
福田シェフ Instagram

連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。

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