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エリックサウス|稲田俊輔
スパイスのセオリーを逸脱した先にある「アガる」瞬間
エリックサウスの総料理長、稲田俊輔シェフが監修した「届いたスパイスから作るインドカレーの基本」では、全4回のレッスンで毎回10種類前後のスパイスを使いインド各地のカレーを作っていきます。スパイスカレー作り初体験の人には、はじめて扱うスパイスも多いのではないでしょうか。
カレーを構成するスパイスの要素には、じつはセオリーがあると稲田シェフはいいます。そのセオリーがみえてくると、一気に応用できるようになって、カレー作りで失敗しにくくなるのです。
「最初はわけがわからないと思いますが、いろいろなカレーを作り続けていくと共通する必勝パターンのような法則があることに気付くんですね。はじめは魔法のように感じるかもしれないですが、それは魔法ではなく教養。インドの文化があって、必然的にそうなっている。数をこなしていった先に気づく瞬間があるのです」
そのセオリーを知ったうえで、そこから少しだけ外れてみると、その先に思いもよらないカレーが生まれる瞬間に出会えることも。
「スパイスのセオリーは、ちょっとでも逸脱すると、仕上がりの予想がつきづらくなるんです。でもそこがおもしろいところ。セオリーに沿いながらも工夫やアレンジをすると、最終的に自分で思ってもみなかったおいしさができるんです。僕にとっては、その瞬間がいちばんアガる時なのです」
オーセンティックな型が料理を楽しむ土台になる
そもそも料理を作るのはどんなときも楽しい。だから、「僕は料理を楽しめない人の気持ちがわからない“サイコパス”だ」と冗談交じりに話す稲田シェフ。とはいえ、店の仕込みのような単純作業を延々とこなすことは苦手。「だけど、やるしかない。楽しいことをするには、楽しくないこともしないといけないのです(笑)」。
料理をする楽しさのなかでも、自分のアイデアや創作を反映させていく時間はもっとも楽しい時間だと稲田シェフはいいます。しかし、アイデアや発想で料理に変化をつくるには、土台になるオーセンティックな型が必要だともいいます。
「料理に、正しいとか、間違いはないという言い方もありますが、オーセンティック(本物、信頼できる)な作り方を自分のなかに落としこんでからそれを崩していく方がいいと思います。型に納めることができると、正解にたどり着く確率が上がりますから。それに僕自身は、そういう作業の方が楽しいですね」
オーセンティックな料理は、退屈に感じるかもしれません。それなら、料理を学ぶ前に自分がお客さんとしてオーセンティックなレストランを訪問して楽しんでみるといいと稲田シェフ。
「アバンギャルド(前衛的)なお店が流行として取り上げられがちですが、ひっそりとオーセンティックな料理をやり続けている店もあります。そういうところにいくと料理に説得力があるし、オーセンティックであることの尊さが感じられます。その魅力を楽しんでからの方が、意外と学びやすいのではないでしょうか」
さらに外食には食で人を楽しませるためのヒントもあります。稲田シェフは、「じつはそれが一番勉強になる」といいます。なぜなら、外食の料理には食べる人を楽しませようと引き込むような色気があるから。
「作り方がわからなくても真似してみるんです。その時は、味は違ってもいい。外食の色気のある料理を真似た料理は、作ってもらった人にも魅力的に見えると思うんです。家庭に伝わった料理もあるけど、外食の色気もいい。両方あったほうが食卓は楽しくなりますよ」
材料や分量だけでも記録して残す“ロググセ”をつける
数をこなすことが大事というのは、料理上手へのメインストリートではありますが、ただ漠然と作り続けているだけでは料理上手になるという点で効果的とはいえないと稲田シェフはいいます。
稲田シェフの上達のアドバイスは、作ったものをログ化していくこと。何をどれだけ何グラム入れたかはもちろん、動画で稲田シェフが説明しているように、仕上がりの重量を計り分量と仕上がりを記録していくのです。
「細かい工程まで記録しなくても、使った材料と量をスマートフォンなどのメモ帳に記録しておくだけでいいんです。たとえばブログサービスの『note』に残しておくのもいいですね。自分史上奇跡の豚汁が完成したとしたら、なぜおいしくなったのかをメモしておいたり、できるだけ数値でも残しておくようにして、自分のなかにデータをためていく。そして次回作る際は、その数値からスタートして、さらにおいしくする工夫をしていけばいいのです」
そのためには「はかる」ことを習慣にするようにしましょうと稲田シェフ。まな板の横に必ずクッキングスケール(はかり)を置くことを習慣にするのです。そうしてはかりグセ、メモグセを付けると、短期間でグンと上達していくといいます。
「料理好き、料理上手の最終目標は、冷蔵庫にある食材だけでパパっと料理ができるようになることじゃないかと思うんです。そうすると幅広く和洋中の料理ができるために膨大な量のレシピを覚える必要があるように感じるかもしれません。でもここにも法則があるんです」
たとえば、どんな料理でも塩の量は総仕上がり量の1%が基準。そのうえで、薄口醤油なら100ℊあたりの塩分量はおよそ16g、味噌(淡色辛みそ)は12.4g(日本食品標準成分表より)ということを知っていれば、あとは計算すれば使う量がわかります。料理の法則を認知するには、まず“はかる”ことが大事なのです。
逃げ場がないシェフレピ、背負っているものが違う
レシピがネットで検索しやすくなりました。そのぶん、たくさんのレシピがあって、何を参考にすればいいか、見当がつかず途方にくれてしまうこともあります。どんなレシピを参考にすると、料理上手に近づけるのでしょうか。
「料理を始めたうちは、できるだけ信頼できるサイトのレシピを見るようにするといいと思います。僕の経験からいうと、食品メーカーのレシピには外れがないですし、和食なら『白ごはん.com』で紹介されているレシピも信頼できます。あとは、調理師専門学校が公開しているレシピも、ハードルは高いですがしっかりしていると思いますよ」
稲田シェフがあげたようなサイトは「背負っているものが違う」と稲田シェフ。レシピの順序で作っても再現できなかったり、安全性が担保されないレシピであれば、直接的に自分たちの信用を落とすことになる。だからこそ、責任ある情報を発信することが必要で、それがレシピの信用になっているのです。
「そういった意味では、届いた分量分の食材で作るシェフレピは、成功させることこそが信用になっていくサービスですよね。お客様もそれをわかっているから信頼関係がある。レシピを作る側としては、とても逃げ場がない仕事だと感じています。毎回、背負っているものが重いですよね(笑)。だから、僕も真剣に絶対に成功させるというレシピを考えるようにしていますし、動画でも丁寧に説明をしています」
「ぜったいに成功させる」という強い決意がにじみでる稲田シェフの4回のレッスンには、伝統と逸脱、スパイスの法則、はかりグセなど、インタビューで話した料理上手になるためのヒントが詰まっています。
稲田俊輔●いなだ・しゅんすけ
料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て、友人が起業した「円相フードサービス」の設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店25店舗の展開に尽力。事業立ち上げやメニュー開発などを手掛ける。2011年には、東京駅八重洲地下街にカウンター席主体の南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理ブームをけん引する人気店のひとつになる。料理人、プロデュース業のかたわら、Twitter(@inadashunsuke)などで情報を発信し、「サイゼリヤ100%☆活用術」なども話題に。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』、『だいたい1ステップか2ステップ!なのに本格インドカレー』(ともに柴田書店)がある。
エリックサウス ▶ 店舗サイト
稲田シェフ ▶ Twitter
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
関連商品:「届いたスパイスから作るインドカレーの基本」