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中村和成|LA BONNE TABLE(ラ・ボンヌ・ターブル)
東京・日本橋室町にあるモダンフレンチレストラン「LA BONNE TABLE(ラ・ボンヌ・ターブル)」のシェフである中村和成さんは、自身のSNSや調理動画サイトでレシピの提供や出演を多数行ってきた“伝える側”の経験から、レシピを見たらまず「未来予想図」を描いてみることが料理上手に近づく方法だといいます。
つくりおきでは「おいしさの持続性」が大切
レストランで出される料理は、基本的においしさのピークが数分しかありません。
というのもアツアツの状態が一番おいしい料理や、アイスクリームのように時間が経つと溶けてなくなってしまう一瞬の料理を、普段では体験できない価値としてレストランで提供しているからです。ですので、私たちレストランで働く料理人は、時間経過をイメージし、お客様のもとに届いた瞬間が食べごろになるように時間を逆算して料理を作るようにしています。
一方で、「帰るのが楽しみになるつくりおきフレンチ惣菜」のようなつくりおきの料理は、「おいしさの持続性」というものを考える必要があると感じています。
レストランでは、たとえば食材がもつうま味を引きだすため、水分量を不快に感じないギリギリまで抜いていくようなことをします。肉の火入れも、火が通った瞬間を食べてもらえるように時間管理をします。今まで感じたことがない食体験を目指して、ギリギリのものをギリギリのタイミングで出す。それをチーム一丸になってお客様のもとに届けるのが、レストランの醍醐味です。
しかし、今回のようなつくりおきでは、瞬間的なおいしさよりも、おいしさをどう持続させるかということに重きをおいて考える必要があります。具体的には、水分や油分を操って食材のうま味を凝縮させること。レストランとはまた違った切り口で、食材の魅力を伝えることだと思っています。
とはいえ「おいしさの持続性」を意識した料理は、じつはレストランでも仕込みの段階でやっていることでもあります。つくりおきに近いようなものを準備しておき、提供する直前に瞬間的なおいしさを生みだす方法をとっているんです。
つまり、ご家庭でもつくりおきした常備菜をいくつかストックしておけば、それを出来たてが一番おいしいアイテムと組みあわせることで、ご家庭でコース料理のようなものをつくることもできます。お客様をお招きしたホームパーティーでも、前日につくりおきを用意しておいて、当日出すだけというようなこともできます。
気遣いや愛が料理をおいしくする
多くの人がすでにおっしゃっていることではありますが、「レシピを選んでその手順に従って料理をつくっていくこと」が、料理上手になる近道だと思います。そのうえで少しだけ付けくわえるとしたら、そのレシピを見て、出来あがりのイメージである「未来予想図」を想像してからはじめるともっとはやく上達すると思います。
たとえば火入れをするときは、火入れの仕上がりを想像するんです。自分が火入れしたらどういう料理になっているのか、目指そうとする未来予想図をもつことができれば、たとえ失敗したとしても、失敗の原因に気づくこともできるでしょう。
さらにおいしさを生みだすための未来予想図は、調理の行程だけではありません。料理を出す順番やテーブルの用意、食べはじめる時間などについても未来予想図を描いて、トータルでよりおいしく食べてもらうための事前準備ができれば、おいしい食事の時間が生まれます。そういった時間を生みだせる人が、料理上手なのではないでしょうか。
プロがおいしい料理をつくるというのは、積みかさねてきた技術や知識の面で長けていると思いますが、食材に気遣い、愛といったことを注いでいくのは、プロも素人もはっきりいって関係ないと思っています。
むしろプロでもそういった食材に意識を注ぐことがあまり得意でない人もいるくらいです。また、プロが毎日のようにお客様を相手にすることで、マンネリ化してしまう場合もあると思います。逆にそこは一般家庭の有利なところでもあるといえるでしょう。時間をたくさんかけることもできますからね。家庭料理がおいしいといわれるのは、気遣いや愛がやはり味わいに影響するのではないでしょうか。
もちろん今回のつくりおきレシピでは、プロの目線で、できるかぎりの技術や食の捉え方といったものを考えたレシピにしています。しかし、繰りかえしていいますが、食に対するホスピタリティはプロも素人もありません。私自身、家庭に向けたレシピのなかで、そういった食の魅力を、もっともっとお伝えできたらと思っています。
失敗するポイントは水分量の見誤りがほとんど
SNSのライブ配信で調理動画を配信しはじめてから、レシピ動画の撮影のご依頼も多くなりました。シェフレピさんを含めて、シェフが料理を教えることが当たり前になりつつありますよね。
そういった情報やモノの選択肢がたくさんあるなかで、レシピは見てつくれるだけでなく、完全に再現できるように導くことも必要なことになってきているように感じます。たとえ再現できなかったとしても、失敗した理由がわかるようなレシピをつくることも大事なことだと思います。
今は、私のレシピをみてつくった料理をSNSにアップしてくださる視聴者様でも、仕上がりがうまくいかなくても画像をアップしてくださることもあります。その写真を見ると、どこで失敗したのかがなんとなくわかるんです。
さらに視聴者様も自分がなぜ失敗してるのかをわかって投稿してることが多いように感じます。それを見て、私自身の動画での説明や伝え方を改善していく。つまりこの2、3年の間で私と視聴者様の間でのトライアンドエラーを繰り返してきたわけです。
その成果もあって今は、失敗しそうなポイントが動画を撮る前にわかるようになりました。具体的には、多くの場合、焦げてしまったり、煮詰まりすぎてしまったりということが原因で、つまり水分量で失敗していることが多いです。ですので、動画では水分調整のポイントが繰りかえし強調して伝えることで再現性が高まるようにしています。
もちろん今回のつくりおきレッスンでも、経験を活かして、失敗しそうなポイントを繰りかえし強調していますので、再現性高くレシピを完成させることができると思います。ぜひ、チャレンジしてみてください。
中村和成(なかむら・かずなり)
1980年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、調理師専門学校に入学し、フランス料理の道へ。東京・渋谷「シェ松尾」、東京・新江古田「レストラン・ラ・リオン」などで研鑽を積む。西麻布の「サイタブリア」に入ると、同店は2010年に「レフェルヴェソンス」としてリニューアル。次世代フレンチレストランとして注目を集めるなか、2012年からはスーシェフに昇格、2012年版の「ミシュランガイド」で一つ星を獲得する原動力の一つになる。2014年には、東京・日本橋室町にレフェルヴェソンスの姉妹店になる「LA BONNE TABLE(ラ・ボンヌ・ターブル)」がオープンすると同時にシェフに就任した。2020年1月からYouTubeに動画投稿を開始(現在の「KAZ PEANUTS【中村和成】」チャンネル)。コロナ禍による外出規制がはじまった2020年3月からは、レストランシェフのなかではいち早くInstagramによるライブ配信を開始し、家庭で簡単につくれるレシピの紹介や、さまざまなゲストを招いたコラボ配信などを継続的に行った。2023年7月6日時点でYouTubeチャンネル登録者数1.87万、Instagramフォロワー数1万。
YouTube「KAZ PEANUTS【中村和成】」:https://www.youtube.com/@kazpeanuts
Instagram:https://www.instagram.com/kazunari_labonnetable/
Twitter:https://twitter.com/labonnetablekaz
連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
関連商品:「帰るのが楽しみになるつくりおきフレンチ惣菜(5品セット)」