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イタリア料理人|関口幸秀
定番料理だからこそコツやレシピのポイントに気付きやすい
「くり返し作りたくなるイタリアンの定番料理」では、カルボナーラやミネストローネ、ボロネーゼといった、多くの人が一度は食べたり、作ったりしたことがあるような定番料理のレッスンコースを監修してくれたイタリア料理人の関口幸秀さん。誰もが知る料理だからこそ、レシピの違いや完成した味の違いに気づきやすいといいます。
「みんなが知っている料理は、知っているからこそ、あまり細部まで深く考えないことが多いのではないでしょうか。そこを深く掘り下げることで、料理がおいしくなる手法やテクニックといった本質的なことが学べるのではないかと思ったんです」
確かに、食べたこともない知らない料理を作るよりも、食べたことがあったり作ったことがある料理で学んだ方が理解度が高く、「あれ、このやり方は今まで知っていたものと違う」と気付くことが多いはずです。
「もう一つ、料理の名前を知っているというのは、長く残ってきた味でもあるからだと思います。もちろん味や作り方に変化はあったとしても、それは時代から求められてアップデートされてきたもの。たくさんの人が何回も作ってきた料理でもあります。ということは、おいしく作れる可能性も高いということです」
たとえば今回のレッスンのSTEP2の「野菜たっぷり具沢山ミネストローネ」なら、「ミネストローネはトマト味の野菜スープ」として覚えてしまうと、それ以上考えを進めることはなかなかできません。しかし、今回はあえてトマトを使う量を少なくしてミネストローネを作ってみると、それぞれの食材から出たうま味がスープに溢れていて、トマトを加えなくても十分においしいスープができることがわかります。実際にイタリアでも、トマトが主張しないミネストローネも多くあります。
「とくにイタリア料理は、同じ名前の料理でも地域によって使う食材やレシピが違ったりします。どちらが正しいということではなく、『自分はこっちの味の方が好みだよね』というふうに違いがわかって比較できる人は、アレンジや応用もできるはずなので、料理上手だと思いますね」
誰もが知っている味だからこそ、人それぞれにおいしさの基準がある。今回のレッスンでは、「普段食べているものとはちょっと違う」とわかるようなレシピにあえてしたといいます。
「出来あがった料理の見た目が写真映えするものではないのですが(笑)、お店の味よりもおいしくできたと思えるような、今まで作った料理のなかでNo.1を目指せるレシピになっていると思います。珍しい材料を使っているわけでもありませんので、何度も挑戦することもできます。このレシピは『関口のレシピ』だなんて僕は思っていません。何度も作ってもらって、あなたの『最高のレシピ』にしてもらえたらうれしいです」
味見をする習慣をつけると料理がおいしくできる
パンチェッタを作るのに8日間、ボロネーゼも2日間、じっくり時間をかけたレシピが多いですが、関口さん自身は「やらなくていいことはしたくない。基本的に僕は、めんどくさがりなので」と笑いながらも、おいしく作るためには丁寧に作り、じっくり時間をかける方法をとるといいます。それは、時間をかけてする理由があり、その効果も知っているからです。
「でも、時間をかけたから必ずおいしくなるわけではないんですよ。たとえば、『2日間かけて作る本格ボロネーゼ』では、2時間も香味野菜を炒めてソフリットを作ります。作ってみるとわかると思うのですが、2時間かけたソフリットは、途中のものとはあきらかに味が違う。これが出来あがったボロネーゼのおいしさになっていくのだから、この工程は省けないですよね。おいしくする一番の近道が2時間炒めるのであれば、省かずしっかり時間をかけたいんです」
一方で、「野菜たっぷり具沢山ミネストローネ」で紹介しているバジルのペーストでは、ミキサーを使ってペーストを作っています。バジルをすり鉢などですりつぶした方がおいしくなるという人もいますが、関口さんは、ミキサーを使った方が緑の発色もよく香りも残ると考えています。「作る時間が短くておいしいにこしたことはない」。仮に進化した調理機器が出来てソフリットを作る時間が短くなるのなら、どんどん取り入れていきたいといいます。
さらにレッスンで関口シェフは、完成したものの試食だけでなく、調理途中の経過も味見するように話しかけてくれています。リアルの料理教室のように画面の向こうの人と一緒に料理を作っているように感じる以外にも「味見」は、料理上手になる大事なポイントです。
「一般的な作り方では、なぜ今塩を加えるのか、なぜ30分間煮こむのかは説明されていなかったりします。やる前とやったあと、その段階を知る。『2日間かけて作る本格ボロネーゼ』では、炒め初めと、途中の2度、最後と合計4回の味見をしました。きっとそれぞれの味の違いがよくわかると思います」
そのうえで、どの段階で炒めるのをやめるかなど、変化を知ることで決めやすくなります。関口シェフのレシピを自分のものにするためには、自分の舌で確認することが一番。調理中の味の変化を意識するようになると、ほかの料理を作っていく際にも、おいしく作れる確率が上がり、失敗する確率も下がっていくのです。
「そういう点では、ミネストローネを煮込んでいる際の味の変化はわかりやすかったと思います。煮込みはじめから、途中、終わりまで、野菜がくたっとしてきてから、どれくらいでスープにうま味がでてくるかなど。そのなかで、『野菜を食べている』感じがわかるところで煮込み終えるとよいということが伝わったのではないかと思います」
「どんなシチュエーションで料理を食べるか」を想像する
「適切に時間をかけて作る」と「味見をしながら変化を感じる」、料理上手を目指すためのポイントを教えてくれた関口シェフ。料理を作るなかで意識しておくことのほかにも、「どんなシチュエーションで料理を食べるか」を想像し、それにあった料理を作れることも料理上手の条件だといいます。
「食べる場所の環境、それを作る人、一緒に食べる人がどんな人なのかによっても作る料理の味の感じ方は変わってきますし、味付けや盛り付け、カトラリーなどの準備も変わってきます。だから気が利く人だったり、場の空気が読める人は料理上手だと思うんです。僕はそこが得意だと思っています」
たとえば屋外で振る舞うバーベキューと、パートナーの誕生日で振る舞う料理はシチュエーションが違います。バーベキューなら、普段家では食べられない骨付き肉をかぶりつくような料理にしてもいいですが、誕生日の料理ならナイフとフォークでおしゃれに食べられる方がいい。食べる人を想像して料理を作ることで相手においしいと感じてもらう。あくまで料理上手かどうかは、自分で決めるのではなく、料理を食べた相手が決めることでもあるからです。
「ファミリーレストランの『サイゼリヤ』も高級ホテルのレストランも、それぞれの環境にあった料理を的確に作って運んでくるからすばらしいのであって、どちらがおいしい料理なのかということではないと思うのです。そのことは、ご家庭での『料理上手』の話にも通じることだと思います」
それは、思いやりがあればどんな料理も相手はおいしいと感じてくれるという意味ではなく、相手を思うことで「もっとおいしく作って食べてもらいたい」という思いが生まれてきたときに、料理がどんどん上達していくということです。「気の利く人は、料理が上手になるのが早い」という関口さんのアドバイスは、「料理は愛情」という昔からある教えと同じようなことなのかもしれません。
関口幸秀●せきぐち・ゆきひで
千葉県市川市出身。首都圏でグループ店を展開するイタリアンレストラン「カステリーナ」の統括料理長の経て、現在は独立準備中で、フリーランス料理人としても。Twitterでは、おせっかい料理人として #教えて消費レシピ などで、料理人が考える家庭のレシピを伝える。 #教えて消費レシピは、Buzzfeedなどのメディアにも取り上げられた。2019年の台風被害によって始まった#CookForJapanのメンバーでもある。2021年6月には#CookForJapan×食べチョクのポップアップレストラン「RESQ」のメインシェフを務めた。
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連載「料理上手になるには」は、シェフレピでレッスンを監修しているシェフたちに、味付けや調理の上手さだけではない、日々の暮らしのなかで心地よい食生活を送っている“料理上手”な人たちについて話してもらう連載企画です。
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